Entry

LOTTEガム「Fit's」のCMで採用されたYouTubeともコラボした広告戦略とダンサブルなコマソンの秘密

■伝統的手法が復活?
 
 今年の春から流れているロッテのガム、フィッツ(Fit's)のCMがなかなか面白い。
http://lotte-fits.jp/

 CMソング(コマソン)の世界と言えば、かつては楠トシエ、天地総子、のこいのこ、
藤本房子といった、その特徴的な声とユーモラスな歌唱で「コマソンの女王」と呼ばれた女性歌手たちの活躍の場でもあったし、そうした状況は『レコード・コレクターズ』内の濱田高志さんによる連載「ブラウン管の向うの音楽職人たち」を通じても、ご報告してきた通り。ただ、ここ十数年は、そのCMのためにオリジナル曲が作られるのではなく、レコード会社との「タイアップ」曲がCMソングとして流される例ばかりが目立ってきた。

 しかし今回のロッテガムのCMから聞こえてきた「歌」は、厳密にはオリジナルではないものの、良く透る高い女性の声で歌われる、「フニャンニャン…」と擬態語(?)が連続でリズミカルに歌われる感じが、昔からテレビでコマソン独特の手法に親しんできた者にとっては、何とも懐かしい響きに聞こえたのだ。歌っているのは、「たむらぱん」というプロジェクト名で活動している女性アーティスト、田村歩美。MySpaceを使って自らの楽曲をプロモーションしてきた現代派のミュージシャンだという。声の系統としては、「アート引越しセンター」「パンシロンの歌」(註)…の天地総子の系統に近い感じがする。

 このCMのユニークさは、その歌声だけにとどまらない。


■YouTubeを使った現代的手法との合体
 
 CMでは、佐々木希、佐藤健、渡辺直美といったタレントたちが、軽快な音楽に合わせてユーモラスなダンスを披露しているのだが、視聴者が同じ曲に合わせてダンスに挑戦した動画を応募すると、それがYouTubeに掲載され、さらにその再生回数ランキングまで発表される、という形でCMとその音楽の普及が図られていたのだ。

http://www.youtube.com/user/LOTTE


 これを書いている時点ですでにダンス動画の応募は終了、再生回数ランキングも決定してしまっているが、少し前までは、視聴者がチャレンジしやすいように、この曲のカウント入りヴァージョンが公式HPからダウンロードできるようにもなっていた。若い学生さんたちによるものが多いが、小さな子供からお年寄りまでが、その音源を使って次々とダンスにチャレンジしていて、勝手に楽しいアレンジを加えた振り付けのものも多く、ひとつひとつは短いのでついつい、いくつも見てしまう。

 そして気がついたら、自分でも知らない内に「噛むとフニャンニャン♪」とCMソングを口ずさんでしまっている、という具合。なかなかの「破壊力」!?である。その意味では、同社CM担当者の「ガムというより、まず曲とダンスを流行らせたいかな、と。それがガムの宣伝だということを覚えてくれればいい」(09年5月27日放送のフジテレビ「めざにゅー」での発言)という狙いはかなり成功したと言えるのではないだろうか。
 
 以前も触れさせていただいたこともある神田敏晶さんの本『YouTube革命 テレビ業界を震撼させる「動画共有」ビジネスのゆくえ』(ソフトバンク新書、06年)では、ソニーの薄型テレビ「ブラビア」の英国でのTVCM「Bouncy Balls」のパロディ版をユーザーが勝手に作ってYouTubeにアップ、それがさらなるパロディCMを次々に生んだ…という事例が紹介されていたが、今回のロッテのCM戦略は、それを企業の側が意識的に展開させた例とも言えるだろう。


■アニメ・ソングのポップでダンサブルなエキゾチック感覚

 このCMのポイントはまだまだある。ここで歌われている曲が、筆者のような1960年代初頭生まれには懐かしすぎるTVアニメ「狼少年ケン」のテーマ曲の「替え歌」だったりするからだ。

 「狼少年ケン」は、現在は東映アニメーションと名を変えたアニメ制作会社の老舗、東映動画が制作したTVアニメ第1弾として、NET(現・テレビ朝日)で1963年から'65年に放送されていた作品。映画にもなった米国の小説『ターザン』をモティーフにしたようなアニメで、狼に育てられた人間の少年ケンが、ジャングルを舞台に動物たちと大活躍するといったストーリー。

http://www.toei-anim.co.jp/lineup/tv/ken/

 そのオープニングで流されていたのが「狼少年ケン(のテーマ)」で、イントロから「ドンドコ、ドコドコ」とコンガなどのパーカッションを派手に使った非常にリズミカルなこの曲に、毎週心踊らせていた記憶がある。作曲は小林亜星。確か幼稚園に通っていた頃で、上の放送年次とは計算が微妙に合わないので、地元福岡では東京より少し遅れて放送されていたのかもしれないが、筆者の最も古い「音楽的記憶」のひとつであり、ビビっと反応してしまった。この曲は、現在も『決定盤!テレビ・アニメ主題歌 オリジナル・サントラ集 昭和38年─昭和43年(1963─1968)』ほかのCDで聞くことが可能だ。


『決定盤!テレビ・アニメ主題歌 オリジナル・サントラ集
 昭和38年─昭和43年(1963-1968) 』(ユニバーサル)

 昔のTVアニメの音楽などには、こうしたポップでダンサブル、かつエキゾチックな要素を持っていたものは多い。「狼少年ケンのテーマ」がこうした形で「復活」可能であれば、次は、ラテン風味でもっとリズミカルな「冒険ガボテン島」(1967年、TBS)のテーマ曲なんかが「素材」になりそうな気がしている。


■パーカッシヴなTV音楽の不思議な同時代感覚!?

 この原稿を書きながら、何度も「狼少年ケン(のテーマ)」を聞き直すうちに、気がついたことがある。イントロ部分の歌詞に「ボバンババンボン…」とあることからすると、「ドンドコ、ドコドコ」というパーカッシヴなアレンジのモティーフは、プエルト・リコの音楽「ボンバ」ではないかと思うのだが、「狼少年ケン」では、当時プロの音楽家たちにとっても新鮮だったのではないかと思われる8ビートでアレンジされている。したがってパーカッションの叩き方も派手だが随分とストレートで、ボンバとは方向性がちょっと違う。敢えて例を挙げれば、ヒートルズの「ビートルズがやって来たヤァ!ヤァ!ヤァ(A Hard Day's Night)」での「トコトコ、トコトコ」というパーカッションの使われ方に近いというか…。

 そんなことをいろいろ考えていて思い出したのが、60年代の英国産のSF人形劇「海底大戦争 スティングレイ(Stingray)」のオープニング・テーマ。これがまた「狼少年ケン」と同様、ド派手なパーカッションの連打に彩られた8ビートが最高にグルーヴィな曲なのである。この「スティングレイ」というのは、有名なSF人形劇「サンダーバード」を制作した、ジェリー・アンダーソン率いるAPフィルムズ(後の21stセンチュリー・プロダクション)によるTV作品で、このテーマ曲は「サンダーバード」も手がけた作曲家バリー・グレイのペンによるもの。

 放送は英国では1964から65年(日本でも同時期にフジテレビで放映)と、放送開始が「狼少年ケン」より後であり、しかも日本放映時にはテーマ曲が日本独自のものに差し替えられていたことからすると、この曲が「狼少年ケン(のテーマ)」に影響を与えていたことは考えられないが(逆はありかも?)、英国と日本をまたいでの不思議な同時代感覚ではある。

 なお、この曲、最近リリースされた『Stand by for action! バリー・グレイ作品集』(ランブリング、ただし収録されているのは40秒弱のエディット・ヴァージョン)ほかいくつかのCDで聞くことができるが、ジェリー・アンダーソン系のTV作品の英国公式ファンクラブ、ファンダーソンでは、「スティングレイ」のサウンドトラックCDが会員限定でリリースされていることも最後に書き添えておきたい。


『“Stand by for action!” バリー・グレイ作品集』(ランブリング)

http://www.fanderson.org.uk/index.html

 

(註)
この2曲も含む天地総子のCMソング集は、『天地総子大全─フーコのコマソン・パラダイス』(ソリッド)として発売中。他にも、上で触れた楠トシエ、のこいのこ等のコマソン集も、濱田高志氏の尽力で次々とCD化が実現している。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○アドマン2.0@デキる広告マンの作り方 2009/04/13
 ロッテ「Fit's ダンスコンテスト」の動画再生回数の秘密に勝手に迫ってみる。

 確かに海外動画サイトに波及すると、一気に爆裂することは多々あるが、
 企業が提供するPR動画では珍しいこと。特に日本発のものは。
 ここで海外サイトで取り上げられる⇒再生回数が爆裂⇒YouTubeの
 ピックアップ動画に選ばれる⇒各種ブログや動画紹介サイトで
 取り上げられる⇒再生回数の純増・・・っていうスパイラルを描けたという
 可能性が高く、したがって、この海外サイトの活用(あるいは海外サイト
 による自発的な採用)で成功した可能性が非常に高いといえる。
http://ameblo.jp/adman/entry-10241706379.html

 

 


  • いただいたトラックバックは、編集部が内容を確認した上で掲載いたしますので、多少、時間がかかる場合があることをご了承ください。
    記事と全く関連性のないもの、明らかな誹謗中傷とおぼしきもの等につきましては掲載いたしません。公序良俗に反するサイトからの発信と判断された場合も同様です。
  • 本文中でトラックバック先記事のURLを記載していないブログからのトラックバックは無効とさせていただきます。トラックバックをされる際は、必ず該当のMediaSabor記事URLをエントリー中にご記載ください。
  • 外部からアクセスできない企業内ネットワークのイントラネット内などからのトラックバックは禁止とします。
  • トラックバックとして表示されている文章及び、リンクされているWebページは、この記事にリンクしている第三者が作成したものです。
    内容や安全性について株式会社メディアサボールでは一切の責任を負いませんのでご了承ください。
トラックバックURL
http://mediasabor.jp/mt/mt-tb.cgi/1088