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五輪参加へのもう一つの闘い、スキージャンプ女子種目追加訴訟敗訴

 「訴えを棄却する」。裁判官のこの一言で、11月13日、原告の3年間の闘いはほぼ終わった。The B.C. Court of Appeal(BC州控訴審)に訴えていたのは、スキージャンプ女子選手団。2010年バンクーバーオリンピックのジャンプ競技に女子種目がないのは女性差別で、カナダのthe Charter of Rights and Freedomsに違反するとして、バンクーバーオリンピック組織委員会(VANOC)を訴えていた。
 
2009年11月14日Globe and Mail
(Globe and Mail:カナダ2大全国紙の一つ)


 今年7月、原告団はB.C. Supreme Court(BC州最高裁判所)で敗訴した。判決内容でLauri Ann Fenlon裁判官は、スキージャンプに女子種目がないことは女性差別に値するという原告の訴えを認めたが、オリンピック正式種目の決定権は国際オリンピック委員会(IOC)にありVANOCにはないこと、IOCはカナダの裁判所の範囲内にはないことを理由に挙げ、原告敗訴を言い渡していた。

 2006年IOCはスキージャンプ女子種目を2010年大会では実施しないと決定。競技人口や世界大会数でオリンピック参加基準を満たしていないというのが理由だった。原告はこの点に対して、自分たちよりもさらに基準を満たしていない女子種目がバンクーバーでは正式種目となっていると主張した。

 原告団は、欧米の現役選手や引退選手で構成され、スキージャンプ女子USA会長が束ねている。13日の判決後、世界チャンピオンのアメリカのLindsey Van選手は記者団に対しこう語った。“It's like they (the IOC) can come in here and do anything they want because they are a private entity. They can do whatever they like. That's scary. That's like the Taliban of the Olympics. ”(「IOCは開催国では好き放題やってもいいと言われたようなものだ。そこに恐怖を感じる。まるでオリンピックのタリバンのようだ」

 オリンピックを巡る問題は彼女の言葉が表わしていると思う。2006年のIOCのスキージャンプ女子種目を含めないという決定は果たして本当に正しい判断なのか、誰にもわからないということだ。

 IOCジャック・ロゲ会長は、2014年ソチ大会での正式参加の可能性がないわけではないとコメントをしている。それまでにIOC基準を満たしていればということらしい。

 今年2月、フリースタイルスキークロスのワールドカップが五輪会場となるサイプレススキー場で行われた。これに参加していたベテラン選手は、「滑降から転身した時は、まさかこの種目でまたオリンピック出場機会が巡ってくるとは思わなかった」と語った。スキークロスはバンクーバー大会から新しく正式参加する種目である。冬季五輪には珍しく速いものが勝ちの勝ち抜き種目で、見ていても興奮する種目の一つだ。

 新種目は基本的に男女参加が義務付けられている。ならば、男子種目はIOC基準を満たしているが女子は満たしていない場合、この種目は正式種目として成立するのだろうかという疑問がわいてくる。

 スキージャンプ男子は1924年第1回大会から正式種目となっている。ジャンプ競技の魅力は見た人ならわかると思うが、人間が空を飛ぶということにこれほどまでにも憧れているのかと思い知らされる種目だ。その姿は限りなく美しい。気温マイナス10度の中、何時間も立ちつくしたままでもあの姿を見たいと思う気持ちはよくわかる。

 オリンピック憲章の中にもいかなる差別もあってはならないという項目があったはずである。確かにスキージャンプ女子は歴史が浅い。IOCの決定が正しいのかもしれない。しかし、選手側が開催国の法を盾に裁判に打って出るという選択肢しかなかったことに、オリンピックの問題が浮き彫りになっている。

 華やかなスポーツの祭典の陰で、メディアの注目をそれほど浴びることもなく繰り広げられていたもう一つの闘い。原告敗訴を聞いた選手たちが流した涙は、試合のためではなく同じ土俵に上がるために強いられた戦いに敗れたくやし涙だった。同じような涙をオリンピックはどれほど流せばいいのだろう。これからオリンピックを目指す若い選手たちのためにも、「目に見えない力が働く」と言われるIOCの決定に、せめて選手たちが犠牲にならずに済む解決策はないのだろうかと思わずにはいられなかった。

 


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