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「非営利が営利より上」なんて誰が決めた

就職についての希望を聞くと、「ボランティア団体」と答える学生がいる。自分の勤務先の大学に限らない。特に入学してからあまり時間がたっていない学生に多いような気がするのは、就職がまだ身近な問題ではない、よってまじめに就職先について調べたり考えたりしていない、ということの反映ではないかと思っている。別にボランティア団体で働きたいという希望がだめだとかいっているのではない。人の役に立ちたいという真摯な願いは尊いと思う。ただ、どうもこうした学生の少なからぬ一部が、「非営利団体で働くことは営利企業で働くことよりも価値がある」と考えているように思われて、懸念している。実際のところ、この種の考え方、あえて「バイアス」と呼んでおくが、このバイアスはけっこう世間にかなり広く見られるものでもあろう。その意味では、世間に対してものをいいたい気分でもあるわけだ。

というわけで、手短に。

最初に脱線しておくと、このバイアスはかなりの部分学校とマスメディアから与えられているものだと個人的に推測している。学校のほうは一応非営利ということになっているからある種我田引水として理解できなくもないのだが、マスメディアのほうは、たいてい営利企業であるのにどうもその自己認識があまりないように見受けられて、いまひとつ理屈が理解できない。

ともあれ。簡単にまとめると、いいたいのは3点。


(1)非営利は営利に依存している

非営利団体にもいろいろあるが、それなりの質、それなりの規模をもって活動しているものなら、必ずそれなりの費用がかかる。当たり前の話だが、この費用は、誰かが負担しなければならない。想像すれば簡単にわかるが、すべての国民、すべての団体が利益を出さなかったら、つまり自らのために使用する分だけしか稼がなかったら、非営利団体は活動資金を得ることはできない。つまり非営利団体は、その活動資金を誰が負担するにせよ、必ずどこかで利益を得るための活動、つまり営利活動に依存することとなる。

実際、多くの非営利団体は、活動資金を稼ぐための事業活動を行っているし、自分で資金獲得のための事業活動を行わない非営利団体は、他者が営利活動で得た利益の分け前を寄付のようなかたちで受けて活動を行っている。政府や自治体の費用で活動している団体も、その源泉を考えれば多くの国民や住民が営利活動で稼いだものの中から資金を得ているといっていい。つまり非営利活動は必ず、営利活動に支えられているわけだ。支える側のほうがえらいというわけではないが、だからといって支えられる側のほうがえらいともいえない。非営利団体で活躍しておられる人の中には、本来もっと高給が得られるチャンスをあえて捨てて他人のために尽くしている人がいて、それはもちろん尊い行動なのだが、営利活動の結果得た収入を本来できるはずの消費なり投資なりに回さず寄付をしたりするのも、そう変わらないくらい尊い行いではないかと思う。


(2)非営利と営利は実際のところたいして変わらない

このあたり誤解されてるように思うのだが、実際のところ、同種のサービスを営利団体と非営利団体の双方が提供している場合、その両者にいわれるほど大きな差がないことは多い。当然のことだが、利益を追わなくても、収入で費用をカバーできなければ運営は持続できない。かつ、たいていの営利団体の場合、収入に対する利益の割合は、収入に対する費用の割合よりはるかに低いはずで、つまり利益の有無はいってみればマイナーな要素だ。さらにいえば、非営利団体だって収入が費用を上回ることはしばしばある。利益と呼ばないだけだ。

たとえば物販に関して、営利団体である小売事業者と非営利団体である生協が売っているものはそう変わるものでもないし、価格がそう大きく変わるものでもない。生協が商品をただで仕入れられるわけではないし、生協職員が給料を受け取らないわけでもない。ちがう部分があるのは否定しないが、ちがう部分とちがわない部分と比べたら後者のほうが多いだろう。保険や共済の分野も同様。商品内容がちがうから直接的な比較は難しいが、営利企業である保険会社の当期純利益は経常収益や正味収入保険料に対してせいぜい1から数%程度だ。人件費や物件費の内容はちがうだろうが、そう大きくちがうとも思えないし、何より費用のうち最も大きな部分は保険金なり共済金の支払いだ。

さらに重要なのは、利益を追う営利活動とそうではない非営利活動との差自体、よくいわれるほどちがわないということだ。営利企業は利益を追うあまり品質を軽視したり労働者を酷使したりするというイメージで語られることが少なからずあるが、まじめに経営されている企業の人なら、これがどんなに空疎かつ失礼な批判であるかすぐわかるだろう。企業でも長期的、戦略的視野にたって品質を重視するところ、労働者を大事にするところはたくさんある。逆に非営利団体だってサービスの品質を軽視したり、労働者を酷使したりするところが少なくないことは報道等でも明らかだ。また、上記の保険と共済の例でも、共済ではプランがシンプルだったり年齢等による掛け金の差がなかったりといった要素はあるはずだが、それは必ずしも非営利性に起因する性質ではない。非営利団体であるNHKが報道番組に力を入れたり金をかけた番組作りを進められるのも似ている。そうできるのはNHKが非営利だからではなく、収益源が法律で確保されているからだ。


(3)非営利であるがゆえの問題も無視できない

もちろん、営利と非営利はちがう。利益を直接の目的としないことは、団体の行動様式に影響を与える。しかしそれは、必ずしも非営利団体が営利団体より優れているといった話ばかりとは限らない。最大の問題は、非営利であることが無駄や高コストなど非効率の温存につながりやすいという問題だ。利益を出さないために、収入があっただけ費用のほうを増やして帳尻を合わせる行動は、非営利団体に多い単年度予算のコストセンター的組織ではしばしば見られる。この行動の弊害は、年度予算がコスト積み上げ方式で決められている場合にはさらに大きくなる。最近の政治で大きなテーマの1つとなっている問題だ。もちろんこれは、非営利であること自体に起因するものでは必ずしもない。しくみの透明性や外部からのチェックが充分でないことがより大きな原因だろう。それは、利を追うことの典型的な弊害として語られる上記の問題が必ずしも営利性と直接的に結びつくわけではないのと同じことだ。しかし、少なくとも非営利であることが営利よりも上であるという主張の根拠は薄いということぐらいはいえるはずだ。

他にもいいたいことはいろいろあるが、とりあえずこのへんでやめとく。繰り返すが、非営利がだめだといいたいのではない。利を追う活動を相対的に低くみるのをやめるべきだといいたいだけだ。営利であれ非営利であれ、真摯に取り組む姿勢は尊いし、そう自然に受け取られる世の中が実現してもらいたい。少なくとも当面は、営利活動の意義を強調すべき状況と考えている。



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