日本では新型インフルエンザによる死者が10人を超えると共に各地で流行が止まらない状態だ。この現状は韓国でも同じで、8月15日にタイから帰国後に発症した50代の男性患者の死亡を皮切りに9月8日現在までに6人の死亡が確認されている。

　感染も7月下旬頃から急速な拡がりを見せ、特に感染者が急増した南東部の釜山と周辺地域を中心に、幼稚園や小学校の教育機関の夏休みを前倒しして開始する措置が取られたり、夏休み期間中に海外への渡航をした生徒については「帰国後１週間は自宅待機」など感染拡大の阻止に努めてきた。また、夏休み期間中を中心にソウルや釜山、済州島など国際線の航空機、船舶が就航している空港、港での出入国の際の乗員、乗客の健康や体温の検査なども強化されてきた。

　しかし、各地の学校では新型インフルエンザの感染に加えて季節性インフルエンザの感染による欠席者数も増えるなど新学期早々、学級閉鎖や休校を余儀なくされている学校もある。特に11月には修学能力試験（日本のセンター試験に当たる）を控えていることもあり、受験生にとってもこの時期の新型インフルエンザの流行と休校は憂慮すべき事態である。また、10月初めには旧盆の連休があり、帰省で韓国内外での人の流れが活発化するだけにさらなる感染の拡大も懸念されている。

　そんな中、今回の新型インフルエンザの感染拡大は、韓国に於いての対策や対応の遅れ、人々の予防に対する意識の低さを露呈する結果にもなっていると言える。先日の韓国の大手メディア朝鮮日報には、「手洗いをしない韓国人」というタイトルのコラムが掲載された。そこには韓国人の手洗いなど衛生管理に対する意識の低さや、危機管理の希薄さがあると指摘されている。

　ソウル市内のある地下鉄駅でのトイレ利用者の動向を調査したところ、「10人中4人はトイレ使用後に手洗いをしていない」という統計まで示されていた。新型インフルエンザを初めとする感染症の予防の基本とも言える「手洗い」の習慣が韓国では根付いているとは言いがたい現状を示すと共に、警告しているものだ。本来なら家庭や教育現場で教えられるべき「手洗い」の重要性が注目され始めたのはこの２から３年の間と言われ、むしろ子どもよりも成人層の意識が低いことが問題と指摘されている。

　４月に新型インフルエンザの流行の兆しが世界的に見始められた時期に、日本が水際での防止強化などの徹底を行っていた時にも、韓国では新型インフルエンザのニュースは大きく騒がれることもなく、日本の過熱した報道や街の様子とは対照的であった。2002年から2003年にかけてアジア地域で新型肺炎（SARS）が流行した際、韓国では感染者や死者を出すことなく流行期を乗り越えた。この際、韓国では「韓国人が感染症や疾病に強いのは（キムチなどの）食生活に理由がある」と冗談とも本心とも取れるようなことが言われていた。こうした感染症の流行が起こる度に、韓国は「対岸の火事」のように楽観視しているという印象を受けると同時に、韓国人の健康に対する過信を感じるのである。

　「健康になる」という意味で英語の「Well Being」と言う言葉が流行語にもなっている韓国では、「体に良い」とされるものはすぐに流行に火が点き、ヒット商品が続々登場する反面、変化も早い。特に、中高年世代にその傾向が見られ、「韓方薬」の服用による東洋医学への信頼と、「民間療法」的な健康食品への依存が顕著である。しかし、結局のところ、新型インフルエンザを初めとする疾病の特徴に対する理解ができていなければ、感染は未然に防げない。普段からの衛生管理など細かい心がけから予防への糸口がつかめるのではないだろうか。