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フィンランドのギャンブルビジネスは社会貢献しながら稼ぐ

 フィンランドでは、国民の約7割が宝くじを購入し、15歳以上の国民の約半数がスロットマシーンを利用している――と聞いて、「高福祉社会の国で、なんでそんなにお金が欲しいかな」と意外に感じたのは私だけだろうか。特に住み始めたばかりの頃など、毎日のようにスーパーの宝くじコーナーに群がるお年寄りに、「年金が足りないのか?」と心配になり、同じくスーパーのレジを出たところにズラリと並んだスロットマシーンで白昼堂々運試しに興じる老若男女に、この国の爽やかなイメージが覆されたものである。(注:宝くじの購入は18歳から、スロットマシーンの使用は15歳からと年齢制限がある)


スーパーの中のスロットマシンコーナー。
「K-15(15歳以下の使用禁止)」と明示してある。


 実際に宝くじは、スーパーやガソリンスタンド、キオスキ(フィンランドのコンビニ的小売店)など、ほとんどどこでも販売されており、スロットマシーンは、スーパーやドライブイン、そしてバーのカジノコーナーなどに設置されており、専用のゲームセンターも存在する。ヘルシンキ中央駅近くには、「グランド・カジノ」の建物があり、近隣諸国を往来する大型フェリーの船内にも、きらびやかなカジノコーナーが存在する。何事にも質素でシンプルなフィンランドの別の顔を垣間見るひと時である。


キオスキの入り口前に並ぶ宝くじの看板。

 この熱烈な宝くじとギャンブル・ゲームの人気の秘密を明かすと、それは収益金の使用用途にある。1940年からの歴史があるフィンランドの宝くじ会社、ヴェイッカウスは、1日の収益金のうち、約110万ユーロを社会貢献に投入し、教育省を通じて様々なスポーツや芸術活動や科学研究の振興を支援している。同じくRAY(フィンランド・スロットマシーン協会)も、1938年に設立されて以来、その収益金のうち74%が社会貢献に使われており、障害者や退役軍人の為の健康福祉団体やNGOなどを支援している。この事実は国民に広く知られており、国民の約9割以上がヴェイッカウスの活動を支持しており、RAYの運営に関しても、国民の約7割が賛同の意を表している。なるほど、当たればラッキー、外れても社会に貢献できるのであれば、お財布のひもも固くはならない。


大型スーパーマーケットでは、インフォメーションカウンターが
くじの販売や換金を請け負っている


 さらに宝くじは、その手軽さと当選額の高さも人気の理由の一つだ。くじはジャックポット、インスタントくじやスポーツくじなど20種類にも及び、最も一般的なくじであるジャックポットは1から39までの数字のうち7つを選ぶというもので、オッズは、一等が1538万分の1、二等が73万4426分の1、三等が6万8665分の1、四等では1387分の1、さらに五等にもなると4つの数字がマッチすればいいだけなので、73分の1までになる。賞金は100万ユーロからで、現在では570万ユーロの当選者が最高額を記録している。賞金は現金で支払われ、かかる税金はヴェイッカウス持ち。つまり非課税だ。付加価値税22%という高税金の国でウソみたいなホントの話、とフィンランド国民はこの太っ腹さをよく自慢する。


多種多様なくじの記入用紙がずらりと並ぶ、宝くじの購入カウンター


 くじの当選結果は、巨大な透明ビンゴのような機械から数字が書いてあるピンポン玉が吐き出される様子がライブで、国営放送1チャンネルで土曜の午後8時45分から報じられる。国民一同、手に汗握り、固唾を飲む瞬間だ。もちろん、インターネットやテレビの文字放送からでも随時確認できるのだが。また、当選数字の読みこぼしや換金のし忘れがないように、自動的に銀行口座に振り込まれるシステムもあり、オンラインでくじの購入もでき、至れり尽くせりだ。

 しかし、称賛ばかりするわけにもいかない。購入者年齢を18歳まで引き上げた宝くじはまだいいとして、日常的光景としてお馴染みのスロットマシーンに、将来子ども達がハマりはしないかと心配する親はいるし、ベビーカーに赤ちゃんを待たせたまま運試しに興じる保護者の姿もときどき見かける。さらに失業者とお酒とスロットマシーンは危険な三角関係とあって、RAYでは、スロットマシーンに投入金額の制限装置を付けたり社会福祉省に対策資金を提供するなどして、約315万ユーロをゲーム中毒防止対策に投じている。

 それはさておき、ビジネスとなると両社とも好調だ。ヴェイッカウスは、2008年の総売り上げが4億6800万ユーロと前年比で6%の増収、2009年に入っても国民の86%がくじを購入しているという好調ぶりを見せている。RAYの2008年の総売り上げも6億500万ユーロと、前年比で600万ユーロの増収を記録しており、スロットマシーンの最高勝ち額を10ユーロから35ユーロほど増額させるなどしてさらなる飛躍を目指している。国民が強く支持するギャンブル・ビジネスは、「不況知らず」ということらしい。

 


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