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「YouTube Dierct」でマスメディアが市民撮影の映像をニュースに

ネットやブログの隆盛とともに声高に叫ばれてきた市民ジャーナリズム。誰もが情報発信できる時代に、プロのジャーナリストとアマチュアの垣根は限りなく低くなりつつあるが、こうした市民ジャーナリズムの動きが再び大きなターニングポイントを迎えることになりそうだ。きっかけを作ったのはまたもやYouTube、そしてその親会社のGoogle だ。

今月17日、YouTubeは既存のメディアと市民ジャーナリズムを結びつける新システム、YouTube Directを発表した。一言でいえば、テレビ局や新聞などがYouTubeを窓口として、一般市民からニュースのビデオクリップを集める仕組みである。大手メディアはYouTubeが提供するフリーAPI(YouTubeとの機能連係をはかるためのソフトウェア、無料で使用できる)を利用して、自社のサイトにYouTubeを介してニュース映像を集めることができる。集められた映像はメディアの手によって取捨選択、編集され、ニュースとして正式に公表されるという仕組みである。

市民によるニュース映像の底力を世に知らしめたのは、今から4年前、2005年のロンドンの地下鉄爆破テロだった。現場に居合わせた人たちは、当時普及しつつあったカメラ付き携帯を使って爆破直後の現場写真を撮影、Eメールで配信した。既存のメディアでは決して撮影できない事件直後の写真が山ほど集まった。この年を境に、事件の第一報の映像が市民からもたらされることが多くなっていく。携帯で撮影されたサダム・フセインの絞首刑の様子は世界を驚かせたし、2007年のヴァージニア工科大学キャンパスでの銃乱射事件の生生しい銃声を捉えた動画も記憶に新しい。携帯の動画機能はニュースの現場を激変させたのだ。

こうした中で、大手メディアが一般市民の撮影したクリップを募集・発表するのはごく自然な流れだろう。この試みはYouTube Directが初めてではない。CNNは2006年に市民からの投稿ビデオを受け付けるサービス、iReportを開始し大きな成功を収めている。YouTube Directは今までCNNの独占状態だった投稿ビデオニュースの分野に切り込む事になる。大手メディアは、インフラ整備に巨額の投資をすることなく投稿動画の分野に参入できるわけで、すでにABCニュース、ワシントンポスト、サンフランシスコクロニクルを含む7社が参加を表明している。

YouTube Directは、メディア側、ビデオを投稿する市民ジャーナリスト、そしてニュースの受け手である人々の3者に、それぞれメリットをもたらす。
メディア側のメリットは、言うまでもなくニュース映像を真っ先に入手できることだ。YouTube Directは投稿者とすぐに連絡をとれるシステムになっていて、映像に関する詳しい情報を問い合わせたり、場合によっては追加の取材を要請することも可能だ。
映像を投稿する側としては、多くの人に自分の撮影した映像を見てもらえる点が魅力となる。プライムタイムのニュースにのれば、自分のサイトで公表したり、タグをつけてYouTubeに投稿するのに比べはるかに多くの視聴者に届く。また、メディアによって対応が異なるが、多くの場合何らかの謝礼が入る。

最後にニュースの受け手である一般市民は、既存メディアによって認定された確かな情報として市民ジャーナリストの映像を見ることができる。YouTubeに怪しげな“衝撃映像”が溢れる中、メディアによるお墨付きがある点は情報の受け手にとって有難いことだ。

特に影響が大きいのは、大手メディアによる情報の検証の部分だろう。今までも何度か書いたが、市民メディアの最大の問題点は情報の精度である。一次情報に接した市民ブロガーが、その情報の裏をとる技術を持たないまま情報発信する事によって信頼性を低めてしまうケースは多く、こうした部分を既存メディアが補完する、という図式を未来のジャーナリズムの可能性とする考えは強い。メディアがその機能を情報収集から情報編集にシフトするわけだ。情報は市民から、フィルタリング/検証はメディアの手で──これはこれで非常に合理的な考えだ。

しかし一方で、市民メディアはあくまで独立した存在であるべきだという考え方もある。特に、YouTube Directを大手による市民メディアの囲い込みだとする見方は当の市民ジャーナリストの間で根強い。確かに、巨象のような大手メディアを尻目に、しがらみにとらわれずゲリラ的にニュースを伝えるのが市民メディアの醍醐味とも言える。大手メディアにせっせとビデオを投稿するジョシュ・ウルフ(著名なビデオブロガー)など、何ともしまらないではないか。

市民メディアとジャーナリズム、論争は相変わらず続いている。
http://www.youtube.com/direct

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○ITmedia News  2009/11/18
 「YouTube、メディア企業向けの動画投稿サイト構築ツール公開」
 メディア企業は「YouTube Direct」を使って投稿サイトを作り、
 市民ジャーナリストからニュース動画を募ることができる。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0911/18/news057.html



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http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

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 (本編から抜粋のテキスト記事: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(株式会社インフォバーン CEO)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 出版・新聞のネオビジネスは業界の外から勃興する)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_719.html

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事リンク:常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
  「インテグレーテッドキャンペーン」で「グルーヴ」を起こす

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
  創造と依存のバランスが「仕組み」を活かす


<12月以降配信予定の対談ラインナップ>

▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗
▼森谷正規(技術評論家)─永江朗
▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)─河尻亨一
▼夏野剛(株式会社ドワンゴ 取締役、慶應義塾大学  政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ─本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
▼宮永博史(東京理科大学MOT大学院 教授)─本田雅一

 

 

 

 


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