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Superflyの音楽性に漂うクラシック・ロックの香り

■バンドではなくソロ・ユニット!?
 
 9月にSuperfly(スーパーフライ)がリリースした2作目のアルバム『Box Emotions』が売れている。何しろ発売日の『オリコン』デイリー・チャートで首位に躍り出てから1週間で21.4万枚の売り上げ。それから約1か月たった10月12日付けの週間ランキングでも、しっかり10位以内をキープしている(その二つ下の順位に高額商品の『ザ・ビートルズ・ボックス』がいるのもスゴいと思うが…)。9月27日にTBSで放送された「情熱大陸」では「すでに60万枚を超えた」と紹介されていた。


Superfly  『Box Emotions』
ヒット中のセカンド・アルバム



 しかし、その売れ行き好調ぶりが最初TVの芸能ニュースで報じられた際に、「アルバムの2作連続首位は“女性アーティスト”としては6年ぶり」と言われて驚いた。Superflyっていう名前が付いていたことと、そのロック・バンド然としたサウンドから、すっかりバンドとして活動しているものだと思い込んでしまっていたからだ。これには、自分のあまりの情報音痴ぶりにあきれてしまった。と同時に、ソロ・ユニットって何? との疑問も浮かんだが、ZARD=坂井泉水というケースがあったことを思い出した(「メンバー」が歌詞を書いているという点も似ている)。

 もっともこのSuperfly、もともとは地元愛媛でバンドとして結成され、2007年4月にシングル「ハロー・ハロー」でデビューした時点までは、ヴォーカリスト=越智志帆とギタリスト=多保孝一による二人組ユニット、ちょうどLOVE PSYCHEDELICOのような形で活動していた。その多保が「同年11月上旬(中略)かつてから熱望していたコンポーザーとしての活動に力を入れるべく、メンバーという表舞台から退く事を発表」(註1)して以降、ソロ・ユニットとして活動するようになったということなので、ライヴでの立ち居振る舞いも含め、ロック・バンド的な臭いはそこかしこに残っているわけである。


■越智志帆は日本のジャニス・ジョプリンなのか?

 Superflyのパワフルなヴォーカルとロック・クラシックの香り漂う演奏を聞いて、ジャニス・ジョプリンを思い浮かべる音楽ファンは多い。越智本人も、かつてジャニスと活動を共にしていたサンフランシスコのバンド、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーとの共演を果たすなど(今年のウッドストック40周年記念コンサートの彼らのステージにもゲストとして呼ばれたことも話題だ)、ジャニスが尊敬するヴォーカリストの筆頭であることは間違いなさそうだ。しかしSuperflyのヴィジュアル・イメージを検証してみると、そこにはジャニス以外の、あの時代の何人かの女性アーティストの姿ともダブってくる。

 例えば、ファースト・アルバム『Superfly』のジャケットの写真の処理や色合いは、明らかに'60年代末から'70年代の時期にはスワンプの歌姫としても知られたリタ・クーリッジの'04年のベスト盤『デルタ・レディ』の線を狙ったものだろうし、ヘッド・バンドを巻いたヒッピー---アメリカ・インディアン風のファッションの女性シンガーと言えば、名作『3614 Jackson Highway』('69年)をリリースした頃のシェールを思い出すヴェテラン音楽ファンも多いに違いない。少なくともファースト・アルバムの時期までのSuperflyのイメージは、ジャニスと同時代のロック・シーンで活躍した、“ウッドストック世代”の女性シンガーたちのイメージが重なって出来上がっているようだ。


『Superfly』
昨年リリースされたファースト・アルバム。「Hi-Five」も収録



『デルタ・レディ---リタ・クーリッジ・アンソロジー』



シェール『3614 Jackson Highway』
ジャケットを広げて全身の姿を見てみていただきたい


 ところで、Superflyというのは、'72年に米国で公開された映画のタイトルであり、ソウル・シンガー/ギタリストのカーティス・メイフィールドが手がけたサウンドトラック・アルバムのタイトルとしても知られている言葉だ(映画のタイトルとしては“Super Fly”と綴るのが正しいようだが)。Superflyのグループ名のロゴは、その映画とサントラ盤で使われていたロゴを意識してデザインされているのがわかる。


カーティス・メイフィールド『スーパーフライ』
'72年に同名映画のサントラ盤として出されたLP



■「Hi-Five」の元ネタはジェファーソン・エアプレイン?

 そんなSuperflyを筆者が初めて聞いたのは、約1年前のこと。深夜のTV音楽番組(記憶がはっきりしないが、たぶん日本テレビ「MUSIC LOVERS」の昨年9月14日の放送分)でたまたまライヴを見たのだった。その時、最もインパクトを受けた曲が「Hi-Five」。最初、やはりジェファーソン・エアプレインの名曲「あなただけを(Somebody To Love)」をローリング・ストーンズ風ギター・サウンドで演奏したように聞こえてしまったのだが、アルバムを買って改めて聞き込んでみると、イメージが少し変わってきた。ストーンズ的ギター・リフがうまくハマっているという印象はそう変わらないが、それとサビの部分のメロディとの見事な絡み具合(それがこの曲の高揚感のキモでもある)を何度も聞いているうちに、頭に浮かんできた曲があったのだ。ヒントはもうひとつあった。サビの最後の部分でちょっとズレて重なってくるハイ・トーンのコーラスだ。その二つをキーに記憶の中から引っ張り出された曲は、グラム・ロック後期のヒット曲、スウィートの「フォックス・オン・ザ・ラン」('75年)だったのだ。ストーンズ的なギターなのに何故にグラム・ロック? と思う向きもあろうが、そこのところが「Hi-Five」の、個人的にも非常に気になる部分であり、Superflyのサウンドの面白いところでもあると思うので、ちょっと長くなるが説明を試みたい。


Superfly「Hi-Five」
ヘッド・バンド(バンダナ?)をしてた頃の越智志帆の場合はこんな感じ



スイート「フォックス・オン・ザ・ラン(Fox On The Run)」
'75年のシングル盤

 ここでストーンズ風ギター・リフと書いたのは、'71年の大有名曲「ブラウン・シュガー」を起点にストーンズのキース・リチャーズが現在まで次々と生み出してきたタイプのギター・リフのことで、オープン・チューニングを応用した独自の「5弦ギター」(註2)による独特のヴォイシングと裏のビートを効果的に使ったリズム感覚がその特徴だ。

 これは所謂「ロックの正史」的な見方ではないのだが、そんなギター・リフの特にビート感覚は、英国で'70年代前半のグラム・ロック期に、Tレックスの「ゲット・イット・オン」などで聞かれるようなビートの裏を強調するギター・スタイル(Superflyで言えば、セカンド・アルバム収録の「Bad Girl」のイントロで聞かれるのもそれ)と渾然一体になり、多少デフォルメされながらも「定型化」し、後のハード・ロックのギターにも大きな影響を与えていくことになるのだ。スウィートの「フォックス・オン・ザ・ラン」は、まさにそうしたスタイルが、グラム・ロックからハード・ロックとして「発展」していこうという時期に生まれた名曲で、日本でもかなりヒットしていた記憶がある。

 「Hi-Five」はそうしたロック史的な「流れ」を、少なくとも感覚的には踏まえて作られているようで、「フォックス・オン・ザ・ラン」のダイナミックなリズム構造を「援用」しながら、ギター・リフに関しては、そのルーツに当たるキース・リチャーズ、つまりストーンズのスタイルにまで遡った形でプレイされているように聞こえるのだ。そのことを示唆するかのように、この曲は構成がストーンズ的なものに作り替えられている。具体的に言うと、2回目のサビの後、単純なギター・リフが繰り返される間にギター・ソロが乗るパートが挿入されているのだ。例えば、ストーンズが「ハンド・オブ・フェイト」('76年のアルバム『ブラック・アンド・ブルー』収録)などの曲で聞かせる、サビで盛り上がった後で曲を“停滞”させる感じのあのパート、と言えばわかっていただける人がいるかもしれない。勿論こんなパートは「フォックス・オン・ザ・ラン」にはなかった。

 「Hi-Five」のレコーディングで、キースと同じ5弦ギターが使われているかどうかまでは断定できないが、作曲者、多保孝一は、自身のブログでキース流のオープンGチューニングで「ブラウン・シュガー」等を弾いた話を書いていて、そうした経験がSuperflyの曲作りや演奏に生かされている可能性は高いのではないかと思う。同じアルバムに収められている「Ain't No Crybaby」のギターの響きを聞いていると、5弦ギター使用の可能性はもっと高く感じられる。

 筆者にとって、「ブラウン・シュガー」からグラム・ロック以降への流れというのは、『レコード・コレクターズ』のサディスティック・ミカ・バンド特集('07年1月号)で加藤和彦さんに取材したことをもとにサエキけんぞうさんらとも議論する中で見えてきたものだったのだが、「Hi-Five」は、そうした「流れ」に位置づけて考えると、一層興味深い構造を持つ曲に見えてくる。

 Superflyに関しては、その一筋縄では行かない形で取り入れられたストーンズ的要素を探していくのも個人的には面白いし、フィル・スペクター・サウンド---オールディーズ的なものを感じさせるバラードについて、セカンド・アルバムで見えてきた新しい方向性から、シングルのみで聞くことができるクラシック・ロック・カヴァーのこと、そして何といっても越智志帆の歌やユニークな歌詞のことなど、いろいろ触れてみたい点もまだあるのだが、今回もまた長くなりすぎたので、とりあえずこの辺で。


[追記]
10月17日に、加藤和彦さんが亡くなったというショックなニュースが飛び込んできました。これを書いている時点で詳しいことはわからないのですが、まさに上で触れたようなテーマに関しても、もっともっとお話を伺いたいと思っていました。大変残念でなりません。ご冥福をお祈りします。


<註1>
公式HP(www.superfly-web.com)のプロフィール欄より。

<註2>
1弦→6弦の順にDGDGBDの音程にセットした「オープンGチューニング」のギターから、トニック(主音)より低いD音を出すことで和音的に邪魔になる、最も太い第6弦を取り外してしまったもの。「ダイスをころがせ」「ハッピー」「スタート・ミー・アップ」から「ユー・ガット・ミー・ロッキング」まで、多くのストーンズの名曲が、この「ギター」から生まれている。サディスティック・ミカ・バンドの'06年作『Narkissos』の1曲目「Bang, Bang(愛的相対性理論)」も、この「ギター」で作られた一曲。


 

 


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