Entry

{豚インフルエンザ、48州で感染、死亡は8名}

米疾病対策センター(CDC)発のTwitterである。5月21日 9時57分時点で最新のものだ。多い時には一日に3,4通、最新ニュースが送られてくる

国家機関であるCDCがTwitterを利用して公式情報を配布するというニュースは米国内でかなりの話題となった。巷で大人気とはいえ、民間企業が運営するソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)を政府が利用するというのは、確かにちょっとショッキングである。時代はそこまで進んだのか、という思いはIT 先進国の米国でさえ強かった。話題性も手伝って、開始後一ヶ月を待たずに情報サブスクライバーが数百万を数えるという順調な滑り出しだ。

Twitterはいわゆるインスタントメッセージの一種で、ネットにアクセスしている複数の相手に対してメッセージを一斉配布できるサービスだ。Twitterで送った短いメッセージはコンピュータ画面の右端にリストされ、仕事をしている時でも、友人や仕事関係からのメッセージを随時読むことが可能だ。コンピュータの前で仕事をするのが当たり前のライフスタイルになりつつある今、複数の人々に緊急の情報を送るためには、Twitterはもっとも効率的なメディアである。2006年に誕生して以来、その革新的な機能がうけて、大きな広まりを見せているのもうなずける。

仲間内のやり取りから仕事の連絡、大学の連絡用まで、今やあらゆるところに浸透しているTwitterだが、確かに緊急時に速報を流すには、うってつけのメディアである。CDCによるTwitterの公式採用は、ある意味政府のお墨付きを貰ったということだ。今後、米国政府がTwitterをどのように利用していくのか要注目だな、と思っていた矢先、こんどはホワイトハウスが、Twitterを利用した情報発信プロジェクト「ホワイトハウス2.0」を始動すると発表した。Twitterを含むいくつかのSNSにチャンネルを開設し、国民に広報ニュースを発信していくという。いくら世がIT時代とはいえ、米国政府がこうした民間のプラットフォームを何のてらいもなく利用するという姿勢には驚かされるが、それだけこうした情報発信の有用性を認めているという事だろう。ホワイトハウスはすでに、YouTube、マイスペース、フェースブック、iTunes、Flickr、Vimeo などで公式チャンネルを開設している。

こうした動きが米国以外の政府にどのような影響を与えるのか、筆者は非常に興味がある。繰り返しになるが、不特定多数に即時に情報を送るにはTwitterは非常に優れたメディアだ。多言語対応で各国に利用者を増やしているTwitterがこのまま成長を続ければ、どこの国の政府にとっても最も優れた広報チャネルとなることは間違いない。厚生労働省がTwitterを使って豚インフルエンザの注意情報を流せば、これはかなり有益である。

しかし、ここで一抹の不安が残る。国民への情報伝達という国家の屋台骨を、他国のしかも民間企業にそこまで依存していいものだろうか? もちろんこういう事態はまだ起こっていないし、筆者の杞憂に過ぎないかもしれない。しかし、よほどの事がない限りTwitterは今後も順調に広がっていくだろうし、遠からず世界的にメジャーな情報伝達ツールになる可能性も高い。Twitterだけでなく、あらゆる情報サービスの根幹部分は殆ど米国企業が握っている。言うまでもないが、現在世界の情報をコントロールしているGoogleは米国の企業だし、コンピュータのOSの殆どはマイクロソフトだ。グーグルマップでは日本の各都市の航空写真がはっきり映し出され、皇居のエアコンの室外機の数まで数えることができる。

ネット戦略を駆使して選挙を勝ち抜いたオバマは、ネットの底力を知り尽くした大統領である。就任当時のマニフェストでも、エネルギー問題と同じくらい力を入れたIT戦略を掲げているし、グーグルCEOのエリック・シュミットをはじめとしたIT業界のキーパーソンを多くアドバイザーに迎えている点を見ても、これから5年、10年先の情報戦略ビジョンを持っていることは間違いない。IT民主主義どころか、これはある意味米国覇権主義である。何しろITプラットフォームの要は米国系の企業が完全に管理しているのだ。政治的な観点からこうした点を不安に感じるという意見をあまり目にしないのは不思議な話だ。

インターネットの普及が更に加速して、国民と政府の連絡が新聞やテレビからネットにシフトするようになる日はそう遠くない。その時、日本を含めた米国以外の政府はどのように対応するのだろうか。政府と国民の間の情報チャネルを米国に依存するのか、それとも独自のサービスを開発するのか。

独自路線というのはあまり現実的ではない。少数派は結局淘汰される、という事実は、短いインターネットの歴史で十分すぎるほど証明されている。近い将来各国とも、全世界に普及している米国の情報サービスを使わざる得ないことは容易に想像がつく。独自の技術がいくら優れていても、すでに磐石な米国の情報インフラの上に乗っていくしか方法はない。ITをめぐる米国の世界戦略はとっくに始まっており、我々が意識しないうちに全世界はその手中に落ちていた、とも言えるのである。

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/1068