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ネットブックの次は、低価格クラウドビデオカメラが市場の脅威に

2008年、台湾のASUS社が発売したEeePCは、たったの一年足らずで、20万円台のノートPC価格を、完全に約1/4の5万円台「ネットブック市場」へとシュリンクさせてしまった。後々の世界で、ネットブックはきっと「不景気PC」と呼ばれていることだろう。今度は、その展開がビデオカメラ市場で起きようとしている。

PC市場の価格シュリンクは、ハードウェアだけの問題であったが、ビデオカメラ市場は、それだけでは終わりそうにないようだ。

ビデオカメラのマーケットは1984年ソニーの一体型ビデオカメラ(かつてはカメラ部とレコーダー部が分離していた)「ハンディカム」によって誕生した。そして、1989年、当時はパスポートサイズ(※現在のパスポートよりも大きかった:http://www.sony.jp/products/Consumer/handycam/INFO/history/index.html)といって、録画と再生が可能で、よりコンパクトになり価格が20万円を切り、普及していく。

当初テープは8mmビデオ。そして、それがHi-8へと進化していく。1995年、miniDVテープが登場してからは、PCでの編集やダビング時での劣化がなくなった。

そして、いまやデジタルハイビジョン時代。PCの編集もCPUパワーや豊富なメモリ領域が求められている。さらに、テープからHDDやシリコンメモリへと録画媒体が次々と変化していく。

ビデオカメラの画像はハイビジョンなのに、保存メディアがSDクオリティのDVDであったり、ハードディスクに残すのか? ブルーレイに残すのか? などと、高機能ゆえ「選択のジレンマ」に陥るようになった。

コンデジ(コンパクトデジタルカメラ)と呼ばれるデジタルカメラのビデオ機能、そして携帯電話のビデオ機能も進化してきている。サンヨーのXactiや、ビクターのEverioという日常ビデオ用の機器も登場し、防水機能などのユニークな機能を備えたものが登場している。

ネット上での動画共有サイトYouTubeもハイビジョンクオリティに対応できるHQ(ハイクオリティ)モードが用意され、個人がネット上に容易にパブリッシュでき、広告によって収益を得られるようになった。以前とはまったくちがった、想像しがたい動画環境が整っている。

高機能、多機能を売りに進化するビデオカメラが販売される中、iPodのような形状で、超低価格でシンプルなビデオカメラが2007年アメリカで誕生した。

Pure Digital Technologies社のFlipVideo(http://www.theflip.com/)である。

これはASUS社のEeePC投入の時と酷似している。

実売価格は100ドルを切る98ドル(現在は$129.99)で発売され、10万円台後半中心のビデオカメラ市場に大きく食い込んだ。撮影された動画が、YouTubeなどにもアップされ、日常での使用ならばこのクオリティでも十分という空気を生んだ。

シンプルなボタンは、録画のスタートと停止そして再生の機能だけしかない。しかも30分間の録画だ(現在は60分モデルから)。特徴は、本体から飛び出すまるで尻尾のようなUSBコードだ。

ソフトもビデオ本体に内蔵されており、PC側には何も必要がないという特徴で登場した。
決して高機能ではないが、コードをなくしたり、ソフトをインストールするという不便を驚きの低価格とともに解消した。そして何よりも、録画の保存方法がユニークだった。録画データはYouTube上に、という初のクラウド型ビデオカメラのコンセプトなのである。

そう、今までのビデオカメラは、撮影することが主たる目的で、実はあまり視聴されることがなかった。しかし、FlipVideoで撮影した動画は、編集することもなくYouTubeに短いクリップでアップロードしていくことができる。個人視聴を設定すれば、他人に見られることもない。

特別な宣伝をしなくても、YouTube上のコマーシャルはたくさん視聴されはじめた。
http://www.youtube.com/watch?v=tw1-CAdBinM&feature=PlayList&p=CEBC808FC18DDBCC&playnext=1&playnext_from=PL&index=9


米amazon.comのビデオカメラ、ランキングでは現在でも上位を独占している。
http://www.amazon.com/Camcorders-Camera-Photo/b/ref=amb_link_6923242_24?ie=UTF8&node=172421&pf_rd_m=ATVPDKIKX0DER&pf_rd_s=gp-center-5&pf_rd_r=021PFNFN8ST77RAX7DTC&pf_rd_t=101&pf_rd_p=448566001&pf_rd_i=502394

ハイビジョン版の、Flip Mino HD 229.99ドルも登場している。

さらに2009年からは、多彩なカラーモデルが登場し、自分の持っている写真を本体にコーティングできる究極のカスタマイズサービスまで登場し、世界に一台だけの自分のビデオカメラがオーダーできるようになった。カラーもユニクロのフリース並のアイテム数が並ぶ。パターンジェネレイターというソフトもあり、無限のデザインをオーダーできるというシステムを作り上げた。もはや、ビデオカメラがオリジナルTシャツ同様のメッセージ性を持ちはじめたといえよう。

環境保護団体カラー
http://www.theflip.com/store/designs/category.aspx?cat=flip_for_good

自分の写真でデザインできる
http://www.theflip.com/store/designs/upload.aspx?cid=f3

パターンジェネレイター
http://www.theflip.com/store/designs/generate.aspx?cid=f4


密かに、FlipVideoの価格破壊戦略が崩壊することを期待していたメーカーも、これ以上は静観できなくなってきた。これもネットブックの市場制覇過程と似ている。静観するか、対抗できる製品を開発するかのどちらかしかない。

日本では、クリエイティブ社が「Vado」「VadoHD」を発売。
http://jp.store.creative.com/recommend/vadosp/welcome.aspx
VadoHDで19,800円
Vadoで9,800円

ソニー社は、米国でMHS-CM1 Webbie HDを199.99ドルで発売し、MHS-PM1 Webbie
HDを169.99ドルで2009年04月に発売予定。

amadanaブランドを展開するリアルフリート社は「SAL」
http://www.amadana.com/sal/top.html
を2009年04月17日から予約開始で、05月22日より19,950円で発売する。

また、これもネットブックを投入した台湾企業に対して、周回遅れで参入した日本企業のようになりそうな予感。ソニーは海外では発売を開始したが、日本ではカニバリズム(共食い)を恐れて参入しない模様。これが後で、参入障壁を生まなければよいが…。

また、無線LAN搭載SDカード「Eye-Fi」もiPhoneの無料アプリを発表。Eye-Fiの購入者は、SDカードのないiPhoneからの画像も無線LANや3G回線からアップロードできるようになった。

Eye-Fiとは、デジカメのSDカードスロットに装着すると無線LANを経由して、写真共有サイトやPCへの転送を可能とするデバイス。

今までのデジタル機器は、単一機器の機能や価格での勝負であったが、現在のデジタル機器市場においては、インターオペラビリティ(相互接続性)だけでなく、それらがマッシュアップされた次のステージをも照準にいれておくべきだろう。単一デバイスでも、それがクラウドコンピューティング環境でどのように展開されるか? をイメージしなければならない。単に写真やビデオというカテゴリーではなく、何にダウンロードされて、どこで視聴されるのか、それによって、どのように人々のコミュニケーションに影響を与えるのか?

ビデオカメラにGPS、ブログへの動画添付、無線LAN接続、YouTubeでの公開、視聴者参加型投稿コマーシャル映像、iPhoneアプリ、いろんな映像の世界がクラウド化することによって、新たなマーケットと新たな映像文化が再構築されようとしている。

 

 


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