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ハーバード学生のためのハーバード卒業生による融資

今年5月、クシュナー、メタ、パリクという3人のハーバード出身の社会起業家たちが、ハーバードの学生のための、ハーバードの卒業生による融資を可能としたオンライン上の組織「UniThrive」(ユニスライブ)を発起した。http://unithrive.org/

仕組みはいたってシンプルだ。学生は、毎学期ごとに$500から$2000(約5万円から20万円)の融資を希望することができ、学生一人に対して、1名から数名の卒業生が費用の総額を融資することができる。(例えば5名の卒業生が$200ずつ支援することで、$1000を支援する。)

なお卒業生は、$50から融資可能。UniThriveは利子が0%で、学生たちは卒業後の翌年1月から5年以内に返済をしていく。融資を受けた学生と融資を行なった卒業生は、単なる金銭的な貸し借りの関係だけでなく、メンター:メンティー(人生の相談者)としての関係を築く形になる。融資を行なった卒業生は、学生から定期的に学業の状況などについて、報告を毎学期ごと、年間5回に渡り受けることになる。

このUniThriveだが、設立に際して発展途上国(アフリア、南米、アジア)の小規模事業と融資者のあいだで、インターネットを介してマイクロファイナンシング(小口融資;マイクロファイナンス)を行なうNPO機関「Kiva(www.kiva.org)」に大きな影響を受けたという。創業者メンバーの一人パリク氏は、Kivaの代表プレマル・シャー氏の従兄弟にあたり、同組織の発起に際して、シャー氏からも様々な助言を受けたそうだ。2005年から始まったKivaは、現在では1億ドルが融資され、97.8%の返済率を誇る。

UniThriveの仕組みの大枠はKivaとそっくりだが、一つだけ大きく異なる点は利子制度。UniThriveは「利子がゼロ」のため、一部からは利子を得られない出資者には何の魅力があるのか? とも言われている。それについては、UniThriveのコンサルタントで、ハーバードビジネススクールのピスコルスキ教授によると、「多くの卒業生が、後輩に何かを与えることで、自分が活かされていると感じる」といい、利子なしの融資に加え、メンティーを持つというUniThriveの仕組みは、ハーバードの卒業生に受け入れられると考えているそうだ。すでに創業からの1ヶ月で、73名の学生が登録を済ませ、8名の学生が実際に融資希望のフォームを提出。実際に$4500が卒業生から融資された。

さらに興味深いUniThriveの試みは、融資の理由が学業=授業料に限らない点だ。これまでの学生ローンのように、授業料の支払いのために融資を受けるのではなく、例えば「沖縄に訪れるための旅費として$2000を融資してほしい」(在学生/クパーマン氏)といったように、学業とはかけ離れているものの、学生時代にしかできないことをするために必要な費用を、UniThriveによって借りることを可能にしている。ダンサーであるクパーマン氏は「もしこのローンが得られなかったら、夏休みも学期中も普段働いている以上に仕事をしなくてはならず、沖縄に行き、オーディションを受けるための体作りに割きたい時間がどんどん減ってしまう」 という。

「学生生活の最も大切なことは、授業中ではなく、教室の外で過ごす時間なのではないか」とは創業メンバーのクシュナー氏の言葉。在学時代に、週に10時間もバイト先に時間を費やしている友人を何人も見て感じたことだったそうだ。こうして、クパーマン氏のような学業以外のものに取り組むために必要な費用を工面するために、UniThriveを利用する学生が、経験を積んだ卒業生として社会に出て行くことを、組織の大きな目的に掲げている。

UniThriveは今から約1年後、最初の卒業生が返済をはじめる時に、新たなターニングポイントを迎えるだろう。またこうしたハーバード大学という限られたコミュニティーで始められた融資制度が、どのくらい他大学のコミュニティーや地域に影響を及ぼしていくか、楽しみなところだ。

http://www.nytimes.com/2009/06/14/fashion/14unithrive.html?hpw

 

 


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