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ヘルシンキ市、前代未聞の公共施設予算削減案に「高福祉」の陰り

 日本の約9割の国土面積に人口が約520万人と少ないゆえに身軽なのか、フィンランドでは政府、自治体、学校の教育改革などが素早くドラスティックに行われる。12月1日のヘルシンギンサノマット紙ウェブ版で報じられた2011年以降のヘルシンキ市の予算削減案もその好例と言えるだろう。ヘルシンキ近郊の人口は130万人、企業数は約5万という大変コンパクトな首都圏である。

 同紙によると、へルシンキ市長ユッシ・パユネン氏の指示により、市内の学校、図書館、保健センター、デイケアセンター、ユースセンター、歯科クリニック、運動施設などの80ヶ所の公共施設が閉鎖される見込みであるという。ヘルシンキ市役所によると、それらの施設は不要あるいは、適切に使われていないとのことだが、リストには、20校以上もの学校が2011年から2014年までの間に閉鎖か統合されるものとしてあげられている。学校施設が20校分というのは、少し多過ぎる気がするのだが、いかがなものだろう。

 これらの疑問に対し、パユネン市長は「これは、コスト削減への努力に他ならない」と主張。同氏は、この80ヶ所全ての閉鎖、もしくは統合整理が実現すると、ヘルシンキ市はこれらの施設の建物を貸し出すなどして年間一千万ユーロのコスト削減が可能になると言う。さらにパユネン市長は、壁の数、すなわち建物の数を減らすのは賢明な決断であり、それ以外の選択肢としては、公共サービスや公務員の削減しかないと主張。「市の最大の支出は公務員である」とパユネン氏は語る。市議会ではすでに、2011年には40億ユーロ近くある市の予算のうち一千万ユーロを削減することが可決した。削減可能額は議員らによって決められるのだが、最終決定案は来年2010年の市議会で協議されることが決まっている。

 ところで、ヘルシンキ市はこれまでにも公共施設の空き部屋を積極的に会議室や集会所として一般に貸し出すサービスを展開してきているが、実際に利用者の目から見ると、ビジネスというよりもお役所仕事という感に堪えない。例えば、前年まで1時間9ユーロで貸していた会議室や集会所の室料を、“何の予告もなしに”翌年から15ユーロに引き上げられた年があったが、その際に職員らの対応はヘルシンキ市内の施設は一律引き上げという一点張りで、室料の引き上げにより予算割れした団体や集会などは私設の施設に流れていった。80か所もの施設の閉鎖の主な目的は「人件費の削減」であって、「空き部屋の貸し出しによる収入」を大きくあてにしているものではないと理解はしているが、それにしても、ちょっと心もとない。
 
 また今回のコスト削減プランに対する人々の反応だが、予算が削減されることもあれば、余裕がある年にはサービスが向上することもあるというわけで、これらの激しい変動に慣れているのか、比較的落ち着いており穏やかだ。世界的な不況に対する理解も示されているようだが、このように大まかな予定だけでは、いまひとつピンと来ないというのも理由の一つだろう。例えば、閉鎖あるいは、統合される学校が近所で、家に就学前の子どもがいる人達にとっては大問題であるが、もう子育てが終わってひと段落ついている家庭の人達にしてみれば、対岸の火事であるというように。

 しかしながら、このように大規模な公共施設の閉鎖もしくは統合プランは、さすがに首都ヘルシンキだから起こりえることで、例えばそこから北へ30キロほどのところにあるベッドタウン、ケラヴァでは、学校2校が1校に統合されたぐらいで、図書館に至ってはもともと市に一つしかないので、閉鎖も統合もあったものではない。それでも、失業手当の出し渋り、重度の認知症老人のホーム入りの遅れ、保健センターでの薬の処方の出し渋り、重篤な発達障害児の診察が6カ月待ちなど、高福祉社会の限界を匂わす話題は日常的に上ってきている。老い先の年金の心配も海の向こうの話ではない。世界的な不況を受けて、ますます危うくなってきている「高福祉」。この先のフィンランド流・ドラスティックな改革の手腕に期待したい。

 

 


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