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映像アートと演劇の融合で表現の可能性を提示する「ポストシアター」

マルチカルチャー都市NYにて結成されたポストシアターが、ベルリンと東京に拠点を広げて世界中で活躍している。彼らの目指す映像技術と演劇の融合は、新たなコミュニケーション法の試行錯誤と言える。つまり表現したいものを表現するために多様なメディアを活用し、我々の眼を愉しませてくれるのだ。多様文化を背景にスタートラインにたったこのカンパニーは、西欧における演劇の一般概念を超えたものを作ることを目指し、まさにこれからの表現のあり方を私たちに提示してくれる。


さて、具体的にどのような作品かといえば、同時に映像を見ていただいたほうがわかりやすいだろう。http://www.vimeo.com/3823930


すぐに目に付くのは、映像をつかったインスタレーションと生身の演技者によるパフォーマンスがうまくコラボレーションされている演出だ。演劇が、光、音楽、パフォーマー、そして舞台美術の融合芸術であったところに、彼らがプラスしてきたのはビデオアートなどの映像技術なのである。なぜ舞台上で映像技術を駆使したものがこれまで少なかったのか、彼らの作品を見れば疑問に思うほど、実はとても簡単なアイデアだ。基本的に平面的な映像が、ポストシアターの作品では立体的な舞台演劇をさらに立体的にみせる。これは映像がただの映像ではなく、ライブ感覚を持っているからだ。


空とぶ俳優の背景には雲の映像が流れ、車が走る音をバックにタイヤの模様が舞台に次から次へと現れ、作品のイメージを後押ししてくれる。ポストシアターの作品における映像は、単なるライブ公演を支える要素ではなく、それ自体が演じる者と同等に肩を並べるもう一人の登場人物といえるだろう。つまり演じるものと、映像という装置の関係がここでは同等に扱われている。


まさに映画をナマで見るような感覚とも言える。作品「6FeetDeeper」では、砂がひかれた舞台全体が映像を映し出す大きなスクリーンとなっており、パフォーマーが地面に指をかざせば、まるでスクリーンに絵を描き出すように、どんどん映像が現れてくる。パフォーマーがカウボーイについて述べれば、地面のスクリーンにカウボーイの影法師が現れるというように、普通の舞台装置では無理なダイナミックさが映像によって実現されている。


ポストシアターの映像技術がもつダイナミズムは、ライブにこだわる彼らの作品作りの姿勢そのものにも見られる。世界中で何年にも渡り、繰り返し上演、アレンジしている作品シリーズがそれだ(「skinSITEs」)。常に変化を遂げ続けることにチャレンジするこの精神は、真の意味でのライブを追求するポストシアターならではといえる。


ポストシアターにとってのマルチカルチャーは、簡単な多様文化万歳論ではない。各プロジェクトには世界各国からのアーティストが携わり、世界各国で活動の場を広げているが、都市そのものが彼らの作品にインスピレーションを与えるのではなく、そこで出会うレベルの高いアーティストや技術者たち、そしてそこにある自然からの刺激が作品を成長させると彼らは言う。今回ベルリンが拠点に選ばれたのも、新しい文化の中心地として注目されているからではなく、ベルリンが持つアート活動に対する懐の広さとともに、彼らが求める本物の創造者がそこに集まっているからだ。ポストシアターは、まさに文化を越えた集団であると言えるだろう。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○ART遊覧  2006/01/04
 ポストシアター「skinSITEs」「6 Feet Deeper」
 両作品ともコンセプトがしっかりしていて、筋ではないけれど
 物語をもほうふつとさせる。ただ、私にとってはナレーションなどで
 言葉を追う作業をすると忙しくなり、むしろ言語からの解釈を
 なるべく塞いで、映像とライブが交錯するなかで時折見せる空間に
 放り込まれてみたいと少し努めて傾けて見ていた。でもきっと欧米
 では言語での構築も必須なのだろうし、ポストシアターとしては言葉も
 表現の一要素として並列にあるよう考えられているんだろうと思う。
http://www.art-yuran.jp/2006/01/skinsites6_feet_2c8e.html


○ポストシアター日本語サイト
http://www.posttheater.com/tokyo/index.htm

 

 

 


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