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韓国の「代筆業」盛況に見る現代人の他力依存

 唐突だが、人に思いを伝えたい時、どんな方法があるだろうか? 古くは「手紙」が一般的であったが、ネットや携帯電話が発達し、生活の中心となっている現代において、人々の交流の手段としては、手紙よりもメールやメッセンジャーによる方法が真っ先に思い浮かべられるのではないだろうか。事実、私自身も最近では手紙を書く機会がめっきり減り、メールの利用が主である。そんな、「ネット大国」と呼ばれる韓国では最近、「手紙」を代筆する「代筆業ビジネス」が注目を集め盛況となっている。

 朝鮮日報によると韓国で最初に代筆業ビジネスがスタートしたのは2003年頃で、当初は10社程度だったものが、主に新聞広告やインターネットサイト、企業向けに電話営業等を展開し、徐々に知名度が高まり2009年現在では60から70社にまで増加したとのことである。各社とも平均で10人前後の代筆者を置き、日本で「代筆」というキーワードで検索すると多くが「筆耕」、または「ラブレター」などといった内容にあたるが、韓国の場合はどのような利用者からの依頼が多くあるのだろうか?

 日本同様、「ラブレター」や「筆耕」といった依頼ももちろんあるものの、依頼者の多くが家族との関係に問題を抱えているという事情があるとのこと。そして、家族関係や夫婦関係を修復したいという願いはあるものの、「相手と面と向かって話をすれば口論になり、手紙を書くには自分の思いを上手く相手に伝える自信がない」ということから代筆業者の筆に思いを託すという訳だ。離婚が増加傾向にある韓国では、この2から3年、夫婦の危機的状況を打開すべく代筆業に救いを求めるケースが多くあるのだという。この他には職場のプレゼン原稿や、自営業継続のための銀行への融資を懇願する手紙、さらには単位不足による進級や卒業危機の大学生が、教授から「反省文とレポートの提出」を命じられ、「代筆して欲しい」という依頼まである。

 では、依頼をする人に対して、依頼者の問題解決のために一肌脱ぐ代筆屋はどのような人たちが請け負っているのであろうか? 作家やライター志望者もいるものの、実はその多くが副業の主婦によって支えられている。報酬と仕事量は文章の内容や量によって様々だが、平均的に1件A4サイズの用紙1枚につき20,000ウォン(1,400円)程度を1日に2から3枚のペースでこなす。韓国のアルバイトの平均時給6,000ウォン(430円)と比較して割りの良い副業であること、主婦層の労働の場が限られている中、在宅で自分のペースに応じてできるのが魅力であると言える。しかし、「代筆業」を副業として請け負う人の中には、依頼をする人々の様々な事情を知ることで、「自力」でなく「他力」による問題解決に手を貸していることに疑問を感じたり、事実を知らず代筆された手紙を受け取る相手を思うと罪悪感を感じることもあるという。

 韓国では元々、「情」という言葉が人々に浸透しているが、これは家族、友人といった人間関係が濃く深いものであることを表している。それが、近年では核家族化の加速や、ネット、携帯への過度な依存による「コミュニケーション不足」、「人間関係の希薄化」が日本と同様に指摘されるようになっている。あらゆるジャンルの「代行業」が乱立している韓国の現状は「代行文化」とも評され、これは、問題解決をするための努力を試みることよりも、お金さえあれば他人の力で問題を解決しようとする現代人の安易な傾向があると言えよう。また、人々のコミュニケーション能力が低下することは今後の韓国社会にとって、損失であり危惧すべき点であろう。

 


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