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オバマ米大統領とカナダの意外な関係

 “Change”を引っ提げて、オバマ米大統領がカナダに降り立った。エアフォースワンから駆け足で降りてくるその物腰柔らかな立ち居振る舞いに、アメリカ大統領という大きな立て看板は外れているように見えた。そしてこの日、首都オタワは一日中オバマフィーバーに沸いた。

 大統領就任後の初外遊先としてカナダを選んだのには、やはり地盤がシカゴということが大きい。テキサス出身のブッシュ前大統領は初外遊先にメキシコを選んでいる。

  しかしそれだけではない。オバマ大統領とカナダには意外な接点があるのだ。

 2月19日、この日はオタワにオバマ旋風が巻き起こった。以前紹介したカナダ国民の『アメリカアレルギー』(http://mediasabor.jp/2007/07/post_168.html)はどこへやら、大統領の行く先々に一目彼を見ようと大勢の人が群がった。

 そして最もカナディアンを興奮させたのは、記者会見を終えた後、空港へ向かうルートを変更して近くのマーケットに立ち寄ったことだ。マーケットは思いがけない大統領の来店に騒然となっていた。

その様子はYou Tubeでチェックすることができる。
http://www.youtube.com/watch?v=toKCBIbjH30&feature=related
http://www.youtube.com/watch?v=dLg7XKeDzHw&feature=related

 テレビ局の生中継映像だが、カナディアンの興奮ぶりがよく分かる。テレビのリポーターですら少々興奮気味だ。

 そして、オタワで長い歴史を持つこのベイワード・マーケットは、この日以来全国的に知られることになり、客数が急増、ちょっとした経済効果に沸いているという。大統領選挙期間中から続けているという立ち寄った場所で必ず娘のために記念品を買って帰る大統領が購入したキーホルダーと、ベーカリーで受け取ったメープルクッキーはその後も飛ぶような売れ行きらしい。メープルクッキーはこの日以来、『オバマ・クッキー』と名前を変え、クッキーそのものがセレブとなっている。その興奮冷めやらぬマーケットの様子も、もちろんYou Tubeで見ることができる。
http://www.youtube.com/watch?v=1ukiuxrXpd4


 米加関係はこれまで決して友好的とは言えなかった。世界中のどの2国間よりも密接にかかわり、お互いの経済依存度は他国を圧倒しているという関係にありながら、いや、それゆえに摩擦も多い。その摩擦度はブッシュ前大統領時代のイラク攻撃で頂点に達し、カナダ国民はその傲慢なやり方にあからさまな嫌悪感を示した。

 それがオバマ大統領の出現で今“Change”しつつある。これまでの歴代大統領訪問で反対デモはあったとしても、ここまでのフィーバーぶりはなかったはずだ。たとえそれが人類60億人の期待を背負ったニューヒーローであるにしても、これまでの米加間の歴史から言えば少々異常気味に映る。

 しかし、カナダにはオバマ大統領を親しく感じる、政治とはまったく別の要因がある。それは、大統領がカナダと個人的に結び付きがあるということにある。記者会見でも触れていたが、オバマ大統領の義理の弟はカナダ人である。「カナダを代表する彼の役割は大きいに違いない」とカナダのテレビ解説者が笑っていた。それにオバマ政権には二人のカナダ人スタッフが起用されている。チラチラと見え隠れする側近カナダ人の存在が、バラク・オバマという人物への親近感をもたらしている。さらに、彼がブラックベリー愛用者であるというニュースもカナダ人の優越感を少しくすぐった。

 歴代大統領で初めて携帯電話を常時使用することが許されたオバマ大統領の携帯は議員時代から愛用しているブラックベリー。セキュリティの関係で機種までは公表されていないが、最新のBoldではなくかなり古い型だそうだ。ブラックベリーの製作販売会社リサーチ・イン・モーション社はそのセキュリティ対策に全面協力したという。カナダではかなり大きなニュースになった。

 こうした政治とは関係のないつながりが、親近感を与え、オバマ大統領とカナダとの距離を近づけている。アメリカへの国民感情をも和らげているに違いない。カナダ国内のオバマ大統領への支持率はアメリカを上回る80パーセント台に達していることをみてもその期待度がうかがえる。

 大統領就任式のとき、テレビインタビューを受けていた在加アメリカ人女性が、「これで胸を張ってアメリカ人と言える」と言っていたのが印象的だった。

 記者会見の最後“I love this country”とカメラに向かって笑ったオバマ大統領は、米加友好親善大使という歴史的な役割をひとまず無事に果たし終えた。
 


【編集部ピックアップ関連情報】

○中岡望の目からウロコのアメリカ 2009/02/28
 「オバマ政権の外交始まる:海外メディアが見た大統領、
 副大統領、国務長官の海外訪問」
 オバマ大統領は最初の海外訪問国にアメリカの最大の貿易相手国である
 カナダを選びました。NAFTA問題、バイ・アメリカン問題と米加の
 通商問題が課題になっています。バイデン副大統領は欧州を訪問し、
 ブッシュ政権で傷ついた米欧関係の修復をおこなっています。
 クリントン国務長官は2月16日に最初の訪問国に日本を選び、
 インドネシア、韓国、中国と歴訪しました。オバマ政権では、大統領、
 副大統領、国務長官とそれぞれ役割を分担しながら最初の外交政策が
 行われました。
http://www.redcruise.com/nakaoka/?p=279

 

 


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