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ドイツの医療危機。ホームドクター激減、後継者不足問題

ドイツでは、身体の具合が悪くなるとまずはホームドクターにかかり、必要があればそのホームドクターが専門医への紹介状を書いてくれる。その紹介状無しに、突然専門医にかかるのは困難であったり、なかなかアポが取れなかったりもするので、こうした掛かりつけのお医者さんは無くてはならない重要な存在だ。

所謂日本の内科医のような役割をするこのホームドクター、特別な状態がない患者であれば、予防接種もしてくれるし、病欠の証明書も書いてくれる。勿論薬の処方や、簡単な内診ならしてくれる最も身近な医者と言えるだろう。ところがこうしたホームドクターの開業医がドイツでは激減しており、後継者がいないことが問題になっている。

ドイツ全国におけるホームドクターの数は現在6万人。その内20%が定年前であり、後継者探しに頭を悩ましている。その理由として若い医師たちの経済的な問題が大きな背景としてある。自分で新しく開業、或いは存在する医院を引き継ぐのに必要な投資額が平均18万ユーロと言われている。この金額は、医者の診察料からの取り分から計算すると、大金なのである。

ドイツには法定健康保険と、私的健康保険が存在しており法的健康保険を持つ被保険者の診察代として医者が請求できる金額は定額である。2009年の改革によれば法的被保険者一人頭に対して請求できる診療報酬は一四半期あたり41.53ユーロに制限されている。つまりこれに前年の四半期患者数を掛けたものが現四半期の儲けとなる。

高齢者或いは慢性病患者の場合、この一人頭の金額は上がるし、私的被保険者からは個別に様々な診察代を受け取ることができるが、平均毎月の診療報酬は1万ユーロほどであり、そこから看護婦や助手など被雇用者への給料、家賃、医療器具などのコストをまかなわねばならない。しかも一人頭の請求額も、四半期内で患者数がある一定の数を超えれば、少なくなると言うのだからたまったものではない。働けば働くほど貧しくなるのである。これでは何年もの間、高いレベルの教育を受け、実習を重ねて自国の医者になる意味がない。そのため医者の年収がドイツより高い国に移住することが、若い医師たちの夢である。

それは現在の医学生4000人の調査をしたルール大学の結果からも明らかである。7割が卒業後医者として外国に移住することを望んでおり、たったの17%がドイツでホームドクターになることを希望している。殆どの卒業生は安定した収入を得、決まった時間数のみ働けばよい被雇用者としてのポジション、あるいは夜勤のない研究職を望んでいるとのことだ。最も深刻な問題を抱えているのは、地方の開業医たちであり、彼らのところに就職、或いは後継者として志願してきてくれる医師たちはこの数年で何十分の一にも減少しているそうだ。これではドイツでの医療に明るい未来はないと言って良いだろう。

FOCUS
http://www.focus.de/gesundheit/arzt-klinik/mein-arzt/tid-14433/arztserie-5-der-landarzt-abseits-der-tv-idylle_aid_404538.html

 

 


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