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世界最低を記録した韓国の出生率に見る少子化の理由

 韓国は日本以上に少子高齢化が加速度的に進んでいる国と言える。昨年発表された一生涯に女性が子どもを出産する数を示した特殊出生率は1.13と日本をも下回り世界最低となった。加えて男女共に初婚が20代終盤と晩婚化の傾向が年々進み、結婚しても子どもをもうけなかったり、「子どもは一人だけ」といった現状も顕著になっている。特にソウルや釜山の都市部での少子化の傾向が強くなっている。

 10年前アジアを中心とした経済危機は韓国では「IMF危機」と呼ばれ、当時、学生であった20代は深刻な就職難を経験した。そして、彼らが30代になった今、再び経済危機が世界規模で起こった。日本と同様に韓国でも非正規雇用者の解雇が問題となり、特に30代の失業率や非就業率は増加の一途をたどっている。10年の間に経済危機を2度経験し、雇用や賃金水準も不安定な中で社会の原動力となり得る時期を過ごしている現在の30代は、結婚や将来に対する希望や計画を積極的に持てないでいる。それが、前述のような結婚の晩婚化や少子化にもつながっているのだ。

 こうした若年層の結婚への消極的な姿勢に加えて、少子化に拍車をかけているのが、幼児期からの教育熱である。日本のマスコミなどでも「大学受験」や「早期留学」といった韓国の教育に関連した話題が度々報道されることがある。毎年11月に日本のセンター試験に当たる「修能試験」が大学入試試験として行われるが、この日を目指して受験生たちは日ごろから昼夜や学校の休暇期間を問わず勉強に励むのである。こうした過酷な学業の環境についていけない、進学を悲観するなどして毎年、修能試験の前後になると受験生の自殺といった悲しいニュースも聞かれる。また、韓国の新聞や折込広告には毎日のように受験生を対象にした予備校の広告が入ってくる。韓国の御三家と言われる「ソウル大学」、「延世大学」、「高麗大学」の名門大学への過去の合格者数の実績を謳い文句に予備校も少子化の中で生き残りを賭けて生徒の獲得に必死だ。

 韓国では日本の「お受験」という言葉に称されるような小・中学校や高校の入学試験はなく、大学受験の過熱ばかりが注目されがちであるが、例えば、ソウル首都圏の小学生のいる家庭が1ヶ月にかかる平均的な教育費は100万ウォン(77,100円)にのぼると言われ、韓国の平均月収が300万ウォン(231,300円)であることと比較すれば、子どもにかかる負担がかなり大きいものであると言える。

 さらに、李明博大統領が「早期英語教育を重視する」と政策に掲げたことで、幼児期からの英語教育にも火がついた。現在、幼稚園や保育園といった教育機関に於いても英語の授業は必修である。これに加えて、小学生になると母子で英語圏に留学するという「早期留学」も目立っている。以前はアメリカやオーストラリア、ニュージーランドへの渡航が多かったものの、留学費用の負担の大きさやビザ取得の制限、審査が厳しくなってきたという背景から、近年では、フィリピンやマレーシアといったアジアで英語を公用語として使う国のインターナショナルスクールへ留学するというケースが急増している。

 また、こうした一家の稼ぎ頭である父親が韓国に残り、留学先の母子に仕送りをする「キルギアッパ(渡り鳥パパ)」と呼ばれる別居家庭も現れた。しかし、こうした別居状態や、「子どものため」とは言え、家族と離れてひたすら仕送りだけをする父親が精神的、肉体的に異常をきたすケースもあり、社会問題となっている。子どもの教育は親としての責任が大きいというのは確かであるが、果たしてそうした教育熱が子どもの将来を保証するかと言えば、それは疑問である。

 若い世代の結婚、出産に対する態度と、子どもにかかる過度な教育の負担は、現在の少子化という問題だけにとどまらず、長い目で見た場合、韓国の経済や福祉といった多方面に亘る分野に影響を及ぼしかねず、危惧すべき点であると言えよう。

 

 


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