Entry

WBCに冷めきっているアメリカの反応

オールスターが各国の威信をかけて競い合うワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、ベースボール・ファンにとっては夢のようなイベントのはず。しかしながら、そのベースボールを国民的娯楽と呼ぶアメリカ本国での冷めた反応は隠せない。「何かがおかしい」「やめちまえ」と辛らつなスポーツコラムもネットに溢れている。

まずは観客動員。米国内で開催されたラウンド2における動員数は合計206,180人。1試合平均17,181人、集客率42.3%で観客席の半分も埋まっていない。バド・セリグMLBコミッショナーは「よくやっている」とコメントしているが、2006年のラウンド2合計283,880(平均23,656人)から動員が落ちているという事実は否めない。


3月17日サンディエゴ、ペトコパークでの日本--韓国戦。
観客動員15,332人のほとんどはアジア人。2階席はほとんど空席。

3月17日のアメリカ―プエルトリコ戦。メッツの若大将デイヴィッド・ライト(アメリカ代表)が、ここで負ければアメリカ敗退という場面で劇的な逆転サヨナラ・タイムリーを放った。アメリカ代表選手が歓喜のあまり重なり合って勝利を祝う背後には、マイアミ・ドルフィン・スタジアムのオレンジの空席が空しく映っていた。

ちなみに3月14日のアメリカ―プエルトリコ戦では、観客の半分以上がプエルトリコを応援。レッドソックスの看板選手ケヴィン・ユーキリス(アメリカ代表)は「自分の国でいつもアウェイ・チームってのはちょっと辛いね」とこぼしている(ボストン・ヘラルド紙)。

そのユーキリスは左足くるぶし炎症で戦線離脱。ケガがMLBのレギュラー・シーズンに影響するという懸念も、アメリカがWBCに乗り切れない理由の一つだ。アメリカ代表からは昨年のMVPダスティン・ペドロイア含む数名のスター選手が早々にケガを理由に参加を見送った。MLBの傷害保険はWBCのような特別試合をカバーしない。それでも何とか保険を見繕ったが、前年手術した選手をカバーしないなど制約があったようだ。

アメリカ代表デーブ・ジョンソン監督は3月15日のオランダ戦を前にケガで手薄になった選手陣を見て「(これ以上選手の負担が増えるなら)試合放棄する」とまでコメントしている(AP通信)。当のジョンソン監督は14日プエルトリコ戦で、息子の結婚式に出席し遅れて合流するという、いかにもファミリー重視のアメリカ人らしさ見せた。試合は11対1の惨敗だった。

テレビの視聴率も、日本では考えられないほど低い。日本では3月7日の日本―韓国戦が37.8%を記録するなど、国民的関心の高さが見られる一方、アメリカESPN局のラウンド2における平均視聴率は1.3%、視聴者数に換算して166万人である。これでも2006年から比べたら53%視聴者数が増えたという。

アメリカは3月22日の準決勝で日本に惨敗し、またしてもアジアに覇権を譲ることになった。これでまたWBCに対するアメリカのしらけムードはますます高まりそうだ。ただでさえ懐の深いアメリカでは、メディアの一声で国民を一気に振り向かせるのは難しい。伝統のないWBCが定着するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

しかしながら、米国外で開催されたラウンド1の観客動員数は2006年の326,629人から2009年は、453,374人とアップしている事実も見逃してはならない。ラウンド2以降もマイアミのプエルトリコ人やロサンゼルスの韓国人など、アメリカ人以外は結構球場に足を運んで盛り上がっている。

ドジャース・スタジアムにおける準決勝のファンの興奮を目の当たりにしたセリグMLBコミッショナーも、「よくぞここまで来た」(mlb.com)とコメントしている。いろいろたたかれているWBCではあるが、当初の目標であるベースボールの国際化という観点から見れば案外順調に進んでいるようだ。2013年には24カ国が参加するという構想もある。

その上でアメリカから続々MLBオールスターが参戦すれば、言うことはない。お金持ちである彼らの参加を促すのは、ベースボール誕生の国アメリカのプライドしかないだろう。デレク・ジーターら今回の敗戦で悔しい思いをしたチーム・アメリカの選手たちが声を大にして、次回の奮起を促してもらいたいものだ。

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/1026