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1969年のストーンズと2009年のSuperfly、それぞれのライヴ・オープニング曲のマニアックすぎる関係

■ローリング・ストーンズの1969年のライヴ・オープニング曲
 
 ここのところ、40周年記念ボックス・セットがリリースされたローリング・ストーンズのライヴ・アルバム『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト!』に関する仕事が多く、同アルバムと関連音源を何度も何度も聴き返すことになった。今から40年前の1969年11月に行なわれたニューヨークはマディスン・スクウェア・ガーデンでのコンサートを中心に収録されたこのライヴ・アルバムに関しては、『レコード・コレクターズ』の1月号でも特集しているので、是非手に取ってみていただきたいのだが、そんな中、このところずっと気になっているのが、『ゲット・ヤーヤ・ヤズ・アウト!』の制作段階、それもミックス・ダウンの際に行なわれた、オーヴァーダビング/差し替え作業のことだ。


ザ・ローリング・ストーンズ
『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト!─40周年記念デラックス・エディション』
(ユニバーサル ミュージック)

 ライヴ・アルバムというのは、あるコンサートのパフォーマンスをそのまま収録したものというのが建前ではあるが、実際はリリースまでの間に様々な手が加えられ、場合によっては演奏の一部が新たにスタジオで収録したものに差し替えられたり、差し替えないまでもギターやヴォーカルが新たに加えられたりして、より完成度を高めた形で制作されることは多い。そのライヴ・パフォーマンスの評価が非常に高いストーンズであっても、ライヴ・アルバム・リリースの際には曲の長さを編集で調整したり、歌を入れ換えたりしている。ライヴ・パフォーマンスの場の熱狂からは離れたシチュエイションで何度も再生されることになる一つの独立した作品に仕上げることも意識しているからなのだろう、以前のエントリーで触れたレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ(新リミックスのライヴ盤 レッド・ツェッペリン『永遠の詩─最強盤』は“ハードな爽快感”http://mediasabor.jp/2007/11/post_270.html)ほど偏執狂的ではないものの、ストーンズの場合も、そのイメージとは裏腹にかなり細かな編集作業を行なうことがファンには知られている。

 『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト!』にそうした編集作業を加えた結果、大きく生まれ変わってしまったのが、オープニング・ナンバーの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」だった。同じ時のニューヨーク公演は、『ギミー・シェルター』というタイトルの映画(アルバート&デイヴィッド・メイズルズ、シャーロット・ズウェリン監督/1970年/米国)用にも収録されていて、その映画では同曲の全くの別ヴァージョン(恐らくこちらはオーヴァーダビングなし)を見ることができる。海外の熱心なマニアの研究により、『ゲット・ヤー…』のものは11月27日、映画『ギミー・シェルター』のものは11月28日のファースト・ショウでの収録ということがほぼわかっているので、演奏そのものは違っていて当たり前。しかし、ヴォーカル・パターンが全く違ってしまっている。実際、11月27日と11月28日でミック・ジャガーが「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を全く別のパターンで歌っていたわけではない。逆に、二つの作品上に残されたこの違いこそがまさに、アルバム『ゲット・ヤー…』のミックス段階で行なわれた、歌の「差し替え」の証拠となるものなのである。


『ザ・ローリング・ストーンズ/ギミー・シェルター<デジタル・リマスター版>』
(ワーナー・ホーム・ビデオからの最新DVD)

 違いを具体的に述べよう。スタジオ・レコーディング・ヴァージョンにあったイントロをハショって、アタックの強いギター・リフから曲が始まっているのは同じ。これはライヴの際は最初からずっと採用されているアレンジ。問題はサビのパートの歌い方である。『ゲット・ヤー…』の方は、それでもスタジオ版と似た形になっていて、ミック・ジャガーとキース・リチャードが二人で「But it's alright...」とフレーズを伸ばしながらハモる。

 ところが、映画『ギミー・シェルター』で観ることができる「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」では、キースは歌っておらず、ミック・ジャガーの声だけが聞こえてくる。しかも、コンサートのオープニング・ナンバーであることを意識してノドを気遣ったのか、同じフレーズを長く伸ばすことなく、二つに区切って「But it's alright, yes, alright」と、「alright」が2回出てくるようなパターンで歌っている。日本語風に考えると、自分で自分に言い聞かせているような、ちょっと子供っぽいフレーズになっているような気がしなくもないが、映画を最初に観た時から、同曲の本来のキモであるところのハーモニーを捨て去った大胆な歌い方の、微妙な言い方になるが、音楽的というよりロック的な割り切りが非常に魅力的だと感じてきた。ローリング・ストーンズは後に「ホンキー・トンク・ウィメン」も、似たような「割り切り」アレンジで聞かせるようになる(12月9日にリマスター盤がリリースされた'76年のライヴ盤『ラヴ・ユー・ライヴ』参照)。

 しかし残念ながら、このロック度の高いアレンジの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」は、ミック・ジャガーの頭の中では'69年で「終了」ということになってしまったようで、翌年に行なわれたヨーロッパ・ツアーでも、同年にミックス作業が行なわれた先のアルバム『ゲット・ヤー・ヤ・ヤズ・アウト!』でも、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のサビのパートはスタジオ・ヴァージョンに似たアレンジに戻されることになった。'69年のアメリカン・ツアーはストーンズにとって、久々のもので、非常にプレッシャーが強かったから採用されていた「暫定的」なアレンジだったのかもしれないし、そのツアーを終えてノドに自信が蘇ったということなのかもしれない。いずれにしろ、そういうことならばストーンズにとっては決して悪いことでは全然ないのだが、あのアレンジをもう少し聞かせてほしかったな、というファンならではの贅沢な思いも持ってしまうのだった。


■2009年のSuperflyのセカンド・アルバムとライヴのオープニング曲
 
 ここで話は、突如として前回のエントリーとつながることになるのだが、上のようなファンとしての勝手な思いを、ひょっとしたら共有しているのかも? と思わせてくれたのが、前回のエントリー(「Superflyの音楽性に漂うクラシック・ロックの香り」http://mediasabor.jp/2009/10/superfly.html)でも触れたSuperflyだった。

 映画で聴かれる方の'69年パターンの「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を何度も聴いているうちに、最近、どこかでこのパターン、聞かなかったか? という不思議な感覚が押し寄せてきた。それがSuperflyのセカンド・アルバム『Box Emotions』のオープニング・ナンバー「Alright!!」だということに思い当たったのは、それから数分後のこと。前回も書いたようにSuperflyは、このエントリーがアップされる頃にはちょうど初の武道館公演も終えているはずの、人気急上昇中のソロ・ユニットであり、ローリング・ストーンズをはじめとする洋楽のクラシック・ロックへの愛情を隠さない、希有な存在でもある。

 Superflyの「Alright!!」とストーンズとの関係については、もともと、そのベーシックなサウンド、特にリズム・パターンとその音色が、ストーンズのヴォーカリスト、ミック・ジャガーが2001年にリリースしたソロ・アルバム『ゴッデス・イン・ザ・ドアウェイ』に収録された、ミックとレニー・クラヴィッツとの共作曲「ゴッド・ゲイヴ・ミー・エヴリシング」(註1)から影響を受けた形跡があることが気になっていた。タイガースらGS勢から村八分(註2)を経て、ストーンズからの影響を大きく受けた日本のロック・バンドは数多いが、その'90から'00年代なサウンド(メンバーのソロ活動をも含む)を経由したような影響の受け方をしているアーティストというのが他に思い当たらなかったからだ。

 ストーンズ自体も'90年代以降、新しい時代にどう「自分たちの培ってきたノリ」を響かせるかということに苦心してきた。その中で、ソロ活動では新しいメンバーと組み、より思い切った音楽構造/サウンドを実験する一方、グループとしてはそれらソロ活動の経験からのフィードバックも活用しながら、「ストーンズらしいサウンド」をどう再構築し、音色/音圧的にも現代に魅力的に響かせるかを考え、様々な試みをしてきた。Superflyは、'90年代以降に洋楽に出会ったという世代的な遅さを逆手にとって、ストーンズのそうした現代的「方法論」まで含めて吸収しようとしているのではないかと思えてきたからだ。

 それだけではまだ甘かった。「Alright!!」のサビの部分では、「Alright」という言葉がリズミックに振り分けて2回出てくるような歌い方になっており、40年前のストーンズの上のようなアイデアにも、Superflyは注目していたのであった! 

 とはいえ、この曲に関して筆者が感じたストーンズやミック・ジャガーからの影響は、あくまでパターンであり、フレーズやメロディがそのままSuperflyへと移植されているわけではなく、あくまで応用編。したがって、「それはストーンズ・ファンの妄想に過ぎないんじゃないの?」と言われれば反論しにくいし、実際、会社の同僚に話をしてみたところでも、「そこまで言いますかぁ!?」的な反応が返ってきたのは事実。しかし、その話をしてから数日後、ちょっと気になるところがあって「Alright!!」の歌詞カードをチェックしてみたら、歌い出しの言葉が目に飛び込んできた。 そこには、「FLASH」という文字が…。最初に気づくべきでした。

 Superflyの2009年全国ツアーのセットリスト(ライヴで取り上げた曲を順番に並べたリスト)を見てみたら、「Alright!!」がオープニング・ナンバーだった。Superflyが持つ、ライヴのオープニング・ナンバーのイメージの中に、'69年以来、ストーンズのコンサートで多く幕開けで歌われてきた「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」があるのは確かだと思う。

 『Box Emotions』に関してさらに触れておくと、ライヴでも2曲目に取り上げられている「How Do I Survive」は、ストーンズの「ブラウン・シュガー」に似ていると言われることが多く、後半にはそういうパートが出てくるが、少なくともイントロのギター・フレーズは「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」を(5弦ギターではなく)通常のチューニングで弾いた場合の順列組み合わせを替えたもの。サビの部分には、ストーンズの曲「ダイスをころがせ(Tumbling Dice)」を連想させる「Tumbling Days」という言葉が入っている上、途中で出てくるスライド・ギターも、ストーンズの「ダンシング・ウィズ・ミスター・D」('73年)などを思い起こさせるもの。4曲目の「My Best Of My Life」はソウル・シンガー、ビル・ウィザーズの「リーン・オン・ミー」のイントロのピアノ・フレーズから発展させた曲のようにも聞こえるが、ウィザーズのこの曲はアルバム『スティル・ビル』('72年)の中で、ミック・ジャガーが以前アルバム『ワンダリング・スピリット』('93年)の中でカヴァーして話題になった曲「ユーズ・ミー」の次に収録されていた。ストーンズの'78年の大ヒット曲のタイトル「miss you」なんてフレーズも飛び出す5曲目の「恋する瞳は美しい」の歌詞の中に出てくる「love train」は、フィラディルフィア・ソウルのオー・ジェイズの'73年のヒット曲のタイトル。しかしこの曲もまた、ストーンズが2002から2003年の“リックス”ツアーでカヴァーしたことで、ストーンズ・ファンの間では知名度が急上昇した曲。それに、そもそもアルバム・タイトルの『Box Emotions』という言葉自体、ストーンズの曲「Mixed Emotions」を思い起こさせるものがあるのだが………と、ここまで来ると、完全にストーンズ・ファンの「妄想」と言われそうなので、今回もこの辺にしておきます。


<註1>
「ゴッド・ゲイヴ・ミー・エヴリシング」からの影響は、『Box Emotions』の中では、「誕生」の右チャンネルから聞こえるシタール・ギターのフレーズにも感じられる。
 
<註2>
'70年代初頭に京都で活躍した伝説のバンド。最近、村八分の「操り人形」(『草臥れて』収録)のギター・ソロのフレーズ中に、ストーンズの'69年ライヴからの有名なブートレグ(海賊盤)『LIVE R Than You'll Ever Be』の中の「悪魔を憐れむ歌」をコピーしていた形跡を発見した。昔から日本のミュージシャンのストーンズ研究には、マニアックすぎる部分があったのかもしれない。
 
<註3>


Superfly 『Dancing On The Fire』
(ワーナーミュージック・ジャパン)

Superflyの11月にリリースされた新曲「Dancing On The Fire」の初回限定盤には、『Box Emotions』のリリース当日に六本木ヒルズアリーナで行なわれたフリー・ライヴ全6曲を収録したボーナスDVDが付いている。そのサーヴィスぶりも嬉しかったのだが、フリー・ライヴは、2009年全国ツアー用のものを圧縮したようなセットリストで行なわれていて、やはりオープニングは「Alright!!」、2曲目は「How Do I Survive」である。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○びっとらんだむ:ぶろぐ Superfly『Box Emotions』2009/09/19
 真骨頂は「Alright!!」のようなパンチの効いたダンス・チューンだと
 思うのですが、「My Best Of My Life」なんかはキャロル・キングや
 中島美嘉を思わせるスロウバラード、かと思えばローリング・ストーンズを
 彷彿とさせる黒っぽいロックンロールもこなすし、ジャニス・ジョップリン
 もシェリル・クロウも見え隠れする。
http://bitrandom.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/superflybox-emo.html

 


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