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伊藤直樹×河尻亨一対談 「インテグレーテッド・キャンペーン」で「グルーヴ」を起こす

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」第五回目の対談企画。GTのクリエイティヴ・ディレクター 伊藤直樹氏と元 「広告批評」編集長の河尻亨一氏との対話(放送時間 102分)の一場面から切り取った内容を掲載いたします。

コミュニケーションの態様が多様化する現代社会においては、広告のあり方も大きな転換を求められています。21世紀型広告をリードするクリエイティブ・ディレクター 伊藤直樹氏の「インテグレーテッド・キャンペーン」の組み立て方や考え方を、伊藤氏をよく知る河尻氏が引き出した未来の広告の手がかりです。


伊藤直樹

音声本編の配信先は株式会社オトバンクが運営する「FeBe」上です。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.htm
 

 <伊藤直樹>プロフィール
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1971年静岡県生まれ。早稲田大学法学部卒。
ADK(株式会社 アサツー ディ・ケイ)を経て、2006年7月よりクリエイティブブティックGT。
テレビからウェブまでをフラットに用いた、メディアにとらわれない広告キャンペーンやブランディングを得意とするクリエイティブディレクター。テレビCFの企画、コピーライティング、アートディレクション、戦略PRなども手がけ、最近では商品開発、事業提案、社会活動などもおこなっている。著書に「伝わる」のルール 体験でコミュニケーションをデザインする がある。

おもな仕事には、
・ナイキ/NIKEiD「Nike Cosplay」 
http://www.youtube.com/watch?v=2ry41RIkqHA&feature=related

・マイクロソフト/Xbox「BIG SHADOW」 
http://www.youtube.com/watch?v=Nr6y2lfc7Co&feature=related

・ソニー/ウォークマン「REC YOU」
http://www.youtube.com/watch?v=tcU_mn7hKXw

・ハンゲーム「人生の半分は、ゲームだ。」
http://www.youtube.com/watch?v=IcExH8imboc

・相模ゴム工業/サガミオリジナル002「LOVE DISTANCE」
http://www.youtube.com/watch?v=FrgWYl-NPK4

などがある。

カンヌ国際広告祭(フィルム部門、サイバー部門、アウトドア部門、PR部門などで金賞5回)、アドフェスト(3年連続グランプリ)、東京インタラクティブ・アド・アワード(グランプリ、ベストクリエイター)をはじめ国内外での受賞多数。
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(河尻)
───伊藤さんの仕事を語るときに、一つキーワードを掲げるとしたら「インテグレーテッド・キャンペーン」なんですね。聞きなれない言葉だと感じているリスナーもいるかもしれませんが、これがどういうものなのかを解明していきたいと思います。わかりやすくいうと、極めて現代的な手法だと思うのですが、簡単にいうと、どんなキャンペーン手法なんですか。


河尻亨一

(伊藤)
インテグレーテッド(統合化)されたキャンペーンということになりますが、何をもって統合化されているかといいますと、インターネットの出現以来、キャンペーンの様々な要素がデジタル化によって束ねられることで、統一感のあるキャンペーンとして全体を構成していくことが可能になりました。

(河尻)
───以前からキャンペーンというとテレビ、ウェブ、雑誌、新聞、OOH(交通広告や屋外広告など、家庭以外の場所で接触するメディアによる広告の総称)など、多様なメディアを駆使して露出を高めていくようなアプローチは行われてきたわけですが、それと「インテグレーテッド・キャンペーン」はどう違うんですか。

(伊藤)
従来型のキャンペーンの多くは、広告媒体やイベントごとに企業、代理店の組織内での担当者が異なります。だから、下手するとキャンペーンが始まるまで、お互いに何をやっているのかがわからない場合もあるのです。それを中身も含めて統一感のあるキャンペーンに仕立てていこうとするのが「インテグレーテッド・キャンペーン」です。メディアの統合化という側面でいいますと、デジタルがメディアとメディアを繋げてくれるのを利用するケースがあります。たとえば、屋外広告で何かを見て、そのQRコードをケータイに認識させ、その場でサイトを確認して登録し、帰宅後、PCで再度、サイトを見るといったような一連の行動があります。このような流れをつくることをキャンペーンの「導線をはる」といいます。このように一つのストーリーの中でユーザーに楽しんでもらうということは、メディアの側面から統合化されているという見方ができます。

(河尻)
───伊藤さんのクリエイティヴは、「体験」の要素を意識して提示しているように思うのですが。

(伊藤)
本来、体験というのはセールスプロモーションにおけるトライアル、試してみるという観点から企画されてきました。たとえば、街に体験ブースをつくって商品をトライアルしてもらったり、店頭でデモンストレーションしたりといったプロモーションプランの一つとして行われてきました。購買モデルとして、「AIDMA」とか「AISAS」という言葉がよく語られますが、これをシャッフルしてみてフラットに考えることによって、かなり柔軟になれるということがいえます。販促におけるトライアルというのは、最終過程の観点で企画されることが多いのですが、そうした固定観念を払拭して、もっと自由に考えることで身軽になることができます。

(河尻)
───「AIDMA」「AISAS」といった購買モデルをシャッフルしてフラットに考える、という部分は面白いですね。それも「インテグレーテッド」な発想ですよね。

(伊藤)
「AIDMA」「AISAS」の考え方は一次元的といいますか、一つのベクトルに従っている直線的な手順です。それだとライフスタイルが変化している消費者に柔軟に対応していくことができません。よくいうメディアニュートラルとか、あるいはインテグレーテッド・キャンペーンの考え方というのは、どのメディアから接触してくるかわからないユーザー層に対して、立体的な多重構造をもってしてアプローチする手法になります。これまでの一次元的手法では立ち行かなくなっていると感じています。

(河尻)
───その立ち行かなくなってきているという部分についてお聞きしたいのですが、やはり、ぶっちゃけ、そうなんですか。

(伊藤)
今までの「AIDMA」購買モデルの考え方は、まず、テレビなどのマスメディアを使って気を引くところから入ります。

(河尻)
───「AIDMA」のAはアテンション(興味、関心、注目のこと)ですから、新商品が出たことを広くアピールするというステップですね。

(伊藤)
それが、たとえば、知人のtwitterによるつぶやきで、あるカメラの情報を知ったとすると、僕は、次の瞬間、価格ドットコムにアクセスしたりします。この段階で、従来の購買ステップ論は、ある意味崩壊しているといえます。もちろん、これは自分の例を出したまでですが、もっと色んな購買パターンが出てきているはずです。だから、そのような多様な購買パターンに対応できるようなキャンペーンが今の時代には求められているのではないでしょうか。テレビが必ずしも入口として適しているというわけではありませんし、従来の固定観念は捨てなければなりません。テレビCMに見られるような「続きはウェブで」という表現は、順番を決め付けている一次元的な発想です。

(河尻)
───わかりやすくいうと、「どっからでもかかってこい」という構造にするということですね。場合によっては、それがテレビを軸にしたものになるケースもありうるということですね。

(伊藤)
テレビを否定しているわけではなく、ウェブ⇒テレビ という順番になってもいいわけですし、固定的なステップ、メディア選択に捉われないということです。

(河尻)
───よく語られることとして、テレビとウェブが対立しているような論調がありますが、今後、テレビもウェブ的な発想に切り替わっていくような予感を持っています。生活者の情報アクセスの態度は、かなり変化しているのではないでしょうか。

(伊藤)
大きな地殻変動が起こっているといえます。twitterが流行っているということがテレビ番組の中で紹介されたり、新聞記事で「つぶやきが今、流行」みたいなことが報道されたりしますが、正直、地殻変動の核になっているところがどこかというと、そういうtwitterによるコミュニケーションだったり、価格ドットコム内の情報だという見方もでき、マスメディアによって伝えられることは、それらの事後報告的なものにすぎないという一面もあります。以前では考えられないような逆転現象が起こっているのがネット社会の現状です。

(河尻)
───ぶっちゃけた言い方をすると、世の中が自律的に「インテグレーテッド」していってるということなんでしょうね。

(伊藤)
そういうことだと思います。



<対談の全体概要>
◎「インテグレーテッドキャンペーン」とは。従来のクロスメディアキャンペーンとの違い
◎ソニー/ウォークマン「REC YOU」、マイクロソフト/Xbox「BIG SHADOW」、
  相模ゴム工業/サガミオリジナル002「LOVE DISTANCE」の裏側
◎情報接触の態様が多様化する現代社会に対応するためのメディアニュートラル、
  メディアクリエイション
◎AIDMA、AISASの一次元的構造に捉われない多次元構造の考え方
◎インタラクティブ、体験の要素を意識して取り入れる理由
◎従来のキャンペーンとの違いからくる、実施に至るまでの障害の克服
◎クライアントへのヒアリング、プレゼンテーションで心がけていること
◎何を持って効果、成果とするのかを提案時に説明しておくことが重要
◎キャンペーンをPRする仕掛け
◎コンシューマーの口の端に乗せるために留意していること
◎「炎上」ではなく「グルーヴ」を起こす。グレーゾーン、謎の部分を
  クリエイティブに取り入れる意味
◎広告の未来

(2009/09/29 収録)

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○PlusDiary.com 手帳と文房具のレビューサイト 2nd. 2009/11/16
 共感してもらうのに大切なことは?:「伝わる」のルール(著:伊藤直樹)
 この本は広告のための本なので、ブログ作成や日常の会話の中で直接使える
 内容ではありません。しかし、広告の本質は、人の心をつかむことだと
 思いますので、人の心をつかむプロの考え方を知るのに、とても良い本でした。
http://www.plusdiary.com/2009/11/16/191

○エスボックのプランニング・ブティック
 GT伊藤直樹さん「伝わるのルール」 2009/09/20
 今の広告業界におきている地殻変動の中では当たり前だけど、先人の方法論や
 ノウハウは全く通用しない訳でそのため昨今目立ってきている人は、圧倒的に、
 自分で勉強していて広告賞を中心とした海外事例に詳しい。
http://esbok.blog.ocn.ne.jp/esbok/2009/09/gt_8bd6.html

○I lost tomorrow  2009/09/20
 伊藤 直樹「伝わる」のルール 体験でコミュニケーションをデザインする
 講義の内容をよく見ていくとどうしたらその商品の魅力が伝わるかのポイントや
 消費者にそれを伝えるための「インサイト」をかなり重視していることが
 わかります。生徒の提出した課題を添削していくスタイルでの講義では、
 飛び道具的な構造については「面白いね」という言葉を出すことが多いものの、
 じゃあそれが本当に見る人に刺さるのか、その商品でなければ使えないものなのか、
 この2つについて指摘している回数がとても多い。
http://d.hatena.ne.jp/iga19/20090920/p1



【ビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」のPR】

あなたは、情報取得の手段が便利で多様になったといわれる社会において、次のように感じることはありませんか?

●爆発する情報環境の中で、流されているように感じる。

●本質的で核心をついた情報を探すことが以前より難しくなった。

●次々と登場するウェブサービスやITツールに対応していくのは骨がおれる。

●効率的に情報収集や分析を行おうとしているが、ウェブ検索に依存していると
 どこか物足りなく、頭打ち感がある。

●アイデアや企画が豊富に思い浮かばない。深く考えることが負担に感じる。

現代の情報化社会は、リアルとネットを合わせて大量の情報が溢れかえって飽和しているように見えます。次々と登場するウェブサービスやITツールは、効率的に情報収集するための助けになっています。けれども、そうした情報収集のテクニック、さらには集めた情報を咀嚼し、活用する方法論が急速に均一化してしまったことで、独自のアイデア、問題解決法を導き出すことは、逆に困難な状況になっています。表層的で刹那的な情報は氾濫していますが、ビジネス的なブレイクスルーを生み出す実践的な智恵、考え方、ヒントを先達の肉声で伝えるリッチコンテンツの供給は必ずしも充分であるとはいえません。

また、ネットコミュニケーションにより横のつながりは広がったものの、縦のつながりは逆に希薄化しています。情報アクセスの指向は、自分が興味を持っている特定分野に偏りがちになるものですが、ビジネスや人生のヒント、指針になることがらは、おうおうにして自分が所属する世界とは異なる分野から得られることがあるものです。

ビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」はビジネス分野を中心にメディア、カルチャーなどの分野も含めて月に2から3名の専門家や経営者、クリエイターなどの先達をゲストに迎え、経験豊富なインタビュアーが業界動向、時代の潮流、智恵、ノウハウ、生き様に迫る対談をネット上で配信する番組です。放送時間は1本あたり60から90分程度です。音声コンテンツなので、忙しい方でも通勤時間や移動時間に聴くことができ、普段、なかなか講演会やセミナーに参加する時間がとれないという方にとっても有益な情報源になります。インタビュアーが本音、本質に迫るべく大胆に斬りこみますので、思いがけない話、秘匿性の高い情報も飛び出します。ウェブ検索では手に入らない刺激的な語りをお楽しみください。

今月(2009年11月)は、通常月よりも配信数が多く、10月配信分を含めて6本の中身の濃い対談を980円で聴くことができます。12月以降配信予定の対談ラインナップも参照してください。

音声本編の配信先: 株式会社オトバンクが運営する「FeBe」上です。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(株式会社インフォバーン CEO)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 出版・新聞のネオビジネスは業界の外から勃興する)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_719.html

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
  (本編から抜粋のテキスト記事: 常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html 

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
  「インテグレーテッドキャンペーン」で「グルーヴ」を起こす

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
  創造と依存のバランスが「仕組み」を活かす


※12月以降配信予定の対談ラインナップ
▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗
▼森谷正規(技術評論家)─永江朗
▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)─河尻亨一
▼夏野剛(株式会社ドワンゴ 取締役、慶應義塾大学  政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ─本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
▼宮永博史(東京理科大学MOT大学院 教授)─本田雅一

 

 

 

 


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