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不当?正当?Facebookでボスを批判した公務員をめぐる解雇騒ぎ

<記事要約>

NSW州職員5人が画期的な権利―Facebookで上司を批判する権利―を求めて、IRC(Industrial Relations Commission=州労使関係委員会)に出席することになった。

今回の論争は、ソーシャル・ネットワーキング・サイトにおける雇用関係を試すオーストラリア初のケース。中心となる争点は、ソーシャル・ネットワーキング・サイト上の発言はパブリック(公)なのか、プライベート(私)なのかという問題だ。

ロン・ウッダムNSW州矯正局長に関するコメントをFacebookに投稿した5人の刑務所職員は、解雇の危機にさらされているという。

矯正局は、職員の「許可されていない公のコメント」を非難しているが、不当解雇ではないかとするNSW州公務員組合からの申し立てを受けて、IRCが審問を行う。

2009/9/17 SmartCompanyより


<解説>

Facebookは、言わずと知れた世界最大級のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。日本語版が昨年公開されたばかりの日本市場では、攻めあぐねている感があるものの、ウェブ・トラフィック分析を行うComscore社が発表した今年6月のユニークビジター数は全世界で3億4000万人に達し、トップ3のGoogle、Microsoft、Yahoo!に続く世界第4位のウェブサイトに成長している。オーストラリアではFacebookユーザー数が前年比で95%増加して、ライバルのMySpaceを完全に引き離し、ユニークビジター数ではYahoo!を抜いて第3位という快進撃だ。

Facebookの始まりは米国のハーヴァード大学の学生を対象としたクローズドなコミュニティ。最初の頃は学生限定だった登録制限を早々に撤廃して一般公開に踏み切った経緯があり、今では、「人々に共有するパワーを与え、世界をもっとオープンでつながりのあるものに」と謳っているように、かなりの部分でオープン化が進んでいる。

今回問題となったのは、「Suggestions to help Big RON save a few clams.... 」と題したグループ(http://www.facebook.com/group.php?gid=78104463880)で、現在のメンバー数は150人超(2009年9月25日現在)。ビッグ・ロン=矯正局長のことで、グループの種類には、「このグループは公開されています。誰でも参加でき、他の人を招待することができます。」と書かれ、管理者の顔写真も一般公開されている。

同グループが発足したのは昨年10月。ちょうど州内の複数の刑務所の民営化が活発に議論されていた頃と活動時期が重なり、どうやら民営化反対の職員らがここで代案を提案すると共に、気勢を上げたり、大ボスの矯正局長を批判したりしていた、ということらしい。複数の職員が、「不品行を犯したため、解雇を含む懲戒処分を検討中」という通告を矯正局から受け取ったことから、公務員組合が「ちょっと待った!」と介入して、騒ぎが大きくなったわけだ。メディアは、5人(のち6人)の職員を“Facebook Five”と名付けた。

Facebookユーザーの大半は実名で登録しているため、匿名性が低く、人探しが簡単という特徴がある。疎遠になった旧友や知人と再会したというのはよく聞く話。最近は、採用選考の際にFacebookなどのSNSを利用して人物チェックを行う企業も珍しくないが、それが原因で不採用となっても表面化することはまずない。大企業の中には、従業員によるSNS利用のポリシーやガイドラインを策定しているところも少なくなく、業務時間内・外を問わず、それなりに問題は発生しているのだろうけど、解雇騒ぎにまで発展したのは、オーストラリアではおそらく今回が初めてだと思う。

英国では、ヴァージン・アトランティック航空が、会社の信用を傷つけたとして、Facebook上で同航空会社や乗客を批判するコメントを投稿した乗務員13人を解雇したことがあり、その後Facebookには、“Facebook 13”の復職を訴える「VIRGIN ATLANTIC: REINSTATE THE "FACEBOOK 13"!!!」というグループ(http://www.facebook.com/group.php?gid=78104463880)が出現している。

公務員組合は、「仲間とパブで飲みながら、仕事上の批判をしたり、愚痴をこぼしたりするのと、どこが違うのか?」と鼻息荒く、SNS上のコメントを含め、就業時間外の発言や行動はあくまでプライベートの範疇であって、それを理由に解雇されるべきではないと訴えている。

Facebookは設定をカスタマイズすることで、ある程度は誰にどんな情報を公開するかコントロールすることはできる。だが、どれくらいのユーザーが、プライバシーは守られていると信じているのだろうか?

完全にオープンではないけれど、決して閉ざされた空間とはいえないSNS環境での、言ってみれば「会社やボスの悪口」や「仕事の不満や愚痴」に対し、IRCがどういう判断を示すのか興味深い。


【関連情報】

○WIRED VISION  2009/06/11
 「SNSでの発言にご用心:解雇や処分が増加中」
http://wiredvision.jp/news/200906/2009061121.html

○Narinari.com  2009/02/27
 「仕事が最高に退屈!」SNSに載せたコメントが原因で解雇処分に。
http://www.narinari.com/Nd/20090211201.html

○ITmedia News  2008/10/18
 「個人的虚栄心」ヤングガンガン契約社員を解雇 SNS日記問題で
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0810/18/news003.html

○メディアサボール 2009/01/09
 「コミュニケーションを分断し、排他性、閉鎖性がすすむSNS、ブロゴスフィア」
http://mediasabor.jp/2009/01/sns_2.html

 

 


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