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新型インフルエンザより蚊に怯えるブラジル

世界中が新型インフルエンザに翻弄されている。ブラジルでも保健省の5月11日の発表によると、感染確認者は計8人となった。日本のような過剰反応はなく、国民の関心もまだ薄いが、ブラジル各地の空港での検査、搭乗者の健康状態チェックは厳密に行われているという。

しかしブラジル人は「新型インフルよりデングの方が怖い」と声をそろえる。現在新型インフルエンザの感染者数は30カ国で5000人以上と言われているが、数だけ見てもブラジル国民の関心がデング熱にあるのは致し方ない。目が見えなくなる感染症の、世界的流行を描いた映画「ブラインドネス」のブラジル人監督は、デング熱の多い母国で感染症に対する不安を感じとっていたからこそ、このテーマを扱う原作を映画化したのかもしれない。

とはいえ5月に保健省が発表した、デング熱にかかった人が49%減少したという情報には、ブラジル中が胸をなでおろした。2009年1月から4月11日の間にデング熱にかかった人数は22万6513人で、昨年の44万360人より半数近く減少。また死に到る可能性を高めるデング出血熱となった人数は、2009年に入り552人で、2008年の2531人に比べ大幅に減少した。しかし8つの州では増加しており、例えばバイーア州で確認されたデング熱は5万5483件に達し、2008年と比べて220%増という結果になった。

デング熱とはデングウィルスによる感染症で、蚊によって媒介される。日本でも第二次世界大戦中に戦地から持ち帰ったウィルスにより、20万人が発病したとされる。症状は高熱、触るだけで痛むという関節痛、筋肉痛。場合によっては初感染でも、デング出血熱となるものがあり、内出血により死亡する例が多い。

2002年はブラジル歴史上最もデング熱が流行した年で、特にリオデジャネイロに集中した。リオデジャネイロ州では約29万人が発症し、91人が死亡した。そして2008年に再度リオデジャネイロ州を襲った大流行では、25万人が発症、174人が死亡した。

デング熱にはワクチンはなく、蚊の発生を防ぐことと、蚊に刺されないようにすることが予防策となる。デング熱患者の血を吸った蚊もデングウィルスを運び感染を広めるため、患者を隔離し、ウィルスを運ぶ蚊を増やさないことも対策のひとつである。しかし感染者数の多さから、全ての患者の隔離は実質的に不可能である。だからこそ尚、発生を防ぐことが重要となる。蚊が卵を産み付ける空き缶、植木鉢などの水が溜まっていないか、定期的に州政府から検査官が自宅を訪れてチェックする。その際に水が溜まりそうな場所には薬を撒くのだが、その薬を検査官が持っていないとの苦情が最近多いと、政府の対デングキャンペーンのおそまつさが指摘されている。

結局のところ流行し始めた地域の住民は、蚊に刺されないように虫除けスプレーと電気蚊取り器を使用するしかないのが現状だ。お隣のマンションで発症者が出れば、水溜りはどこだとあせるが蚊は飛び去った後。政府はデング熱対策に軍隊を派遣するが、展開する「蚊取り作戦」は笑い話のネタになるばかりだ。

デング熱の増加には、地球温暖化が関係しているといわれている。気温上昇に伴って、熱帯地域の動物媒介性感染症の分布が広まっているというのだ。ということは、感染症の発生を拡大させないためにも、地球規模の環境対策が不可欠となってくる。

新型インフルエンザは短期間に多くの国に散らばったことで、世界中を不安に陥れ、さらに感染拡大が懸念されている。そしてまたデング熱のように世界的流行には達していないが、局地的に大量発生している深刻な感染症が増加傾向にあることを見逃してはいけない。今回のフェーズ5の経験から世界が学ぶことは大きい。世界の経験が、各地域にも生かされるような、国際的レベルの感染症、温暖化対策についての研究が進むことを願いたい。

 

 

 


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