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それでも、ネットの選挙戦が実現しない本当の理由

衆議院選挙が刻々と近づいてきている。

ボクは、恥ずかしながら、2007年の東京都の参議院選挙に立候補した経験があり、選挙の大変さは、一般の人より多少理解しているつもりだ。また、当選するためには、あと60倍の努力が必要ということも得票数から感じることができた(1万1200票獲得で、当確ラインは60万票だった)。

それと同時に様々な選挙にまつわる税金の無駄遣いを目の当たりにしてきた。

選挙は、莫大なコストがかけられているのにも関わらず、どうして一向に改善されないのだろうか? インターネットを活用することによって、節約できるコストはふんだんにある。

むしろ、インターネットを活用されると利益が供与されなくなるという、裏の構図そのものに問題があるのではないだろうかと疑問を抱きつづけている。

それは、選挙公示前までは、選挙の出馬に関する情報も一切外部に出せない、すべて「候補予定」であるとかモゴモゴしている変な雰囲気から始まっている。

さらに「公示日」以降になって、はじめて出馬していることを世間に公示できる。しかし、反対に公示日(今回は、2009年8月18日火曜日)からは、候補者は、一切、ウェブサイトなどのネット上での更新ができなくなる。

政党は「政治」に関しては可能で、「選挙」に関することは不可能という変なとりきめもできた。だから、政党のウェブサイトの表現も公示日以降は、肝心の「選挙」ではなく「政治活動の一環」として更新されるので投票に役立たない。

これは公職選挙法第142条第1項の「文書図画の頒布」にインターネット活用が定められていないことが原因だ。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html

文書頒布で定められているのは、衆議院(小選挙区選出)の場合は、【1】通常ハガキ 3万5000枚 【2】ビラ2種類 7万枚までとある。

8 月18日以降は、これらの【1】【2】以外の文書を頒布(不特定多数の人に配布)してはならないのだ。名刺を配っても、実は、公職選挙法違反なのだ(政党団体は、パンフレットが無制限に頒布できるという条件は、公職選挙法第143条)。このあたりも都合のいい法律のようにしか思えてならない。

まず、合法的と言われているこれらを費用の面から検討してみたい。

【1】通常ハガキ 3万5000枚

一人当たりの候補者に対して通常ハガキ3万5000枚。
一枚の送料を50円としても175万円。これはすべて国の負担だ(落選者にも適用される)。つまり送料はすべて税金の投入だ。しかも、民間企業の日本郵便だけに発注されている。これを衆議院の定数480人に対して5倍の候補者がいると考えるとこれだけで、候補者約2400人。ハガキの送料だけで約42億円の予算が計上されていることとなる。

この金額を日本郵便という「特殊」な民間企業ではなく、ヤマト運輸や、佐川急便という「普通」の民間企業に発注したら、どうなるだろうか? 一斉に見積もり合戦となり、半額の20億円くらいで発送できるのではないだろうか? これだけでも約20億円の節税である。

なぜ、選挙の時に大量発注をするのに、値引交渉がおこなわれていないのだろうか? これが大きな疑問だ。消費者庁ができたら、一目散に陳情すべき問題だ。日本郵便に公共事業でも委託しているというつもりなのだろうか?

この矛盾を解決するいい機関がある。内閣府の外局である公正取引委員会だ。
郵便局が民営になった現在、公正取引委員会の独占禁止法第一条に抵触している恐れがあるとボクは考えている。

第1条は「私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする」とあるからだ。

郵政民営化の第一弾として、公正取引委員会に調査を依頼するのも悪い話ではない。
公正取引委員会は誰かが調査を依頼しなければ、自らは決して動かない。それもお役所仕事としか言えない。


【2】ビラ2種類 7万枚

さて、この選挙のビラの7万枚。
これをどうやって7万枚までと確認しているのかご存知だろうか?

印刷会社から証明書を発行してもらう? いやいやそんな不明瞭なことはしない。ビラの数を目視で確認する? それはまったく無理な話だ。そこで、はるか昔から、日本の叡智を集約させた方法がある。

なんと、各候補者に対し、ナンバーのはいった証紙シールを7万枚印刷し(配らない人にも平等に)、それを配布し、添付させるという手法だ。公示日に抽選がなされ、ポスター看板の番号と共に、段ボール6箱分もの証紙シールをビラの一枚一枚に添付するのだ。どうして、そんな発想になるんだ? これは候補者に対してのイジメとしか思えない。

選挙などのボランティアの大半の仕事がこのビラに証紙を貼る作業で一日が始まり、一日が終わる。内勤のボランティアでさえ、なぜ、こんなことをしなければビラがまけないのかと考えこんでしまう。

むしろ、版下を政府が一気に預かり、一斉に印刷会社に発注して枚数を把握すればすむことなのである。もちろん、選挙ポスターも同様の方法で、一斉に張り出すべきなのである。あの掲示板は、候補者や応援者に貼ってもらうためにあるのではなく、自治体の管轄する住民へ、候補者を告知するサービスであるという意識が選挙管理委員会にはまったくない。

それらもすべて、「公職選挙法」のすべて平等にという戦後代々のコンセプトからきている。


さらに、選挙のシーズン、印刷会社は実は、一番の稼ぎ時でもあり、地域の有力支援者でもある場合が多い。そりゃそうだ。獲得投票の定数に達した候補は、公費でポスター代金を請求できる(上限があるが、上限枠ギリギリまで使える)システムがあるからだ。

ここに、印刷会社との様々な取引が発生していると考えてもおかしくない。

実際、ボクのところにもいろんなオファーがあった。当選した場合の請求と落選した時の二種類の請求書。さらに、ポスター制作費の水増し請求で、パンフレット印刷費や寄付金への流用など。まさに公費を使った錬金術だ。いや税金詐欺? このあたりを管理するのは自治体の選挙管理委員会だけ。彼らは請求される書類に不備さえなければ、簡単にハンコを押してしまうDNAで生きている。

このあたりも、民間企業であれば、コストを削減するという意識が強く働き、水増し請求を見抜くことができるが、全くそれがなく、まわりまわった税金のなれの果ては、いとも安易に一部のステイクホルダーにだけ供与されてしまう。

「選挙区候補者広告」と呼ばれる新聞広告は、国の負担で出稿できる。横9.6センチ縦2段で5回まで。すべて読売新聞で都内において出稿すると、200万×5回=1000万円も広告スペースに税金が投入されてしまう。それがたった一人の候補者だ。単純に2000人の候補者で200億円という広告費用となる。こちらは当選落選に関係なく公費負担となる。

ボクも総額、約400万円相当の選挙広告を出させていただいたのであまり強くいえる立場ではないが、まとめて一社の広告代理店にお願いすると、いろんな利益供与がある話も聞けた。そりゃそうだろう。一代理店が議員一人を口説けば、最大1000万円近いバジェットが入るのだから。代理店マージンだけでも、ざっと150万円だ。

まさに新聞広告は、代理店に対しての公共投資事業だろう。ここでも国は、値引き交渉を各新聞社としたことがないというのが信じられない。

すでに、日本国民に占めるネットユーザーは、人口の75.3% 9091万人(2008年総務省)であり、反対に、新聞の成人人口1000人あたりの購読者は624.9人。つまり62%である(2007年新聞協会)。インターネットが、特別な時代ではなく、紙の新聞が特別な時代へと向かいつつあるのだ。

いつまでこの茶番を繰り返すつもりなのだろうか?

そして、政見放送のテレビも問題だ。

民放は持ち回りで、政見放送の時間分の放映料と番組制作費を国からもらえる。NHKは特殊で、毎回放送協力ということで政見放送を担当する。リハーサルは一回。本番一回5分まで。どちらか、いいテイクの方を本放送で使う。あとはラジオだ。ラジオも民放持ち回りとNHKがある。

通常の番組とはちがう、政見放送だから、YouTubeなどの動画共有サイトに対して、提供させるべきだと思う。実際、ボクの政見放送は朝の5時台であった。いったい、何パーセントの視聴率の時間帯だろうか?

国民の参考となる情報提供のしかたが、原理原則からゆがみ始めていることを、国はもっと認識すべきだろう。


選挙になると、ウハウハと儲かる人々がいる事が最大の問題ではないだろうか? その人たちの票が力となり、当選へ導いてくれるという流れの政治家がいる限り、インターネットを活用する選挙へとはなかなか到達しにくい。

しかし、ひとつずつ、これらの矛盾を、マニフェストに明記するような政党などがあらわれることによって、民意が届きやすい、利益供与だけでない本当の民主主義によって選ばれた議員たちが国をドライブしてくれるものと今後は信じたい。


また、今回の衆議院選の一票の価値は有権者一人あたりで計算してみると、320万円となる。

日本の年間国家予算80兆円×衆議院の任期を4年、有権者数1億人として算出してみた。

いっその事、投票に行くと1%還元して3万2000円キャッシュバックしてもいいくらいだ。
その分、3兆2000億円の税金がかかるが、この選挙のムダ使いを減らせばなんともない数字ではないだろうか?

そうすると、誰を選択するのかで、たくさんの人が情報を集めたくなる。そんな時にハガキやビラ、テレビの政見放送で納得できるのだろうか?

さらにもう一つ、忘れないでほしい事がある。One more thingだ。

有権者には、各自治体から「選挙案内ハガキ」が送られてくるはずだ。

そこに、すべての各候補者のパンフレットやビラが挿入されていれば、一番比較検討しやすいのではないだろうか?

公示日に各候補の「選挙キット」を一斉に送る。それで、公民館などでの演説やネットの中で政策討論やライブ演説が行われる。路上では、名前の連呼は禁止、決められた場所のみでの演説など、ルールとマナーを守った選挙戦は可能かと思う。

その先に、はじめてインターネットを活用した選挙が実現できるとボクは思う。いかがなものだろうか?

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○Business Media 誠  2009/05/01
 “ネットと政治”を考える(前編)
  ――オバマにできたことが、なぜ日本の公職選挙法ではできないのか?
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/0905/01/news038.html

 

 


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