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政治家と犯罪組織も踊る「リオのカーニバルの闇」

2月20日から3日間の日程で行われたブラジル最大のお祭り、カーニバル。復活祭前の40日間に、肉を断ち禁欲的な生活を送る前4日間の、肉食に別れを告げるためのお祭りだ。

リオデジャネイロでは1928年に初のカーニバルチームがスラム街に誕生し、30年代にパレードのコンテスト制が確立。リオデジャネイロではその他にもブロッコとよばれる地域寄り合いのカーニバルが有名だが、世界中で報道される、「地球で最も熱狂的なショー」、いわゆる「リオのカーニバル」とはこのコンテスト形式のカーニバルのことだ。

レベルが最も高いスペシャル・グループに所属する12チームが、2日間にわたり名誉をかけて得点を競いあう。これらのチームはスラム街など貧しい地域に隣接しており、サンバ・カリオカと呼ばれる音楽が広がった貧民街でカーニバルチームが誕生した歴史を反映している。チームの主役であるスラム街出身の人々を中心に、熱い闘いの中に毎年感動的なドラマが生み出される。

カーニバルは、ブラジルに大きな観光収益をもたらすイベントでもあり、世界各国から70万人の観光客を惹きつけた。

2009年は不況の影響で外国人観光客は減少しているが、海外に赴かないブラジル人観光客が増加しており、観光収入は昨年の5億ドルを上回る予測だという。一般の人が購入する仮装衣装の値段が20%上がったり、カーニバル用品店の人員削減などが報道されているが、カーニバル期間の臨時雇用は昨年並みである。またブラジル国内での失業者の増加、職を失った日系ブラジル人の日本からの帰国報道も大きく取り上げられている。それでも地元紙は不況を吹き飛ばすカーニバルの経済効果をこぞってたたえている。不況下でもカーニバルの威力はまだまだ衰えていないといえるだろう。

このように巨大な経済効果をもたらす「リオのカーニバル」を率いる中心的存在は、毎年コンテストで上位を占める12のチームである。これらのチームはカーニバルの主役であり、そしてリオデジャネイロの犯罪、政治と深く結びついた黒幕でもある。カーニバルを愛する人々のドラマの裏に見え隠れする闇の動きは、地元では暗黙の了解となっている。チームは地元地域の人々にとって情熱を傾ける存在であると同時に、経済的、政治的に大きな影響力を持つのだ。

サルゲイロが2009年の優勝チームと決まった次の日の新聞は、サルゲイロをたたえると共に、その闇の部分を大きく報道している。「多くの血を流したサルゲイロの争い」と題された記事は、2004年の名誉会長、2008年の現会長の親族の暗殺未遂事件など数々の暗殺事件を例に挙げ、チームの権力争いに関わる犯罪組織、警察などの存在を浮き彫りにしている。

ほとんどのチームは特定の政治家と結びついている。2008年の優勝チームであるベイジャフロール(Beija Flor)は、ニロポリス市の次期市長選の候補者を推しており、ヴィラ・ドゥーロ(Vira Douro)も特定の市長候補の後押しをしている。グランジ・リオ(Grande Rio)は、現バッシャーダ・フルミネンス市長を支持したことで新しいチームの練習場を獲得した。チーム会場で、練習の合間に突然行われる政治家の挨拶は日常茶飯事となっており、地元民は闇の勢力との結びつきを認識しているが黙認している。しかし政治家は、リオデジャネイロで勢力をもつ退職警官で構成される犯罪組織と繋がっており、チームと政治の結びつきが犯罪を助長していると指摘されている。

そしてチームが麻薬や賭博など犯罪組織の温床となっているのも事実だ。特にジョーゴ・ド・ビッショ(Jogo do Bicho)と呼ばれる違法賭博の組織者に、カーニバルチームの有力者が名前を連ねていることは有名だ。ビッシェイロと呼ばれる賭博組織者はカーニバルチーム、リオデジャネイロカーニバル協会、裁判所、警察、政治家と密接に結びつき、様々な違法行為に着手しているのだ。

コンテストでの詐欺事件で2007年に逮捕されたアニージオ・アブラーアウン氏(ベイジャー・フローの名誉会長)とアイウートン・ギマラエス氏(リオデジャネイロカーニバル協会=LIESAの社長)も有名なビッシェイロだ。アイウートン・ギマラエス氏は軍事政権時代の軍人で、政治犯への拷問容疑がかけられ、詐欺での逮捕を経ながらも2009年のカーニバルにはまだ大きな影響力をもっているといわれる。各チームの有力者の派手な逮捕劇や暗殺事件などが大きく報道されるが、実態はほとんど変化がないのが実情だろう。

またマンゲイラと麻薬組織の関係は有名だ。チーム会場の一部を、麻薬組織に事務所として提供したり、麻薬組織主催のパーティーがチーム会場で行われたりしている。2008年には会場内に、警察対策用としてつくられた麻薬組織構成員専用の秘密の抜け道が発見された。この事件にはさすがに世間も驚愕したが、マンゲイラのみでなく、チームと麻薬組織の関係は根深い。麻薬組織はジョーゴ・ド・ビッショとかかわりが強く、ジョーゴ・ド・ビッショはカーニバルチームと繋がっている。カーニバルチームは政治家、警察、元警察官の犯罪組織と繋がっている。そして名目上警察は犯罪組織を追いかける。まるで円を描くように、汚れた組織が巡回する。映画「オルフェ」(カルロス・ヂエギス監督 1999年)に描かれたカーニバルと犯罪の関係は、上映から10年経った今、変わらないどころかますます強くなっているのだ。

近年のカーニバルは観光産業面が大きく打ち出され、さらにスポンサーの意思が影響を及ぼし、カーニバル自体の芸術性も問われるようになってきている。一方で2009年は金融危機の影響で各チームのスポンサーが離れたり、助成金が減ったりした。華やかなパレードが興奮の渦に包まれる中、各チーム主催者は来年の資金獲得合戦に夢中だ。

カーニバルを愛する人々、特に自分のチームを誇りに思いチームの旗と共に生きるスラム街の人々の思いとは反比例して進むこれらの動きには、常に懸念の声があがってきた。しかし人々の情熱と興奮に事寄せて増長するこれらの動きは、リオデジャネイロの政治経済の動きに大きく関わっており、表面的除去のみでは解決しない。カーニバルの魂に立ち戻ろうという人々、観光産業化を強調する人々、今後もその存在をかけた議論が活発になりそうだ。

▼サルゲイロ2009年(優勝チーム)
http://www.youtube.com/watch?v=ghBKf_ejac0

▼ベイジャフロール2009年
http://www.youtube.com/watch?v=EOVOfRYiofQ

▼マンゲイラ2009年
http://www.youtube.com/watch?v=cYaoMmFFS0k

▼ジョーゴ・ド・ビッショ(Jogo do Bicho)のショート・ドキュメンタリー
(ポルトガル語)
http://www.youtube.com/watch?v=DSwpuWPhcbQ

▼マンゲイラの練習会場で秘密の抜け道が発見されたときのニュース
http://www.youtube.com/watch?v=ri8uXG85XLo


【編集部ピックアップ関連情報】

○MediaSabor  2007/10/31
 ヒーロー(BOPE)が綴る、公式犯罪告発映画「Tropa de Elite」は
  ファシズムか
http://mediasabor.jp/2007/10/bopetropadeelite.html

 

 


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