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神林広恵×永江朗対談 スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールの新たなプロジェクト オンライン音声対談番組「ロングインタヴューズ」の第二回目の対談企画。元『噂の眞相』デスク 神林広恵氏と永江朗氏との対話(放送時間 96分)の一場面から切り取った内容を掲載いたします。

<神林広恵>プロフィール
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1966年 群馬県生まれ。明治大学短期大学経済科卒業。
コピーライターなどを経て、2004年に休刊した伝説の
タブーなき反権力雑誌『噂の眞相』に1988年入社。
休刊までデスクとして勤務。著書に「噂の女」(幻冬舎)。
作家の室井佑月氏の秘書、ライターなどとして活躍中。
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テーマ概要としては、『噂の眞相』にて「メディア異人列伝」という連載をしていた永江氏が、 『噂の眞相』デスクを務めていた神林氏に、当時の編集にまつわる内部事情および最近の事件、スキャンダルについて大胆に斬り込んだインタヴューです。 テレビやラジオでは流せない危ない話もチラホラ。


今回のプロジェクトの概要は、書籍の著者や注目の経営者、各種業界の専門家、クリエイターの方々を月に2から3人ゲストに招き、経験豊富なインタビュアーと対談(60から90分程度)していただいた音声コンテンツをネット上で配信する試みです。

すでに今回掲載分を含め下記の対談収録を済ませており、順次、配信していきます。

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (一部を抜粋のテキスト記事リンク: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.html

▼ 小林弘人(インフォバーン 代表取締役CEO)─井上トシユキ
▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
▼ 中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗

音声本編の配信先は株式会社オトバンクが運営する「FeBe」上です。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html

今後もチャレンジングなキャスティングを推し進めてまいりますので、ご支援のほどよろしくお願いいたします。



(永江)
─── 「噂の眞相」って、「よく毎月毎月あんなネタが上がってくるなあ」と、いわれていた一方で、「いや、岡留さんが新宿のゴールデン街で自分一人で集めてくるらしいよ」という揶揄もありました。実際に、当時の情報網は、どんなものだったんですか?

(神林)
確かに80年代は、岡留が一人でネタ探しをしていた部分が多かったようです。その後、スタッフの数が増えたことで、ある程度システマティックな手法に変わっていきました。10人くらいスタッフがいましたのでそれぞれが持ち寄って、その中からいいネタをピックアップしていました。



(永江)
─── 各スタッフは、どうやってネタを探してくるんですか。


(神林)
それぞれの人脈から情報を得ます。


(永江)
─── どういう人脈ですか。


(神林)
大体はマスコミ関係者ですが、警察、公安などもありました。ただ、「噂の眞相」の場合は、上司や編集長に対してもネタ元をいわないことにしていました。情報元を守るためです。


(永江)
─── 担当者を芸能とか、文壇とかジャンルごとに分けていましたか。


(神林)
それはないですね。最終的に何が強いとかの傾向は出てきますが、ネタ出しの段階では誰がどのジャンルのネタを出してきてもいいことにしていました。そこから取材班を組むときに、そのネタを得意とする人を投入することはあります。


(永江)
─── このような仕事をしていて、情報元になった友達をなくすことはありませんでしたか。


(神林)
ないです。メディア関係者が話してくれるのは、自分たちの媒体では書けないものがあったり、圧力でボツになったりしたものです。ネタ元に書かないでといわれた場合、私自身は企画として出しません。


(永江)
─── 「噂の眞相」の記事ラインナップのバランス感覚は絶妙でしたが、「噂の眞相」の休刊後、その意志を継ごうとする雑誌がいくつかありました。ただ、真正面からのスキャンダル情報偏重だと、内容が暗くなってしまうなあと感じました。それに比べ、今振り返ると「噂の眞相」は、笑える雑誌だったといえます。笑えるスキャンダルなんですよね。くだらない内容も適当に混じっていました。


(神林)
ふざけたことを書いてますよね。「女性作家が一人で夜中にラーメン食ってた」とか。


(永江)
─── あの笑えるセンスは、どこからきたものなんですか。


(神林)
それは、岡留編集長の性格によるものだと思います。雑誌は編集長のものと、よく言われますが、「噂の眞相」は岡留が創って、岡留の個人誌の色が濃いので個性が表れていると思います。飲み会の席などでは、冗談をいってよく周囲の笑いをとるような人でした。


(永江)
─── 2004年に「噂の眞相」が休刊となり、相前後してオンラインメディアが勃興していきました。ネットメディアは規制をかけにくいので、芸能人スキャンダルネタの類は、ガンガン出てくるのではないかと思っていました。確かに、2ちゃんねるなどの掲示板に色々なことが書き込まれていますが、あれは、信憑性のある情報なのかどうかわからないので、いくら書いても効力を持ち得ないじゃないですか。だとすると、ネットメディアでは、告発型情報やスキャンダルは武器にならないのではないかと思うのですが、いかがですか。


(神林)
誰が発信しているのかわからない情報は影響力を持ちにくいですが、J-CASTや日刊サイゾーなどは、編集者が存在していて、そこで情報の取捨選択が行われ、信憑性も高まっていきます。勝手に誰もが書き散らしているような形態ではなく、雑誌と同様に編集者の存在が重要性を帯びてくるように考えています。


(永江)
─── それは、ビジネスとして成立するようなものになっていくのでしょうか。


(神林)
現在のネットメディアは、まだ過渡期の状態です。今後、やり方によっては面白い事例が出てくる可能性は充分あると思っています。


(永江)
─── 岡留氏と何度か話したときに、「噂の眞相」はタブーなき言論、自由な言論を目指しているということでしたが、印刷、流通がネックになることもあると言っていました。結局、どんなに編集スタッフが頑張っても、印刷所が襲撃されたり、流通が配本しないということになってしまうと、息の根を止められてしまうわけです。それが、ネットの場合は、少なくとも自由度は高いといえます。


(神林)
ただ、現状、ネットは有料サイトよりも広告収益モデルが主流になっています。「噂の眞相」は、広告主の関係で記事が書けなくなることを避けるため、広告はなるべく入れない形でやっていました。ネットが出てきたから活字メディアがダメになっていったといわれますが、そうではなく、広告依存度の高い収益モデルが脆弱であったということではないでしょうか。この不景気で広告収入が減少したため、人件費や経費の削減を余儀なくされ、また訴訟の賠償額が高額化したことでリスクを取りにくくなったといったような負の循環が生じました。だから、ネットに関しても、広告収益だけではない課金モデルをどのように構築していくかが鍵になると思われます。私はITに疎いのですが、メディア関係者とIT業界の人が連携して、いいアイデアを生み出してほしいですね。


(永江)
─── 神林さんは、ネット上からネタ集めすることはありますか。


(神林)
しないですね。ネットから資料を探すことはあります。


(永江)
─── ネットはネタ元にはならないということですか。


(神林)
私の場合はそうです。


(永江)
─── 人脈から直接仕入れたほうが確実ですか。


(神林)
ネット上に書いてあることで興味を感じたネタに関して、詳しい新聞記者や芸能記者などに確認したことはありますが、大体、それはガセだといわれることが多かったです。


(永江)
─── そういえば、「噂の眞相」は情報の裏取りをどの程度やっていたんですか。


(神林)
結構、裏は取っていましたよ。


(永江)
─── よく当時は、イチローの打率と同じくらいといわれていましたが。


(神林)
そんなことはないです。1行情報というページの左側に掲載される名物企画がありましたが、それでさえ8割の確度でした。誤解されがちな雑誌だったんですけど、初期の頃を除いて意外と、きちんとやってたんですよ。


(永江)
─── 今も週刊誌とかはチェックされますか。


(神林)
休刊後、半年間は全く読みませんでしたが、今は、大体、全部チェックするようになりました。


(永江)
─── 「噂の女」はやめられないということですね。

 

<対談の全体概要>
◎『噂の眞相』編集長 岡留安則氏の人物像
◎『噂の眞相』編集のポリシーと特徴。一般週刊誌、ゴシップ誌との違い
◎テーマ選択、企画の手法
◎情報網の築き方
◎情報の裏取りについて
◎思い出深いスクープ
◎『噂の眞相』が黒字で休刊した理由
◎酒井法子、押尾学事件、北野誠無期限謹慎処分問題、草なぎ事件におけるジャニーズの
   周到な対応力
◎芸能ジャーナリズムの動向、女子アナ報道が増えた背景
◎ネット上のゴシップ情報を、どう見ているか。ネタ探しに活用しているか。
◎ネット版『噂の眞相』実現の可能性

(2009年8月25日収録)

音声本編の配信先:株式会社オトバンク運営「FeBe」
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html

 

 

 


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