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斜陽の地上波TV局、携帯に身売り競売?

“皆が自宅でケーブルチャンネルを見ているこのご時勢に、どこかの間抜けが誰も行かない丘の上でドライブインシアターを経営していました。ところがラッキーなことに、地面から突然石油が噴き出しましたとさ”

今月8日、ウォールストリートジャーナルが連邦通信委員会を批判した記事での米国テレビ業界のメタファーである。中々うまい事言うもんだ、などと感心している場合ではない。インターネットに押されて青息吐息なのは日本のテレビ局だけではない。日本ではそれほど普及していないケーブルテレビという天敵が存在する米国では、地上波はまさに崖っぷちに追い詰められている。視聴者数はここ数年間でなんと56%のダウン、広告収入も激減。3大ネットワークを含む地上波放送局は生き残りの道を探してなりふり構わぬ必死の形相である。さらには、新聞業界と同様もはや沈没は免れないのだから、いかに最小限の被害でソフトランディングさせるかを検討すべきという意見まである。

対照的なのが、米国のモバイル市場。不況でやや減速気味ではあるものの、スマートフォンの台頭で使用電波帯域は過密状態、今後数年でかなり逼迫した状態になることが予想される。米国産業の数少ない有望分野であるモバイルは、その勃興が米国経済の未来を決めるといっても過言ではない。何とかして盛り立てたいところだが、携帯電話に流用できる帯域はとりあえずのところ放送用電波しかない。未来のないテレビは見限って、将来有望なモバイルに何とか地上波の帯域を廻したい、というのが政府及び通信業界の本音なのだが、その本音が形となったのが連邦通信委員会の今月発表した公示。ここで提案されたのは、テレビ局の持つ放送用電波帯域の四分の一を、競売形式で電波不足に悩むモバイル業界に売り飛ばすという驚天動地の方策だった。

電波帯域を競売形式で企業に販売することは米国では珍しくない。2009年2月に地上波デジタル化を完了した連邦政府は、必要なくなったアナログ波帯域の競売を行った。グーグルのオークション参加が話題になったのは記憶に新しい。(結局落札はしなかった)
この「電波割り当て競売」は、実は日本の民主党も画策している。現在のところ、電波は監督官庁(総務省)が免許を発行した通信事業者に割り当てるものであって、どの企業がどの帯域を使用するかは役所の腹次第となっているのだが、正直やや不透明な感が拭えない。官僚主義が瓦解し始めている今日、競売形式で電波を割り当てるのはフェアな方策ともいえる。しかし、今回の米国の場合、事情は少々複雑だ。

生き残りをかけた米国テレビ業界が期待をかけているのが、モバイルの地デジ放送、日本で言うワンセグである。インターネットとケーブルに押され気味のテレビ局だが、地上波のモバイル放送によって視聴者数を一気に挽回し、かつての栄華を取り戻す──これが米国テレビ界の構想する逆転劇である。しかし今回の帯域移転が実現すれば、この計画の大きな障害となる可能性がある。地上波テレビの未来を賭けたプロジェクトをぶっつぶしかねないこの提案、テレビ業界が「はいそうですか」と認めるとも思えない。そこにはそれ相応の見返りがなければならない。

もちろん電波を売った代金を受け取るのは政府であって放送業界ではない。しかし、実際にトレードが行われれば相当の金額がテレビ局に何らかの形で補てんされることは間違いない。(でなければ納得しないだろう)全米家電協会の試算によれば、放送用電波の資産価値は120億ドル(約一兆円)だが、モバイル業界での利用を勘案すると価値は5兆円以上に跳ね上がるという。ウォールストリートジャーナルはテレビ業界に支払われる転換対策費を約一兆円と予想している。客のこないドライブインシアターの立ち退き料としては悪くない。

それでも放送業界の反発は大きい。全米放送事業者協会は、“ついこの間1兆円以上もかけてデジタル化して、余った帯域をくれてやったばかりじゃないか”と怒りのコメント。一方モバイル業界は諸手を挙げて連邦通信委員会の提案を支持し、“現在の成長曲線を見る限り、非常に論理的かつ合理的な案ではないかと…”CITA(全米セルラー通信工業会)と、放送業界の神経を逆なでする発言。

それにしても、ついに政府にまで見限られてしまった地上波テレビ。インターネットで番組を配信したり、新番組を投入したりと必死の努力を続けているが、広告収入の減少は止まらない。連邦通信委員会の地上げに追い詰められる斜陽のドライブインシアターは携帯ショップに土地を明け渡すのか?


▼ウォールストリートジャーナル、Rabbit Ear Wars(地上波戦争)
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748703558004574583750148917092.html

▼スペクトラムトーク(個人のブログ) 
http://spectrumtalk.blogspot.com/

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○CNET  2009/11/06
 MediaFLOに必要なのは「認知度」--クアルコムが米国の状況を説明
 2007年より米国でサービスを開始し、2011年以降は日本での実施も
 見込まれている携帯端末向けの有料放送サービス「MediaFLO」。
 11月5日、米FLO TVおよびQualcomm MediaFLO Technologiesで代表を
 務めるビル・ストーン氏が来日し、米国での現状や日本を含む今後の
 展開などについて説明した。
http://japan.cnet.com/mobile/story/0,3800078151,20403099,00.htm


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<2009年12月配信の対談>

▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗
 「仕事で重要なのは情報と人脈の活かし方」
http://mediasabor.jp/2009/12/post_732.html 

▼森谷正規(技術評論家)─永江朗

 テーマ: 「戦略の失敗」から学ぶ日本製造業の立て直し (放送時間:106分)
 ※長年、世界の技術を研究されてきた森谷氏の視点から、日本の製造業分野の
  失敗事例とその根本原因を分析していただきます。さらに日本の製造業が優位に
  立てる分野とマネジメント立て直しの方向性について解説していただきます。

<対談の全体概要>
◎1980年代に世界で圧倒的優位にあった日本の半導体産業が凋落した要因
◎HD-DVDがBlu-rayとの規格争いに敗れた理由
◎RDF(固形燃料化)の事業化失敗の理由
◎多くの技術がビジネス化までに至らない要因
◎失敗の根本原因(落とし穴)である12の事項について解説
◎「戦略の失敗」をいかに防ぐべきか
◎ハイブリッド車、電気自動車のゆくえ
◎自動車用電池技術開発の難しさ
◎家庭用燃料電池、太陽光パネル普及による電力業界への影響
◎情報技術がこれから向かう分野
◎日本人の特性を活かしたものづくり。日本と相性のいい製造業とは
◎ 技術力、商品開発力の優位さを事業成果に結びつけられない経営の問題点


<2010年1月以降配信予定の対談ラインナップ>

▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)
   ─河尻亨一
▼夏野剛(慶應義塾大学  政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ─本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
▼宮永博史(東京理科大学MOT大学院 教授)─本田雅一


<2009年10から11月公開の対談ラインナップ>

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(株式会社インフォバーン CEO)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 出版・新聞のネオビジネスは業界の外から勃興する)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_719.html

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: 常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html 

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
 (本編から抜粋のテキスト記事:「インテグレーテッド・キャンペーン」で「グルーヴ」を起こす)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_723.html

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事:創造と依存をバランスさせて「仕組み」を活かせ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_724.html

 

 

 


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