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不況知らず。ハンドメイド自転車の明るい未来

不況、不況といっても、これまでと変わりなく仕事をこなし、さらに都市部で生活をしていると、どうも実感が湧かない。連日のメディアを通して知る大量解雇による失業者の増大や、1時間ほど車を走らせたロサンゼルスから東の郊外の街に立ち並ぶ、「Foreclosure(競売)」のサインの家々。その一方で、評価の高い公立学校があるエリアでは、未だに1億を越える値段で、家々が販売されるここロサンゼルス。人気レストランは、平日の昼間だって行列だ。

分かりきったことだが、不況に関係なく、人気店は変わらず人気店なのである。ファンのいるサービスや商品、はたまた多くの人が気に入るエリアや場所というのは、どんな環境においても、ビジネスは順調なのである。そんなことを改めて感じていた今日この頃、4月13日号の米国Forbes誌に、カスタムの自転車屋を営むサシャ・ ホワイト氏率いる「ヴァニラ自転車」(http://vanillabicycles.com/)の話しが掲載されていた。

オレゴン州ポートランドで、12年前自転車宅急便のライダーとして活躍していた創立者のホワイト氏は、全米でも自転車フレンドリーな街として有名なポートランドで、2001年自転車屋をはじめた。きっかけは、1999年、当時乗っていた自分の自転車のフレームが折れ、フレームビルダーの「週末講座」に通い、フレームの作り方を覚えたこと。その後ホワイト氏は、5ヶ月かけてはじめて自分の妻のために自転車を作ったのを皮切りに、友人や知人、知らない間に噂を聞きつけた「見知らぬ人」のためにも、自転車を作り販売するようになった。

ポートランドは、米国の中でも自転車に興味を持っている人口が多く、さらに自転車を自分で作るバイクビルダーが多く住むエリア。 彼の腕に関する「評判」が、インターネットや知人を通してあっという間に広がり、8年目を迎えた昨年、とうとう注文を取るのを止めてしまった。

というのも、2007年の時点で、5年先までの注文が入り、工場はフル回転。これ以上先の注文を取っても対処しきれないというのがその理由。「それでも今も電話やメールでの問い合わせは絶えない」とホワイト氏。デザイン、技術においても、業界関係者からの折り紙付きというヴァニラの自転車。ちなみに、価格は一台40万円からで、平均すると80万円。すごいものになると120万を超えるという。不況知らずとは、まさにヴァニラ自転車を指すことのようだ。

現在3人の従業員を抱えるヴァニラ自転車は、売上にして年3000万強。粗利益にして1000万円の同社だが、ハイクオリティーを保つために、年40台から50台の生産量を増やすつもりはないという。そのため、ヴァニラが作り出した自転車は、「聞いたことはあるが、見たことがない」という代物になっているようだ。

こうしたヴァニラ自転車の経営状況を客観的に見ると、ビジネスチャンスを逃しているように思う人もいるだろう。しかし、ホワイト氏は「もっと自転車を作るためだけに、ヴァニラ自転車の特別性を無くすくらいなら、その価値はないと思う」と、職人気質の発言。大量生産、大量消費ではなく、少量生産でも、価値を認めてくれる人たちに喜んでもらうことを優先し、自身のライフスタイルを変えることをかたくなに拒んでいるように思う。

なお、ホワイト氏のビジネスセンスは、自転車作りに限らず、デザイン面でもかなり発揮されているようで、ファンを虜にするようなTシャツや帽子などのショップグッズをはじめ、チームジャージまで販売。行き届いたサービスと、高品質の商品を提供するためには、現在形がベストな状態という様子だ。

話をここロサンゼルスに戻してみる。昨年のガソリン価格沸騰と、それに引き続いた不況の煽りで、通勤、通学に自転車を利用する人が増えたと言われる。自転車業界そのものでいえば、台湾や中国製の安い自転車が市場を支配しつつあるが、一方でハイエンドマーケットとして、一台20万以上の自転車が売買されているのである。そしてここカリフォルニアは、ハイエンドマーケットの中心の一つだそうだ。オレゴン州に負けず劣らず、作り手も、買い手もいる市場という。

先述のヴァニラ並みの価格はさておき、ミネアポリスのバイクビルダーであるグッドリッチ氏によれば、通常の20万から40万のカスタム自転車を、年間に25台生産し販売できれば、バイクビルダー業の経営上のブレイクポイントは越えられるそう。さらに50台以上注文を取れるようになれば、十分「食って行ける」という。そのため、自宅のガレージで自転車生産をはじめ、ネット販売する形で事業をすすめている人が出てきたという。

こうした業界の発展を、別の観点から数字化することができる。5年前に始められた「North American Handmade Bicycle Show」(北米ハンドメイド自転車ショー)は、当時出展者15社、入場者700名だった。それが昨年には出展業者90社以上、入場者数7000名以上のショーに発展した。同ショー関係者によれば、現在北米では約2万個のフレームが売買され、カスタムの自転車が生産されているというのだ。

自動車業界の行き詰まりに対して、同じ乗り物業界でもこちらはたいそうポジティブである。その業界の大きさに違いはあるものの、将来への明るい兆しという面では、米国自転車業界の未来は期待できる。


http://www.forbes.com/forbes/2009/0413/075-luxury-bicycles-heaven-on-wheels.html

http://abcnews.go.com/Business/Economy/Story?id=6914381&page=1

http://articles.latimes.com/2008/dec/08/business/fi-bicycle8

http://www.handmadebicycleshow.com/index_01.htm

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○BMC1号&2号といっしょ  2009/01/17
 「ハンドメイドバイシクルフェア その1」
 数々のカスタムメイドバイクを見れば、こだわりの職人が1台1台魂を込めて
 作られていることがわかる。
http://blogs.yahoo.co.jp/yosh0524/46207429.html

 

 


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