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米国ファッション業界人を悩ませる、増えすぎたラスベガスのトレードショー

2月16日(月)。プレジデントデーにも関わらず、休日返上でラスベガスにはファッション業界人たちが次々到着。早朝に降った雪のせいで、多くのセールスマンが途中のハイウェイで足止めを食らうなど、これから待ち受けるショーの厳しさを予言するかのように、往路から暗雲が立ちこめる。

「MAGIC」と呼ばれる米国アパレル業界最大のトレードショーが、ラスベガスで開かれるようになって今年でちょうど20年目。もともとは1933年にカリフォルニアで作られたファッション業界の一組織、「Men's Apparel Guild in California」が主催する地元バイヤーのための展示会が始まりだった同ショーは、あっという間にこの20年で世界規模のショーとなった。トレードショー専門誌の「Tradeshow Week」の調べによれば、年2回行われるMAGICは、2回ともに全米で、集客並びに規模においてトップ10に入る。期間中には、10万人以上の業界関係者が米国内、世界中から集まると言われている。

しかし今年は様子が違ったようだ。ショーの前から、100年に一度の大不況と謳われたこの経済状況で、多くのブランドが出展を見合わせたり、またバイイングを見合わせるブティックも続出。コンベンションセンターの全ホールを使用して開催していたMAGICの主催社、MAGIC Internationalが、サウスホールを全く使わないと判断した時点で、ショーそのものの規模が大幅に小さくなるのでは、と業界関係者の間で話題であった。

しかし、ふたを開けてみれば、ショーの規模が小さくなったのではなく、「分散」しただけだったようだ。ラスベガス中を利用して、同期間に様々なショーが小規模で開かれた結果となったのだ。例えば、ホテル「Wynn」では、ニューヨークベースのトレードショー会社ENKが主催するENKVegasが開かれた。人気ブランドのHard Tailや、J Brandなどが出展。また同じくニューヨークで人気のショーCapsuleも今回はじめてラスベガスへ進出してきた。

「今回は本当に参ったわ。いつもと全く様子が違って、どこに何のブランドが出展しているか、全然分からないの。色々な場所でショーが開催されているし、ブランドがあちこち動いていて、予定していたスケジュールで動けなかったから、とても疲れた」とは、スイスのジュネーブから買い付けのために毎回渡米しているブティックFamous Apeのバイヤー、アレイン・デソーウジス。短い滞在予定で、いくつものショーでの買い付けは、気力も体力も相当必要だ。

どんなに各ブランドが事前に告知をしていたとしても、ラスベガスに到着するまでショーの詳細や全貌が見えないのがこのラスベガスのショー。さらに今回は、過去2年人気を誇ってきたProjectショーが、多くのブランドに対して、自身の規模の縮小を理由に出展依頼を断った。その結果、これまでProjectで商品を展示してきたブランドが、路頭に迷うこととなったのだ。

多くのブランドは、Projectの親会社であるMAGIC International の主催するMAGIC本体へ移ったり、エッジの効いたブランドを集めているPOOL TRADE SHOWに出展することを決めたが、中には先に挙げたENKVegasやCapsuleに乗り換えたブランドも多い。

「Projectは私くらいの小さなショールームが出展しても、はっきり言って全然儲けにならないの。でもショーに出ていることで、毎日のセールスにどれほど影響があるか。Projectに出展しているというだけで、ブランドや自分のショールームに箔がつくのよ。それにしても今回の出展拒否には参ったわ。あわててPOOL TRADESHOWに乗り換えたけど、ENKやCapsuleなんてショーがあったなんて知らなかったわ。それにしても腹がたつのは、結局Projectもあまりこれまでと規模を変えてないって噂。すごくハイエンドなブランドだけを集めるということだったのに、話しが違うわ。」とは、ロサンゼルスでショールームを営むマリー・ブレナン。

8つのハイエンドブランドを扱う彼女にとって、ショーに出展していることはまさに「広告宣伝と同じ」だそうだ。「日々の営業活動に重要な土台作りにもなるし、何よりも日本やヨーロッパなどの信じられないほど大きなアカウント(顧客)を偶然にも得られるチャンスがある」と話す。

それにしても、なんと業界泣かせなのだろう。出展者にしても、バイヤーにしても、ここまでショーが分散して、さらにいずれもほぼ全く同じ日程で開催となると、なにより非効率である。同じショー主催社であるMAGIC InternationalのショーであるProjectに限っては、コンベンションセンターから最も遠い場所の一つ、Mandalay Bayで開催された。各ショーをつなぐ移動バスがあるとはいえ、時間のロスが出ることには違いない。

ある業界人は「ファッション業界のトレードショービジネスほど、利益があがるビジネスモデルはない」と言い切るほど。つまりこれだけ分散したトレードショーの乱立は、特に西海岸のファッション業界が究極の競争社会にいる状態であることを示している。さらなるブランド認知を求めるファッション企業ほど、トレードショーの格好の餌食だとはいえないか。本来は、ビジネスチャンスを求めるアパレル会社とバイヤーの架け橋となるはずの展示会は、いまや両者を悩ます種となっている。今後さらに実態経済の状況が厳しさを増す中で、次のショーが開催される8月のラスベガスは、一体どんな様子になるのだろうか。

http://www.apparelnews.net/news/tradeshows/Las-Vegas-Shift-New-Players-Smaller-Shows-More-Venues/print

http://www.lvrj.com/business/39770842.html

http://www.lasvegasweekly.com/blogs/the-playground/2009/feb/17/names-arent-just-labels-magic/

http://www.kvbc.com/global/story.asp?S=8904657

 

 


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