Entry

自己負担額ゼロってホント? 豪州の一般家庭で太陽熱温水器の普及が加速

<記事要約>

「エナジー・エフィシエント・ホームズ(=エネルギー効率の良い家)政策」のおかげで、西オーストラリア州における太陽熱温水器の生産量が増加している。

オーストラリア政府が展開するこの政策は、エネルギー浪費を削減することで一般家庭のエネルギー効率を向上させると共に、各家庭の電気代を最大40%節約することを目的としたもの。電気温水器から太陽熱温水器へ切り替えた場合は、1,600豪ドル(5月1日現在のレートで約11万5,000円、以下同)のリベート(払い戻し金)が支給される。

ピーター・ギャレット環境相は、「2月以降、1万1,000件以上の太陽熱温水器設置リベート申請を受理した。製造工場では、需要増加に対応するためにシフトを増やし、パート・アルバイトを正社員に登用する動きが広がっている。太陽熱温水器の製造や設置には、電気温水器の倍の労働力が必要で、誰かがソーラーに移行するたびに、オーストラリアの雇用に弾みがついている」と述べた。

2009/4/23  FEN(http://www.myfen.com.au/)より


<解説>

オーストラリアの一般家庭におけるエネルギー消費の約3割は「給湯」。自家用車を除くと、家庭から排出される温室効果ガスの最大要因になっている。標準的な電気温水器を、太陽の熱で水を温める給湯システム=太陽熱温水器に切り替えることは、車1台が道路から消えたのに相当する年間4から5トン程度の二酸化炭素削減効果があると言われている。

ただ、いくら「環境にやさしい」と分かってはいても、まとまった額の初期投資が必要なものには、なかなか手が出ない――というのが、庶民の本音。太陽熱温水器を導入する際のコストは設置費用を含めて通常4,000から1万豪ドル程(約29から72万円)で、やがてモトが取れるとは言え、それまでに何年もかかってしまう。

ところが、この記事で触れられている連邦政府のリベートを含め、さまざまな公的支援制度を活用することで、今ならほぼ自己負担なしで太陽熱温水器を導入することが可能になったのだ。費用がかからず、電気代は安くなって、環境負荷が減り、雇用や経済にも好影響、おまけにこれといったデメリットはなし……とくれば、普及が加速するのは当然の成り行き。政府は、向こう3年間で30万世帯が太陽熱温水器に移行すると見込んでいる。

実は、我が家でも集熱器(ソーラーパネル)と貯湯タンクが分離したタイプのものを先月設置したばかり。その際に利用できた返済不要の外部資金の合計額は6,000豪ドル(約43万円)超だった。


 <内訳>

  連邦政府リベート…………A$1,600
  NSW州政府リベート ……A$1,000
  RECs(40クレジット)……A$1,740
  経済刺激ボーナス……… A$1,800
  ----------------------------------------
          合計          A$6,140

 

RECsは、日本のグリーン電力証書やグリーン熱証書にあたる再生可能エネルギー証書(Renewable Energy Certificates)のこと。設置時に発行され、そのまま保持することもできるけれど、通常は市場価格で売却する形を取って、費用から相殺される仕組みになっている。1REC=1MWhの電力量で、RECsが少なくとも20以上ないと、各リベートの対象にはならず、州政府のリベートはその数値によって支給額も変わってくる。

経済刺激ボーナスは、日本の定額給付金のようなもの。貯め込まずに国内で消費するよう呼びかけられているだけで、何に使ってもかまわない。オプションの一つとして、標準サイズのソーラーシステムの見積もりをしてもらったところ、すべての支援制度を活用し、夫婦2人分の支給額をそっくりプラスすれば自己負担額ゼロで済むことが分かって、一挙に導入が現実的になったというわけだ。

来客の多い我が家では、貯湯タンクを一回り大きい430リットルに変え、屋根に置くパネルも1枚増やしてもらったため、結果的には少しばかり持ち出しとなったけれど、切り替えによって節約できる電気代の目安は、平均的な家庭で年間350から700豪ドル(約2万5,000から5万円)と政府が謳っているので、計算上は半年から1年もしないうちにトントンになる。

そんなわけで、今では蛇口をひねれば、至極当然のごとく太陽が沸かしてくれたアツアツのお湯が出る。南半球のオーストラリアでは秋が深まりつつあるが、今のところバックアップ用の電気スイッチをオンにすることはない。さんさんと降り注ぐ陽射しのおかげで、ムリやガマンとは無縁のエコ生活に一歩近づいたことを喜びつつ、電気なしでお風呂やシャワーが使えることに感嘆し、自然の力を文字通り肌で実感する日々を享受している。

この偉大な太陽エネルギーを世界中で最大限に利用することができればなあ……と思わずにはいられない。

 

【関連情報】

○資源大国は環境大国になれる? 世界最大の太陽光発電施設建設を謳う
オーストラリアのポテンシャル
http://mediasabor.jp/2008/03/post_348.html


○太陽光発電VS太陽熱温水器。太陽光発電の費用対効果に不満が4割
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/special/20081128/1021368/


○ブーム再び? 太陽熱温水器 助成で販売上向き、新製品続々
http://www.business-i.jp/news/sou-page/news/200904300018a.nwc


○エネ研「グリーン熱証書」認証 都が先鞭 自治体普及へ弾み
http://www.business-i.jp/news/ind-page/news/200903180021a.nwc


○太陽光発電及び太陽熱の市場(PDF)
http://www2.kankyo.metro.tokyo.jp/kikaku/solar/pdf/taiyoenergy_1/070314-2.pdf

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/1058