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不況の中で人気呼ぶ車両出張サービス(移動店舗)

  • 米国在住ジャーナリスト

 オフィスビルに横付けされたバスに乗り込むそのビルで働く従業員。バスから出てくる男性ビジネスマンの姿には、気のせいかさっぱりとした凛々しさが漂っている。ここは誰もがカジュアルな服装で仕事をするシリコンバレー。ラフなカラーシャツにパンツ姿という出で立ちは車内に消えるときと何一つ変わっていないのに・・・。

 バスから出てきた人たちをよく観察すると、髪型がしっかりと整っていることに気がつく。そう。このバスは移動理容室だったのだ。散髪ができるように車内を改造したバスで会社を訪問し、髪を切りたくなった従業員がちょっとの間仕事を抜け出して利用する。

 モバイルヘアサロンを展開するのは、シリコンバレーの中心地サンノゼ市を拠点とする「オンサイトヘアカット」。代表のデナ・カウファーさんは、ヘアサロン経営に関して20年以上の経験を持つベテランだ。

 このサービスを思いついた理由をこう語る。「みなさん良い外見を保ちたいと思ってはいるけど、ランチタイムを潰して髪を切りに行くのも時間の無駄だと考えている。そうかといって休日に混雑しているヘアサロンへ行き、長い時間待たされるのはもっと最悪。それなら、こちらからみなさんの仕事場に出張するべきだ」。

 直接行っても構わないが、待ち時間を作らないために同社のウェブサイトから予約ができる。日によってバスが訪れる場所が決まっているので、場所と時間を指定する。例えばグーグルに来るのは毎週木曜日と金曜日。ヘアカットかヘアカットとシャンプーかを選択し、朝9時から夕方4時20分までの間、10分刻みで予約を入れられる。

 バスが立ち寄るのはシリコンバレーのハイテク企業。eBay、Electronic Arts、Genentech、Juniper Networks、NetApp Sunnyvale、NVIDIA、SanDisk、Yahoo!、といった各社の駐車場に日替わりで出張する。ヘアカットは20ドル、シャンプーは5ドル。ヘアカラーやパーマはできない。

 就業時間内に髪を切りに行っていいの? と思うかもしれないが、フレックスタイムを採用するハイテク企業では個々の時間管理を割と自由にできる。それなら直接ヘアサロンに行く方法もあるが、わざわざ車を運転して出かけるよりも、オフィスの目の前まで来てくれるほうがやはり楽に違いない。利用者からもそうした声が多く、歩いてすぐに行ける便利さを何よりも利点として挙げている。しかも散髪代の20ドルは安い部類に入る。

 個人宅などへ出かけていく出張理容室は細々と行われていることもあるが、バスで乗り付けて大量に散髪してしまう発想がアメリカらしい。聞くところによると、オランダでは企業が理容師を社内に呼び、従業員の散髪をしてもらう動きが流行っているという。費用は会社負担なので無料でヘアカットができる。

 車両を使った出張サービスは理容室以外にもいろいろある。フロリダ州にある「コーヒーブレイク」は、パーティーやイベント会場などにバンで乗り付けてコーヒーを販売する。スターバックスが生まれたワシントン州でコーヒー文化に触れたオーナーのサリー・ヘイマンさんが、美味しいコーヒーをフロリダのみなさんにも便利に届けたいと考えて始めた。決まった滞在場所はあるが、依頼に応じて出張するパターン。どこに行けば会えるかはウェブサイトを見れば分かるようになっている。

 移動車両の中でペットのグルーミングを行うサービスも人気を呼んでいる。1976年からこのサービスに取り組んでいるワグン・テールズは、ビジネスをフランチャイズ化して全米展開をしている。フルサービスのペットグルーミングをうたい文句にするオージーペットモバイルも同様。全米に100近いフランチャイジーを持ちながらサービスを行う。バンで顧客の下へ訪問し、車内に備え付けの設備を使ってペットのシャンプーやブラッシングを行う。

 こうした車両を使った出張サービスは、店舗を構える場合と比べて賃貸料がかからないうえ、営業時間も比較的に自由に設定できる。車両自体が走る広告となるのも大きな利点だ。

 

 


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