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「No Leave, No Life」有休消化奨励大作戦で景気刺激

<記事要約>

未消化の有給休暇と900豪ドル(4月6日現在のレートで約6万5,000円、以下同)の経済刺激ボーナス支給金を国内旅行に使うことを自国民に奨励する、オーストラリア政府観光局の「ノー・リーヴ、ノー・ライフ(No Leave, No Life)」キャンペーン(http://www.noleavenolife.com/)が今日スタートした。

経済界と協力して開発されたこのプログラムは、国内観光業界を盛り上げるための試みであると同時に、人々がワーク・ライフ・バランスを実現するのに必要な手段を提供するもの。

ファーガソン連邦観光相は、「このような困難な時期に、景気に弾みを付け、同胞の雇用を守るために、自分たちに何ができるのか、すべてのオーストラリア人が立ち止まって考えてくれることを期待する。素晴らしいオージー・ホリデーは、その重要な第一歩になる」と述べた。

2009/3/30  DynamicBusiness(http://www.dynamicbusiness.com)より


<解説>

「ノー・リーヴ、ノー・ライフ」を日本語にすれば、「休暇のない人生なんて!」といったところだろうか。

オーストラリアでは、正社員の場合、通常20日間の年次有給休暇が付与されるだけでなく、休暇中は普段の基本給プラス17.5%の付加金が支給されるという恵まれた環境にあり、誰もがホリデーを取得するのが当然……のはずだった。

ところが、過去2年間で未消化の有休は11%も増加して、合計約1億2,300万日分になり、正社員の4人に1人が、25日以上の有休をためこんでいるという。有休取得率の低下傾向は、少し前から指摘されていて、「これってオージー(オーストラリア人)らしくないよね?」という声が上がっていた。

「よく学び、よく遊べ」に対応する英語の諺は、「All work and no play makes Jack a dull boy」というフレーズだ。ホラー映画『シャイニング』の中で、主人公が一心不乱にこの文章を繰り返しタイピングする姿によって狂気を描写したシーンを覚えている方も多いだろうが、直訳すると、「仕事(勉強)ばかりしていて、遊ばないと、ジャックはつまらない男の子になってしまう」という意味になる。

まさにこれを信条としているのがオージーで、仕事一辺倒だと「退屈なヤツ」「世界が狭い」「偏っている」とレッテルを張られるのがオチ。豊かなライフスタイルを重んじるこの国では、どんなに仕事ができたとしても、それだけで広く尊敬を集めることはほとんどない代わりに、仕事もプライベートも充実した人生を送っていれば、間違いなく一目置かれる存在となる。ポイントは、人としての器の大きさや奥行きの深さ、だ。

絶滅の恐れがあるキタケバナ・ウォンバットの世話をするために、という一風変わった理由で、ケン・ヘンリー財務次官が昨年の国会閉会中に約5週間のホリデーを取得した際も、国民の大半はいたって大らかで好意的だった。野党の批判もマスコミの揶揄もどこ吹く風とばかりに、本人は「バランスの取れた人生を送る権利はすべての人にある」と言ってのけ、最寄りの町まで2時間半かかる携帯電話圏外の国立公園で、夫人と共にボランティア活動にいそしんだ。

オーストラリアで休暇を取らない、または取れない典型的な人物像は、「既婚で子どもがいる中年男性管理職」なのだそう。その理由は、「忙しすぎて休暇を取る暇がない」「自分がいない間の仕事が心配」といったもの。要職にあるヘンリー財務次官が、「わたしがいないからといって、この場所がストップすることはない」と公言し、公(官僚トップクラス)の職務と私(自然保護活動家)の熱意を両立させることは可能、というメッセージを身をもって示したことを彼らはどう受けとめただろうか? 

こんなご時勢だからこそ、自分自身や所属する組織のためのみならず、経済を活性化させるため、誰かが仕事を失わないため、つまりはみんなのために、有休を消化して国内旅行に出かけよう! という呼びかけは、オージーのマイトシップ(仲間意識)をくすぐりもする。有休取得率の向上が、雇用や経済にも多大な波及効果をもたらすことは明らかだ。

「その気はあるけど、先立つものが……」という言い訳は通用しない。追加経済刺激策の一環である中低所得者対象のボーナス支給が今月から始まるからだ。受給資格があるのは、昨年度の課税所得が10万豪ドル(約723万円)以下の居住者で、長期滞在する外国人も含め870万人が恩恵を受けることになる。所得が8万豪ドル(約578万円)以下の人への支給額は900豪ドルで、国内旅行の軍資金としては充分。思惑通り消費されれば、強力な効果が期待できる。

日本でも、内閣府が有休取得率を2017年までに100%に引き上げることを目標に掲げていて、もし完全取得が実現すれば、12兆円の経済波及効果と150万人の雇用創出が見込まれるという試算がある。現状としては、とらぬ狸の皮算用に過ぎないかもしれないけれど、不況の今だからこそできる慣習や意識の大改革もあるんじゃないかと思う。必要なのは、みんなでハッピーに、という前向きでやわらかいオージー的発想かもしれない。


<参考情報>

○エクスペディア・レポート/国際有給休暇比較 2008(1)
http://www.fgn.jp/mpac/sample/__datas__/impacter/200810_11.html

○エクスペディア・レポート/国際有給休暇比較 2008(2)
http://www.fgn.jp/mpac/sample/__datas__/impacter/200810_12.html

○MediaSabor  2008/11/04
「楽観的で貯蓄志向の低い国民性が、オーストラリア経済を支えてる」
http://mediasabor.jp/2008/11/post_518.html

○MediaSabor  2008/09/01
「もっと稼ぐためにもっと働こう!」というサルコジ政権のスローガンと労働者の抵抗
http://mediasabor.jp/2008/09/post_470.html

 

 


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