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場所によっては失明の危険もある帯状疱疹、ピリピリッと来たら要注意

 帯状疱疹は、子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルスが原因で発症する。水ぼうそうが治ってもそのウイルスはまだ体の中に潜んで生き続けているからだ。

 麻疹(はしか)や風疹は一度かかると二度とかからない終生免疫を獲得できるが、同様に水痘(水ぼうそう)も一度かかると二度かかることはない。しかし、帯状疱疹(たいじょうほうしん)という病気はやっかいなことに、この、子供の頃にかかった水ぼうそうの水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が再び活性化することが原因で発症する病気である。

 水ぼうそうが治った後、このウイルスは三叉神経節や脊髄後根神経節と呼ばれる知覚神経の神経節に潜伏するという性質を持っている。健康な状態では悪さをしないが、加齢やストレスなどで長期間免疫力が低下したときに、体内の神経節に潜伏していたウイルスが再び活性化して、神経の走行に沿って帯状に疱疹が出来ることから帯状疱疹と呼ばれている。

 帯状疱疹にかかるとピリピリとした神経痛様の痛みを感じ、数日から一週間ほどでその神経走行に沿って発赤と水疱が現れる。適切な治療を怠ると疱疹が治った後も帯状疱疹後神経痛(PHN)という頑固な痛みが残ることがある。この痛みはアロディニアといわれ、侵された神経が変性を起こして起きる。日常生活に支障をきたすほどの強烈な痛みで、こうなると痛みの専門外来であるペインクリニックで充分な治療が必要になる。

 とくにウイルスが三叉神経第1枝(顔の上部三分の1)の神経節に潜伏した場合は視神経が侵されることがあり、手当が遅れると失明することもあるので注意が必要だ。この場合、眉間から鼻の頭、瞼などに疱疹が広がるので、見つけたらすぐ最寄りの皮膚科などを受診して、早急に適切な治療をすることが最も重要である。

 白木公康教授(富山大学大学院医学薬学研究部ウイルス学)によれば、帯状疱疹後神経痛(PHN)の予防には、早期発見、早期の抗ヘルペスウイルス薬による治療が不可欠であり、最近開発された経口抗ヘルペスウイルス薬であるファムシクロビルは、従来のアクシロビルに比べ感染細胞内での半減期が10倍長く、きわめて効果が高いという。

 しかし、発症からなるべく早い段階で治療を開始する必要があり、帯状疱疹に対する国民の関心が高まることが望ましい。およそ9割の国民が小児期に水痘に感染していることから、早期治療の必要性の理解が進むことが望まれるという。また、高齢になればなるほど帯状疱疹後神経痛が残りやすくなり、長期間痛みがとれず日常生活に支障をきたす危険性が高まることから、高齢者にはとくに水痘ワクチンの接種に加え、周囲が気をつけて早期発見、早期治療へと導くことが重要だという。

 また、この治療に詳しい外山望医師(宮崎県・外山皮膚科)は、このほど日本で初めての大規模疫学調査「宮崎スタディ」を実施した。この調査は、宮崎県皮膚科医会の開業医39施設と総合病院7施設の協力を得て、1997年から2006年にかけての10年間にわたる帯状疱疹の調査である。調査総数は48,388例(男性20,181例 女性28,207例)で、最年少は3ヶ月女児、最高齢は102歳女性であった。対象は帯状疱疹の初診患者のみで、経過が長い帯状疱疹後神経痛の患者は除外した。さらに他の皮膚科医療機関を受診した患者は重複するので除外した。

 この調査によれば、この10年間で1000人あたりの帯状疱疹患者は26%増加の4.15人。
年代別発症率は、30歳代に凹みを持ち、10歳代の小さな峰と70歳代に大きな峰のある2峰性であることが報告されている。

 この調査報告から高齢者、とくに60歳以上の女性の発症率増加は、この10年間で全体の発症率を26%引き上げる主な要因になっていることや、水痘患者と接触の多い30歳代が最も発症が低いこと、さらに季節変動が水痘流行(冬)と帯状疱疹(夏)で、逆であることは帯状疱疹の発症に水痘流行によるブースター効果(追加免疫効果)が関係しているとも示唆されている。

 国民のほとんどが幼児期に感染している水痘だが、将来の帯状疱疹発症のリスク、帯状疱疹後神経痛のリスクを考えれば、幼児への水痘ワクチン実施と高齢者への帯状疱疹後神経痛予防のワクチン実施を押し進めるべきかも知れない。

 


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