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ネット上の映画評論を集めて判定を下す「腐ったトマト」

5月29日、ディズニー/ピクサーの新作映画『UP(邦題:カールじいさんの空飛ぶ家)』が公開された。評判は上々で、その週末の興行成績6,811万ドル(約68億円)を記録し全米1位を獲得。1週間後には1億ドル(約100億円)を突破し、早くも名作の仲間入りを果たした感がある。

そのディズニーが今回『UP』の広告のネタに利用したのが、Rotten Tomatoes(直訳:腐ったトマト)という映画評論サイトである。『UP』のウェブサイトを開くと、黄色地に赤いトマトの絵をあしらったロゴが浮かびあがる。「Certified Fresh Rotten Tomatoes(ロッテン・トマト公認フレッシュ)」と記されたロゴは、Rotten Tomatoesがいい作品と認めたことを表している。

UPのウェブサイト:
http://disney.go.com/disneypictures/up/

Rotten Tomatoesのウェブサイト:
http://www.rottentomatoes.com/

従来の映画広告では、「New York Times:今年一番の傑作」のように、もっぱら権威あるメディアあるいは評論家のレビューが引用されていた。「腐ったトマト」という名の風変わりなウェブサイトが、『UP』のような超大衆向けの作品の宣伝に真っ先に利用されるとは、時代も変わったものである。

Rotten Tomatoesは、1998年にカリフォルア州サンフランシスコ近郊のウェブデザイン会社Design Reactorで働くSenh Duongが、もともと趣味の延長で立ち上げたウェブサイトである。現在月間のビジター数は180万人。同サイトいわく、最も読まれているオンラインの映画評論(ニールセン社ネット・レーティング調)ということだ。現在そのトラフィックを利用し広告費を集めることで、ビジネスが成立している。

※具体的な売り上げに関しては、広報に問い合わせるも回答得られず。

Rotten Tomatoesは、2004年6月にビデオ・ゲームの総合的情報サイトIGNに1000万ドル(約10億円)で買収された。さらにそのIGNは、2005年9月にNew CorpグループのFox Interactive Mediaに吸収された。アメリカの若者があこがれる、ネットビジネスの典型的成功例といえる。

Rotten Tomatoesの成功の鍵は、優れたコンセプトにある。同サイトは、それ自体、映画の評論をするわけではない。ちまたにあふれる映画評論を集め、ポジティブ、ネガティブの割合を集計するのである。60%以上がポジティブなら「Fresh(新鮮)」と認定される。59%以下は「Rotten(腐った)」となる。評論がポジティブか否かの判定は、スタッフ独自の判断による。

集められた各評論には、要点となるコメントとともにリンクが張られている。そこをクリックすると評論の公表されたメディア自身のウェブサイトで全文を読むことができる。

メディアにしてみれば、Rotten Tomatoesを通してビューアーが増えるというメリットがある。Rotten Tomatoesは、自身でライターを雇うコストなしにコンテンツを集めることができる。インターネットの特性をフルに活用した見事なビジネスモデルと言えよう。

加えて、トマトというイメージ・キャラクターを用いたキャッチーなデザインも成功の一因といえる。利用者の59%が18─34歳の男性ということで、大学生を含め若いオーディエンスが親しみやすい印象を呈している。Rotten Tomatoes同様に評論を集計する後発のMetacriticあるいはMovie review Intelligenceというサイトがあるが、これらは見るからに硬派なイメージである。

Metacritic:http://www.metacritic.com/
Movie Review Intelligence:https://moviereviewintelligence.com/

当初カルト的においの強かったRotten Tomatoes。しかし、ここでの判定は各評論を集計した結果であるだけに、むしろ客観的といえる。ここで「Flesh」と判定された映画は概して完成度が高く、そのままヒットするケースが多い。例えば前出の『UP』はポジティブ評価98%と、非常にまれではあるが、ほぼ満票に近い評価を得ている。

逆に、ある映画を見ようかどうかと迷っているところで、Rotten Tomatoesの評価が「Rotten」になっているからと見るのを止める人は、私の周りにたくさんいる。「この映画は見るに値するのか?」というだれもが知りたい情報が、Rotten Tomatoesではワンストップで簡単に入手できるというのが、大きな強みとなっているのだ。

 

 


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