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英国発、スパムメール撲滅に非営利で闘うサイバー犯罪専門家

フィルターをくぐり抜け、いつの間にか受信箱に入ってくる迷惑メール。スパムメールとも呼ばれ、今、世界中を毎日飛び交う天文学的な数のメールの6─7割はスパムメールと見られている。そしてその8割は、たった100ほどのギャング的なスパマー(スパムメールの送り手)組織の手になるものだそうで、彼らは傘下にいくつもの子分格スパマーを抱えいかがわしい広告やフィッシングメール、ウィルスメールなどをあらゆる方向に無差別発信しつづけている。

そんな実状を聞かせてくれたのは、スパマーを心の底から憎み、その撲滅を目指し昼夜闘い続ける男、スティーブ・リンフォードさんと彼の作った「スパムハウス・プロジェクト」だ。スパムメールの数が増え始めた90年代中盤、リンフォードさんは、テムズ川に浮かぶハウスボートに住みコンピューターのソフトを作っていた。不愉快な思いで「こんなメールを送るな!やめてくれ!」といちいち返信しているうちに判明したのが、受信者から「反応」があるメールアドレスは、より高い値段で闇取引されている、という恐るべき事実だった。

個人情報の売買は、電子メール以前から行われていたが、ネットを通じての情報収集が可能になるやサイバー世界にもギャングが跳躍するようになっていたのである。一攫千金を狙うプログラマー達も参入。郵便を使っていたダイレクトメール業者も彼らの顧客と化した。そんな中、ウェブホスティング・ビジネスを始めたリンフォードさんにとり、このスパマー達の「吐き気を催すような欲深さと横暴さ」は堪え難いものに。そこで、スパムメールを阻止するためのフィルターの提供、送信者の身元をリスト化し公表するプロジェクト「スパムハウス」を単身始めたのだ。すぐに、仲間がどんどんボランティア参加。みな同じ問題に怒りを覚えていた。

しかし、手元でスパムメールを受けつけないようにするだけではだめだ。スパマーを叩かなくてはスパムメールは無くならない。それには、大量の未承諾メールを送りつける行為を違法にする事しかない。それも、グローバル規模の規制でない限り、スパマーはサーバーを設置する国を変えるだけだ。気がつくと、リンフォードさんは反スパム活動家として政府への訴えを始めていた。

テクノロジーに疎い政治家と、これまた利権がらみでないとなかなか動かない政治の世界を相手に、規制の必要性を認めてもらうのは困難を極めた。しかし面白い事に、各国政府や軍は「規制はちょっと...」と言いながらも先を争って「自分達のメールボックスをスパムから守ってもらおうと」早い時期から群がって来たと言う。英国国会に招かれ講演をすると、一人の議員が「私はスパムメールなんて一度も受け取った事がない、君の話は妄想ではないか」と喰ってかかったが、その議員は、英国政府のメールサーバーがすでにスパムハウス・プロジェクトを利用していたことを知らなかっただけという話もあるくらいだ。EUでの規制は発効、オーストラリアは厳罰を設定しスパムメールの激減に成功した。スパム発祥の地アメリカではダイレクトメール協会などの力が強く、いまだに望ましい状態にはなっていない。

大手ISP多数がスパムハウス・プロジェクトを利用してスパムメールをブロックするようになり、面白くないのはスパマー達。さまざまな手段で反撃を始め、中にはリンフォードさんの自宅(船)を突き止め、命の危険を振り回して脅迫した一味もいたという。しかしその頃には、警察はもちろんのこと、グローバルなサイバー犯罪に神経を尖らすFBIも味方だった。必要とあればいつでも助けてくれるそうだ。

初めはテキストだけだったスパムメールも、今では画像を利用したり、PDF書類の添付になったりと進化し、敵は手を変え品を変え攻撃をやめない。ウィルスを送り込んで乗っ取った一般のPCから大量のメールを自動発信する、ボットネットの被害も深刻だ。

スパマーとは一生闘い続けると言うリンフォードさん、イギリスを離れた今もその人柄と生きかたは全く変わらず、本業は今だに一匹狼の自営のまま。サイバー犯罪の専門家としても引っぱりだこながら、時々、船でふらっとオフィスごと大好きな海に出てしまったりする。どんどん発展し中国にまで拠点が増えたこのプロジェクトも、初めから非営利の方針で行くと決めていた。つまり、基本的に利用は無料なのだ。大量のメールボックスを抱えるISPには設定経費をカバーできる費用をチャージ、あとは寄付で運営している。現在のユーザーの数(メールボックス数)は14億。一人たった1ドル徴収するだけで14億ドルになるのに、お金を取る気はまったく、ない。

その理由は「金では金と闘えないから」という彼の信条による。「スパム阻止をビジネスにすれば、利潤の追求は避けられない。それじゃあ、金にしか関心のない奴らと同格になってしまうんだよ」と言い切る彼のもとには、多数の大企業が事業機会、要するに儲け話を求めて訪れる。当然、収穫はなく、正義の騎士を気取るナイーブな奴め!と不満顔で帰る担当者の背中を見ながら、スパマーの欲深さとどこか似ている、と思わされることがあるそうだ。


【サイバー犯罪と闘う組織】
スパムハウス・プロジェクトHP  <http://www.spamhaus.org>
ロンドン・アクション・プラン  <http://www.londonactionplan.org/>
MAAWG メッセージング・アンチ・アビューズ・ワーキンググループ <http://www.maawg.org>
NCFTA ナショナルサイバー捜査およびトレーニング同盟(アメリカ)
<http://www.ncfta.net/main/home/>



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過去の音源サンプルをオトバンクの下記サイトにて聴取することができます。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/talk01.html

入会はオトバンクの下記サイトからおすすみください。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


<2010年1月配信の対談ラインナップ>

■ゲスト:三浦展  インタビュアー:河尻亨一
テーマ:増殖する「シンプル族」のライフスタイルと消費性向(放送時間:104分)

広告や供給側の仕掛けが効きにくくなっている要因は、メディアの多様化だけでは
なく、コンシューマーの意識変化も見逃せない。静かに増殖する「シンプル族」は
その象徴であり、今後のサービス創出や商品開発で無視できない存在となっている。

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 <三浦展>プロフィール
1958年生まれ。82年一橋大学社会学部卒、パルコに入社、マーケティング情報誌「アクロス」編集室勤務、その後同誌編集長として「第四山の手」「新人類」「世界商品」などのキーワードを使い、時代、世代、消費、都市、文化などを分析。
90年に三菱総合研究所入社、99年に退社し消費・都市・文化研究シンクタンク
「カルチャースタディーズ研究所」を設立。
団塊ジュニア世代、団塊世代などの世代マーケティングを中心に、自動車、家電、情報機器、食品、化粧品などの商品企画、デザインのための調査等を行う。
また、家族、消費、都市問題などを横断する独自の「郊外社会学」を展開するほか、「下流社会」「ファスト風土」「2005年体制」「真性団塊ジュニア世代」「シンプル族」などの概念を提案、マーケティング業界のみならず、社会学、家族論、都市計画論など各方面から注目されている。
主な著書は
「下流社会―新たな階層集団の出現」 (光文社新書)
「団塊世代を総括する」(牧野出版)
「ファスト風土化する日本―郊外化とその病理」 (洋泉社)
「かまやつ女の時代─女性格差社会の到来」 (牧野出版)
「シンプル族の反乱」(ベストセラーズ)など
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◎パルコ時代。マーケティング情報誌「アクロス」での仕事
◎三菱総合研究所での仕事
◎カルチャースタディーズ研究所設立の動機
◎独立後の印象に残っている仕事。手ごたえを感じたエピソード
◎「時代を象徴するようなヒット商品、流行は社会構造の変化によって
  もたらされる」という持論の意味
◎「社会構造の変化」を見極めるための仮説と検証について
◎優れたマーケティング・リサーチャーとは
◎「シンプル族」とは。「シンプル族」のルーツ
◎「シンプル族」のライフスタイル
◎「ロハス志向」と「シンプル族」の共通性
◎欧米文化崇拝から和文化志向への変化
◎「シンプル族」のコミュニケーション、情報接触の態様
◎「モノ」から「コト」へ変化する消費
◎これからの商品開発、サービス創出、流通の考え方


■ゲスト:夏野剛  インタビュアー:本田雅一
テーマ:ビジネスイノベーターの流儀(放送時間:97分)

ベンチャー企業と大企業において、革新的なサービスの実現に取り組んできた
過程、手法など夏野流仕事術を公開。ITインフラビジネスの特質のほか、IT業界の
動向を多面的に解説。保守的な日本企業社会に渇を入れ、多様化する現代社会に
おけるビジネスパーソンのキャリア形成の考え方についても言及。 

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 <夏野剛>プロフィール
1965年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてMBA取得。ハイパーネット副社長を経て、1997年にNTTドコモに入社。松永真理(まつなが まり)氏らと「iモード」ビジネスを立ち上げる。iモード以後も「おさいふケータイ」をはじめとするドコモの新規事業を企画、実現する。2005年、同社執行役員就任。同社退社後、2008年5月に慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘教授に就任。株式会社ドワンゴの取締役のほか、複数の企業の社外取締役も務めている。主な著書に「ケータイの未来」「1兆円稼いだ男の仕事術」「グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業」など。
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◎技術的観点からは理解しにくいITバブル的投資ブームは、なぜ起こったのか
◎失敗から学んだこと。その後の仕事のスタイル
◎iモード展開の内実
◎人との出会いによって転機となったこと。人脈形成のコツ
◎FOMA再生物語(900iシリーズ)
◎イノベーションが起こりにくい日本企業の体質と経営の改善ポイント
◎複数の企業から求められている自身の役割とは
◎会社が変わっても通用するキャリア形成の考え方
◎ITプラットフォーム構築のインフラビジネスを成功に導いた戦略
◎クラウドコンピューティングに対する考え方
◎金融危機等の影響下で終了しているネットサービスが多いが、この難局を
  どう捉えているか
◎PCインターネット上で有料サービスを成立させるための重要な要素
◎アップルiPhone、グーグルの携帯OS「アンドロイド」搭載端末について

 

 

 


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