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パラリンピックのススメ

 最近日本で「スポーツ庁」設置という文字が紙面に躍っている。教育再生懇談会が「スポーツ立国」ニッポンを3本柱の一角に組み込み、「体育授業の充実、障害者スポーツの振興、企業スポーツへの支援、トップアスリートの育成など」をスポーツ庁が担当し、スポーツ基本法の制定も提案されている。そのニュースを見て思い出したことがあった。

 来年、バンクーバーでは2月にオリンピック、3月にパラリンピックが開催される。そのため、テスト大会に参加する選手やスタッフだけでなく、JOCやJPC関係者もバンクーバーを訪れていた。話を聞く中で、日本のパラリンピック選手たちが置かれている状況がかなり大変なことを知った。

 パラリンピックの歴史は浅い。オリンピックとパラリンピックが同都市で開催されるようになったのは1988年のソウル大会からで、国際パラリンピック委員会(IPC)発足は1989年。さらに驚くことには、オリンピック開催国がパラリンピックも開催すること、オリンピック組織委員会がパラリンピックも担当すること、パラリンピック選手及び役員の大会エントリー費は無料とすること、同じ選手村を使用することなど、パラリンピック開催のすべての条件をオリンピックと同じとするということが正式に導入されたのは、夏季は2008年北京大会から、冬季は2012年バンクーバー大会と最近のことだ。これは招致活動の段階から義務付けられている。

 ということは、東京五輪招致はパラリンピックも招致するということで、JOCは文科省、JPCは厚労省とバラバラでは都合が悪い。そこで、スポーツ行政一元化も図ったスポーツ庁が加速度的に進められているという背景もある。

 さて、こうしてパラリンピックのハード面は徐々に整備されつつあるが、肝心なのはその中身。競技自体が面白くなくては意味がないのである。

 この冬、私はパラリンピック5競技中、バイアスロンを除く4競技を観戦した。恥ずかしながら、これほど興奮するとは思っていなかったというほど面白かった。中でも会場が近いこともあって、アイススレッジホッケーは日本代表の全試合を観戦した。ホッケーを見てガッツポーズするほど興奮したのは久しぶりだった。

 JPCの仲森事務局長に話したら「全部見たんですか?」と感心されたが、友達家族も誘って応援した。『氷上の格闘技』はスレッジでも健在で、スピード、迫力、技、どれをとってもアイスホッケーのおもしろさに劣らない。日本代表は5月の世界選手権で4位となりバンクーバーへの切符を手にした。今から楽しみで仕方がない。
 
 アイススレッジホッケーを紹介したビデオはこちら。(英語のみ)http://www.vancouver2010.com/en/news/podcasts/-/64768/32584/hxch7h/index.html

 バンクーバーでもう一つ行われる団体競技が車いすカーリング。こちらも日本代表はバンクーバーへの出場権を獲得した。パラリンピックは初参加というから楽しみだ。

 こちらは静かな熱戦で、スウィープと大きな掛け声がないため、会場は常に静かで、その張りつめた緊張感が独特だ。カーリング以上に正確なショットが要求され、スーパーショットを目の当たりにして、彼らの感覚のすごさに感心した。

 ウィスラーで行われるスキー競技は、これまでも日本が強かったアルペンとクロスカントリー、バイアスロン。観戦した日もアルペンでは4人ほどが表彰台に上がり、改めて日本の強さが示された。

 アルペン会場では、座位と呼ばれるイス式のスキーに乗って滑る種目と全く同型のスキーに乗るという体験をした。これが難しい。腰かけたお尻の部分が一般のスキーの踵の役割をしてそこでバランスを取る。方向転換には両手に持つスティックを使う。後ろを支えてもらいながら5メートルほど平地を滑ったが、これであのスピードで滑り降りてくるのは尋常じゃない。

 そんなパラアルペンの解説はこちら。日本の大日方邦子選手も登場している。
http://www.vancouver2010.com/en/news/podcasts/-/66608/32584/15h3a3o/index.html

 『失われたものを数えるな。残された機能を最大限に活かせ』とはパラリンピックの父、グットマン博士の言葉。今回観戦して感じたのは、この言葉を実践している彼らは間違いなく世界のトップアスリートだということだった。

 しかし、日本ではその意識が薄い。彼らのレベルの高さは、メダル数から見ても明らかだが、あまり脚光を浴びない。その原因を、障害者スポーツという観点でしか扱っていないこと、JPCが厚労省の管轄になっていること、メディアの露出度が少ないことなどを仲森事務局長は挙げていた。このうち、二つはスポーツ庁を設置することにより改善される可能性が高い。東京五輪招致効果的な動きだが、それでもパラリンピック選手の現状が少しでも改善されるならば是非とJPC関係者も期待を寄せていた。

 パラリンピックを取り巻く環境は大きく変わろうとしている。北京大会前には両膝から下が義足の南アフリカのオスカー・ピストリウス選手がオリンピック出場に挑戦した。日本では、車いすテニスの国枝信吾選手がプロ転向を発表した。世界トップアスリートという肩書に健常者と障害者の違いはない。

 世界に彼らの活躍を伝えるメディアの責任も大きい。メディアも北京大会からパラリンピックへの取材が多くなったが、それでもまだまだだと関係者は話す。メディアの報道の仕方、選手のメディアへの対応、お互いこれからともに成長していく必要がある。そんなことも試されるバンクーバーパラリンピックはいろいろな意味で楽しみがいっぱいだ。

 

 


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