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値上げと宅配減らしで減収を補う米国の新聞社

(記事概要)

 新聞の購読部数の落ち込みがここ半年で加速している。広告収入の落ち込みをカバーするために購読料金を値上げしたことが、部数の低下という悪循環につながっているためだ。

 発行部数監査会の調べによると、全米379紙の4月から9月までの日刊ベースの購読数は昨年同期と比べ10.6%減少したことが明らかになった。落ち込み幅はここ数十年の間で最大となり、その原因はネット上に無料のニュースが溢れ返っていることと関係している。

 また多くの新聞社は、コストのかかる遠方への配達を減らし、数の減った購読者に対しても新聞代の値上げという形で損失を補おうとしている。ちなみに最近の購読部数の落ち込みは、昨年10月から今年3月までが前年同期比で7.1%減、昨年4月から9月までは同4.6%減だった。

 今月初め、経済紙のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の購読部数が、全米で新聞首位のUSAトゥデイを追い抜くという事態が起きた。WSJの月曜から金曜までの購読部数は0.6%増加して220万部を記録し、日刊紙上位25紙のなかで唯一部数が増加。一方USAトゥデイは創刊以来27年間の歴史のなかで最大の落ち込みを示す17%減となり、190万部に減少した。発行元のガーネット社では、落ち込みの原因を旅行需要が減ったためとしている。同紙はその多くが空港やホテルで売られているためだ。

 高級紙のニューヨーク・タイムズは、前年同期比で7.3%減となったものの92万7851部で3位の座をキープした。同社の日曜版は同カテゴリーのなかで首位を確保したが、同2.6%減の140万部となった。全新聞の発行する日曜版はここ半年で前年同期比7.5%減と部数を減らしている。

 新聞の主な収入源は広告収入だ。だが、第二次世界大戦以来の大きな景気後退とネット上での無料ニュースの氾濫は、ここ3年間で200億ドルの広告収益の減少を業界におよぼした。それを補うため、大手新聞社の多くは購読料金の値上げに走っている。加えて、オンラインバージョンのニュースの一部に課金するという手法を使って収入をカバーしようと試みる。無料で読めるニュースが減れば、新聞の購読に読者が回帰するかもしれない。だが、オンライン版の読者が減るということは、そこからの広告収入も減ることを意味しているのだ。

サンフランスコクロニカル紙 10月27日付け


(解説)

 新聞の値上げは、景気が悪い時代に新聞社が使う切り札だ。先を見越して考えれば、値上げによる読者離れから発行部数が減れば、広告掲載価値が減少してますます広告収入が減少することになる。媒体やその国によって異なるが、新聞は最低でも収益の50%以上を広告収入に頼っている。自らの価値を下げる選択をすることはあまり賢い方法とはいえないが、いまの新聞業界はそんなことも言ってられないらしい。ニューヨーク・タイムズや全米各地で中堅紙を発行するマククラッチー社では、値上げで発行部数は減ったが逆に購読収入は増えた。

 ニューヨーク・タイムズの場合、6月に平日版を1ドル50セントから2ドルにし、日曜版は4ドルから5ドルに上げた。同じ高級紙のワシントンポストの平日版が75セントであることを考えるとずいぶんと割高だ。筆者の住む地域の主要紙サンフランシスコ・クロニカルも75セントから1ドルへ値上げしたおかげで、4─9月の購読数が26%減少(25万部減)したにもかかわらず、購読収入は増えた。いまや広告収入の増加が見込めない以上、購読収入に頼るのは「重要なビジネスモデル」(同社マーク・アドキンス社長)になっているわけだ。

 こうした動きは、新聞社の収益構造の変化を推し進めている。記事によるとダラス・モーニングニュースは値上げによって平日版の読者を22%失ったが、代わりに購読収入が増えた。このため、新聞から得られる収入の40%が購読からの収益で占められるようになったという。米国の新聞の広告と購読収入の割合は8対2といわれているだけに、これは大きな変化だ。見方を変えれば、諸刃の剣となり得る値上げをしてでも収入を増やさないことには、存続できない状況に新聞社が追い込まれているといえるだろう。

 値上げ以外にも、知恵を絞って何とか経営悪化を食い止めようとする動きも見られる。デトロイト・フリープレスとザ・デトロイトニュースは3月から新聞の宅配を木・金・日曜日の週3回に減らした。印刷部数を減らすことで紙代の節約につなげる狙いだ。配達がない日に新聞を読みたければ、オンライン版にアクセスするか売店で買うしかない。

 毎日、しかも朝晩にきちんと新聞が宅配される日本では考えられないが、米国ではこうした措置も今後増えてくるかもしれない。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○島田範正のIT徒然 「激減!米新聞部数---記者削減が元凶か」2009/10/29
 Thorson教授らの結論は、経営逼迫による経費節減はやむを得ないにしても、
 記者削減は一番経営に響くことが実証されているので、最初に記者減らしを
 行うのは経営上、自殺行為という警告ですね。しかし、ここ2年ほどで日本の
 全記者2万人を上回る2万5千人以上もの記者が職場を去ったのが米新聞界の
 現実です。つい先日も、ニューヨークタイムズが編集部門100人の年内削減
 を発表しました。苦境はまだつづきそうです。
http://www.kddi-ri.jp/blog/srf/2009/10/29/%e6%bf%80%e6%b8%9b%ef%bc%81%e7%b1%b3%e6%96%b0%e8%81%9e%e9%83%a8%e6%95%b0%ef%bd%9e%e8%a8%98%e8%80%85%e5%89%8a%e6%b8%9b%e3%81%8c%e5%85%83%e5%87%b6%e3%81%8b/


○メディア・パブ 2009/11/02
 「メディア分野の有望なスタートアップ企業とは」
 伝統的な新聞社や雑誌社,それにテレビ局も,こぞって大不振である。
 景気後退のせいにしたいところだが,それだけではないから深刻だ。
 伝統的なメディア産業が構造不況業種に陥っているのである。
 ところが一方で,新興のメディア企業が台頭してきている。
 オンラインメディア分野のスタートアップ企業が力をつけてきている。
http://zen.seesaa.net/article/131775994.html

 



【新規プロジェクト】

<オンライン音声対談番組「ロングインタヴューズ」配信開始のお知らせ>

ビジネス分野を中心に月に2から3名の専門家や経営者、クリエイターなどの先達をゲストに迎え、経験豊富なインタビュアーが業界動向、智恵、ノウハウに迫る対談を2009年10月からネット上で配信開始いたしました。放送時間は1本あたり60から90分程度です。音声コンテンツなので、忙しい方でも通勤時間や移動時間に聴くことができ、海外に住んでいる方でも聴取可能です。通常の単独講演とは異なるゲストと聞き手との化学反応による、思いがけない話、秘匿性の高い情報も飛び出します。ウェブ検索などで得られるテキスト系情報に頭打ち感、物足りなさを感じている方、企画やマーケティング、プレゼンテーションのヒントを得たい方など、ぜひ、一度、お試しください。

配信先:株式会社オトバンク「FeBe」
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


収録済みの対談ラインナップは下記になります。順次配信していきます。

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (一部を抜粋のテキスト記事リンク: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (一部を抜粋のテキスト記事リンク: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(インフォバーン 代表取締役CEO)─井上トシユキ
  少数精鋭、コストダウンを余儀なくされる出版、新聞の近未来

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
  ビジネスで成果を上げるための「濃いしゃべり」の本質

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
  「インテグレーテッドキャンペーン」で「グルーヴ」を起こす

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
  創造と依存のバランスが「仕組み」を活かす

▼ 中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗

 

 


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