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「何で伝えるか」より「何を伝えるか」、そして「どう伝えるか」

最近、Twitterへの注目度がとみに高まっている。サービス自体は2006年7月、つまりもう3年も前に始まったものだが、ここへきて話題に上ることが増えたのは、ひとつには政治がらみの利用、もうひとつにはビジネスがらみの利用が増えたからだろう。「つぶやきを共有」する「マイクロブログ」、といっても使わない人には何がいいのかいまひとつわかりにくいらしいが、短文による気軽なコミュニケーション、「フォロー」を通じたゆるいつながり、リアルタイム性などが、受けている要素の主なところなのではないかと思う。

米オバマ大統領が国民に意見を求めたり、デルがアウトレット品販売情報を流して効果的に販売を行ったりという事例を見聞きすれば、これは日本でも、となるのは自然な発想ではある。また、最近のイラン大統領選挙をめぐる騒乱の中で、情報の流れが制約された人々にとって、Twitterによる情報発信と共有がもたらしたものの価値は大きかった。

それらを承知の上で、だが、やはり確認しておきたいことがある。

別に珍しい話でもないので単刀直入に書く。あるメディアが社会に影響を与えるようになっているといった類の話をするときに、そのメディアそのものの機能や特徴などについての部分と、それをどんな人がどんなふうに使っているかについての部分があるはずだが、どうもそれらがごちゃまぜにされている場合が散見されるように思う。

たとえば、政治分野におけるTwitterの活用。最近はTwitterを利用する政治家の数もだんだん増えてきた。国会議員ではまだ数名レベルのようだが、地方議員まで入れるともうそこそこの数になる。政治家をフォローしていると、政治家の方々が日々どのような活動をしているのかがよくわかる。

いや変な話、政治家はたまに議会に出たり、地元で演説したりする以外は宴会をはしごしているか料亭で密談をしているかで楽そうだな、みたいに思っている人はけっこういると思う。実際そういう人もいるのかも知れないが、少なくとも「Twitter議員」の皆さんの日常は、けっこう地味な活動で埋めつくされていて、かなり忙しそうだ。毎日日本中あちこちを飛び回っていたり、午後8時ごろに「これから今日最後の会合」みたいに書いていたりするのを見ると、自分も仕事をしながらではあるが、素直に「ああたいへんだな」と思う。こういった情報に触れることができるようになったのもTwitterのおかげだ。政治が身近になり、政治への参加意識が高まる。Twitterで政治は変わる。いやTwitterが政治を変えるのだ・・。

・・いやちょっと待て。なんだかこの論法、既視感があるぞ。一部の政治家がブログを始めたころ、ブログで政治の話題が多くとりあげられて、選挙結果に影響を与えたとされたころ、同じようなことが語られなかったか? ブログで政治家が身近な存在になり、ブログで政治への参加意識が高まる。ブログで政治は変わる、と。あるいは、動画共有サイトを政治家や政党が使い始めたころ。あるいは、セカンドライフなどの仮想世界サービス内で政治に関するイベントが開かれるようになったころ。日本ではともかくアメリカでは、SNSの利用にも注目が集まっていたはず。

Twitterがだめだとかたいしたことないとかいいたいのではない。ただ、今Twitterと政治の関わりについて語られるメリットの中には、ブログや動画共有サイト、仮想世界サービスやSNSのときにも語られていたメリットと共通する部分がある、ということだ。特徴はあるが、Twitterは数あるウェブサービスの中の1つであり、もう少し広くいえば情報メディアの一種でしかない。この当たり前のことが出発点だ。

コミュニケーションを媒介するウェブサービスはTwitter以外にもたくさんあり、ほとんどの人々はそれらを複数組み合わせて使う。たとえば、オバマ大統領が活用したのも、当然ながらTwitterだけではない。電子メール、FacebookやMySpaceなどのSNS、さらに自身のウェブサイトのSNS機能を活用して、当選の原動力としたし、今も積極的に活用している。

イラン情勢に対する国際社会の態度を決定づけた女子大生の死の瞬間の動画は、CNNなどのマスメディアがそれを繰り返し取り上げたことで世界中に知られるようになったのだが、元はYouTubeに投稿されたものらしい。また、イランは世界中で最もFriendfeedが盛んに使われている国でもある。件の騒乱の中でFriendfeedなど、さまざまなネットサービスが次々と遮断され、Twitterが唯一のコミュニケーション手段であった状況がみられたそうだが、それはFriendfeedと比べてTwitterのプレゼンスが小さかったからだともいえる。

一方、Twitterでのコミュニケーションは、短文であるがゆえに発信者にとっても受信者にとっても敷居が低いのがメリットだが、同じ理由で情報量はきわめて限られる。他のサービスと合わせて使うことでその真価が発揮されるわけだ。だからTwitterだけをとりあげてその価値を論じるのは一面的にすぎる。

また、Twitterでは(他のウェブサービスでも同様だが)、大統領候補の考えや緊迫する政治情勢を伝えることもあるが、「いま駅」「ピザ食いたい」のようなたわいもない話も多くある。情報のやりとりの価値を云々するのもどうかと思うが、もし前者のようなものがなく、後者のようなものばかりであったとしたら、Twitterへの注目のされ方は少なからずちがっていたのではないか。

日本ではまだこれからだろうが、米国でTwitterは政治家以外にも多くの有名人に使われている。もちろんそれはTwitterが持つ使いやすさなどの優れた特徴によるものではあろうが、そうして発信される情報に人が群がるのは、それがTwitterだからではなく、彼らの日常を覗き見したいからだ。もしTwitter以外でそうした情報が発信されるようになったら、人々はためらいなくそちらへシフトするだろう。また日本では現在のところ、Twitterユーザーは比較的ネットリテラシーの高い層、社会への関心が高い層に多く分布しているようだ。しかし今後さらに普及が進み、友人同士のコミュニケーションやセレブの動静を「覗き見」することにしか興味のない層の人々や、ネット上で他人を攻撃することそのものを楽しみとしている人たちが大量に流入してくるようになれば、コミュニティの質も当然変化していくだろう。日本に独自のネット文化が存在する以上、Twitterの受け入れ方がある程度「日本的」なものとなることも避けられまい。

さらに、これまたあらゆる情報メディアに共通する課題だが、情報の流れがよくなることにはメリットもあればデメリットもある。自殺の方法のような危険情報や偽の情報、プライバシー情報などが出回ってしまったりするのも、いったん流出してしまった児童ポルノの回収が難しいのも、情報の流れのよさに直接あるいは間接に関係している。いまや電子メールはスパムに占領されてしまったかのようだし、リアルタイムメディアの場合は、常にその情報に触れていないと落ち着かない中毒状態を生み出しやすい。Twitterの場合も、今はどうか知らないが、株価を操作するための偽情報の発信やスパムの増大、1日中携帯電話でTwitterにかじりついている「Twitter廃人」など、多くの問題が少なくとも潜在的には生じうるし、実際に生じるだろう。

あらゆる情報メディアの両方の末端には人間がいる。メディアの意義や価値は、それを誰がどのように使っているかということと切り離せない。つまり、「何で伝えるか」より、「何を伝えるか」、そして「どう伝えるか」が重要ということだ。Twitterが政治との関係で注目されているのは、それを政治がらみで使う人が増え、新たなタイプのコミュニケーションが可能になったからだが、そこで伝えられるものは、Twitterでなければ伝えられなかったものでは必ずしもない。その意味では、Twitter自体よりも、それを使って人が何をどう伝えているかに注目すべきだ。

その意味で、「Twitterが政治を変える」というのはやや言葉足らずではあろう。もちん、Twitterで政治は変わらない、といいたいのでもない。Twitterだけではなく、ブログや動画共有サイト、SNSやセカンドライフも含めたウェブサービスの発達によって、政治は、少なくともある程度は変わった。マスメディア発の情報か演説会の会場でしか触れることのできなかった情報に、私たちはこれらのウェブサービスを通じて触れることができる。マスメディアでは伝えられなかった政治家の「素顔」や日常、さまざまな事実、懸案事項の背景にある問題意識などを知ることもできる。これらのサービスがなかったころと比べて明らかに、政治はより身近に、自分たちの問題としてとらえられるようになった。この傾向は今後も続くのではないかと思う。しかし、Twitterによってのみ変わるというわけではないし、いい方向にだけ変わるということもなかろう。

今後もさまざまな便利な機能を持った情報メディアがどんどん登場し、普及したり、すたれたりしていくだろう。私たちはそれらの中から目的やニーズに合ったものを選び、合わないものを捨てていけばよい。Twitterは今、政治家という一般人には「遠い」存在を少しだけ近づけるのに役立っているから使われている。また、メリットの裏にデメリットがあるという構造は、情報メディアに限らず、あらゆる便利なツールに共通する。無用な摩擦や問題は避けたほうがいいに決まっているが、すべてのデメリットを除去することはできない。結局、私たち自身が学んで使いこなしていくしかないのだ。

その意味で、「Twitterは政治や報道を変えるのか(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0907/01/news062.html)」というより、「Twitter が政治を変えるのではなく、Twitterを手にした僕らが政治を変えるのだ(http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2009/07/twitter-twitter.html)」というより、Twitterを含むさまざまな情報メディアを適切に活用することによって政治を変えていこう、ということになるのではないか。

 


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