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韓国で始まった低所得層携帯電話料金減免制度

 乳児を背負った女性が携帯電話を片手に笑顔で通話をする姿と共に「Kさんの1ヶ月の携帯電話料金が赤ちゃんのミルク代になりました。」という字幕が流れる。こんなCMが最近、韓国で放映されている。実は、これ、昨年始まった低所得者向けに日常生活で利用している携帯電話の料金が減免になるという制度のCMだ。

 制度の正式な名称は「低所得層携帯電話減免制度」。世界的な不況の中、低所得者層を中心に通信費の出費の負担を福祉サービスの一貫として減免によって抑えようというこの制度、元々は日本の生活保護に当たる基礎生活保障受給者の家庭の18歳未満の青少年と65歳以上の高齢者、さらに重度障害者を対象に、携帯電話の基本料金と通話料のそれぞれ35%を減免という形で行われていた。

 しかし、韓国の通信政策を管理する韓国放送通信委員会の調査によると、韓国で家計消費に占める出費の中でも携帯電話や一般電話の通話料、ネット利用料など通信費の占める割合が高い傾向にあり、特に低所得層の世帯での携帯電話の利用料が高いウェイトを占めているという結果が出た。また、全体的に一般電話よりも携帯電話の加入率が高いという点にも着目し、放送通信委員会がこの携帯電話減免制度の対象を従来の対象者の条件を緩和し、その範囲を基礎生活保障受給者(対象年齢を廃止)、重度障害者に加え、低所得層家庭にも広めたのである。

 新たに低所得層家庭を加えた制度の詳細な減免内容の内訳が韓国放送委員会のサイトで紹介されている。基礎生活保障受給者と低所得層家庭、携帯電話の利用頻度によって減免額が異なるが、基礎生活保障受給者は月々の基本料が全額免除と通話料50%の減免で、低所得層家庭は、月々の基本料金と通話料が各35%減免されるという内容。例えば、基礎生活保障受給者で月の基本料が13,000ウォン(800円)と通話料が17,000ウォン(1,050円)で合わせて30,000ウォン(1,850円)のプランの減免を申請した場合、自己負担額は8,500ウォン(525円)のみになるという訳だ。また、新規で携帯電話に加入する場合、通常、30,000から50,000ウォン(日本円で1,800から3,000円)程度かかる加入料金も、制度の利用者は一切免除。制度の申請は申請者が住民登録をしている地区の洞事務所(日本の市町村役場とその支所事務所に当たる)で受給証明や収入証明と身分証明を提出の上、申請できる。

 こうして、韓国放送通信委員会と韓国の携帯キャリア3社(KTF、LGT、SKT)の間で合意が結ばれ、2008年10月1日に施行された。しかし、制度が施行され4ヶ月が過ぎたものの、事前のPRが不十分で認知度が高まらなかったこともあり、予想よりも申請者数の出だしは鈍く、放送通信委員会では3月に新年度を迎えるに当たり、現在、TVやラジオを通じたメディアによる広報PRを盛んに行っている。そして、今後は低所得層向けの通信費減免制度を携帯電話にとどまらず、一般電話やブロードバンドにも広げて行く考えだ。
 
 国と携帯キャリアが組むという日本にはない福祉サービスが斬新で、「さすがはITと携帯の大国」という印象を受けるが、問題点もある。「低所得層携帯電話減免制度」の施行による年間の減免金額は総額約5,050億ウォン(約312億円)にのぼると見込まれているが、これらの負担は全てキャリア3社が持つ。

 現大統領の李明博政権の政策に福祉サービスの充実と、通信費の割引を積極的に取り入れることを掲げていることから、制度の拡大と実現を急いだものと見られる。制度を長期的にバランスよく持続させていくためにも、一般の携帯利用者からも満足のいく割引制度を求められる可能性も視野にいれつつ、減免の負担をキャリアだけに丸投げするのではなく、減免額の折半などの対策が必要となって来るであろう。


※1韓国ウォン=0.06円(2009年2月23日現在)

▼韓国放送通信委員会のサイト
http://eng.kcc.go.kr/

 

 


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