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「ありえない系」おしゃれ女王『レディー・ガガ』を読み解く

 ファッション界に2009年、新ミューズ(女神)が舞い降りた。その名は「レディー・ガガ(LADY GAGA)」。挑発的な衣装でゴシップの種にされがちなガガだが、実はそのスタイリングは極めて精緻に計算されていて、むしろ今の取り上げられ方は過小評価とさえ言える。ガガの装いを読み解くと、ファッションの現在が見えてくる。

 露出が多い衣装のせいで、話題作りだと誤解されがちだ。しかし、本人がインタビューで答えている通り、ガガの衣装は自発的な表現であり、ガガそのもの。

 誰かの真似でもないし、スタイリストのお仕着せでもない。ガガ自身が自分の求める服を探し出し、コーディネートを決定している。一般にファッションリーダーと呼ばれる有名人でも、お抱えスタイリストのアドバイスや、ブランド側からの提供商品から選ぶケースが実は多い。

 しかし、これまでの常識を破るガガのチョイスには、ガガ一流の目利きが働いていて、有力デザイナーですら感心しているほどだ。しかもどうやら近頃は自分だけのために、ガガが望むデザインのオリジナルウエアを仕立ててもらってもいるようで、そののめり込みぶりは半ばデザイナーの仕事に踏み込んでもいる。

 例えば、世界のモードを牽引するトップデザイナーのアレキサンダー・ワン氏は「今年の重大ニュース」のトップに「ガガ出現」を挙げた。ファッション専門紙の日本版「WWDジャパン」の年頭特集でのアンケートに答えたものだけに、その意味は重い。世界のファッションシーンに影響力を持つワン氏が数ある出来事よりも「ガガ出現」を重く見たのは、その衝撃度を物語る。

 びっくりする事に、ガガは最新トレンドの大半を既に着こなしている。極端に片方の肩を目立たせるワンショルダーや、過剰にデコラティブなヘッドアクセ、ランジェリーの外出しなど、難易度の高い新トレンドもガガは軽々とまとってしまう。しかも多くの場合、ランウェイでの発表よりも早くにだ。もはやそのおしゃれ嗅覚は第一線のデザイナーさえもしのぐ。

 ステージとプライベートとの間に、おしゃれの「落差」が小さいのは、これまでのミュージックスターと決定的に異なる点だ。ステージでは派手な「見せる衣装」を披露する歌手でも、普段着は飾り気が薄くなるのが普通。でも、ガガはパパラッチされている移動中の写真を見る限り、オフステージでも「見せる衣装」を着続けている。つまり、ステージ上のガガとの演じ分けはないのだ。これほど自らの着こなしに自信を持っていて、自己と一体化しているアーティストは滅多にいない。

 そもそもパパラッチを受け入れている態度がすごい。大ヒット曲にも「パパラッチ」という題名があり、ミュージックビデオではどこでもフラッシュを浴び続ける自分をパロディ化してみせた。プライバシーを放棄しているわけではないが、いついかなる時でもガガ・スタイルを体現している点は新人離れした堂々たる態度と見える。

 もともと素顔でも十分に魅力的だが、しばしばその美貌を覆い隠してしまうようなウィッグ(かつら)やサングラスを好んで用いる。飾り気なしのフルフェイスをさらすのは、かえって珍しい。しかし、覆面代わりにサングラスを用いる普通の芸能人とは違って、ガガは自分を消すためにウィッグやサングラスを用いるのではない。逆に、ガガであることをアピールするためにこれらを身に着けるのだ。

 サングラスをこれほど多用するアーティストはほとんど見当たらない。大ヒットアルバム「FAME(フェイム)」のジャケット写真ですら、顔の上半分をビッグサングラスで隠している。その形もスキーゴーグル風の左右がつながったフォルムや、真ん丸のジョン・レノン形、黒いレンズ蓋が開閉する特殊タイプなど、実に様々。同じモデルを探すのに苦労するぐらいのレアなデザインで、「ガガ七変化」の重要な小道具となっている。着用の頻度はサングラスなしがまれなほどで、ほぼサングラスはガガの「素顔」と同化しつつある。

 本当の髪型がどれだか思い出せないぐらい、ガガのヘアスタイルは現れるたびに様変わりしている。もともと見事なブロンドの持ち主(実際はブルネットで、普段からブロンドに染めているという)だが、装いに合わせて、ダイナミックに髪型は変わる。ブロンドでこしらえた巨大なリボンを、てっぺんに載せた奇想天外な髪型はガガの最も有名な「発明品」。フランス・ルイ王朝風の総巻き髪や、シャイニーピンクを混ぜたロングヘア、耳たぶの高さで揃えたボリューミーなボブカットなど、長さも形も実に多彩。これまた他のアーティストでは考えられないレパートリーの広さと言える。

 派手な太もも見せの水着風ウエアはガガ・ファッションのキラーアイテム。股が切れ上がったいわゆるハイレッグのタイプだ。ヒット曲「pokerface(ポーカーフェイス)」のミュージックビデオでもこの姿で動きの大きいダンスを披露した。

 ガガの前にはドレスコードも意味を持たない。上記のハイレグ姿で高級レストランに現れたガガは堂々と席に着き、食事を楽しんだという。どんなアーティストでもかしこまったディナーではレストランの流儀に従うものだが、ガガは構わない。この自意識の強烈さがガガスタイルを支える。

 ヘッドアクセとジャケットの高貴なムードを、ブラ見せとハイレグが素敵にぶち壊している。それでいて全体は下品でも露悪的でもなく、むしろコケットなムードが漂う。正統派ジャケットに、ショートパンツやレギンスを合わせるのは、世界の4大コレクションでも提案されているコーデだが、ガガはその先を行く。無理めどころか、「ありえないめ」のコーデすらも、強引に成立させてしまうモード力が今のガガにはある。

 既にガガ流は世界のモードシーンを挑発し始めている。2010年春夏コレクションではガガにインスパイアされたとおぼしきルックがランウェイに登場した。異なる表情の服を合わせる「ミックステイスト」が着こなしの新ルールとなるなか、ガガが体現する「ありえないめ」を受け入れる余地が広がってきた。その意味でもガガは新時代のファッションリーダーと見ていい。

 帽子という枠を超えて、頭周りを飾るヘッドアクセは日本でも新おしゃれアイテムとして定着し始めている。しかし、ガガはその先駆けとも言える存在。ブロンドのてっぺんリボンは既にフォロワーが続出している。

 ランジェリーを露出する着こなしは2010年春夏の際立った新トレンド。ガガはこのトレンドにも火を点けた。ブラやビスチェを見せるスタイルは過去にマドンナが披露したが、マドンナ流はデザイナーのジャンポール・ゴルチエ氏のデザインしたコーン形ブラに象徴されるアバンギャルドでスタイリッシュな演出。マドンナのアイデアも加わっているだろうが、マドンナは提案を受ける立場だった。しかし、ガガの場合は決まったデザイナーもスタイリストもないようだ。

 奇抜でエキセントリックなガガ・ルックのベースになっているのは、ニューヨークのクラブファッションとされる。もともと富裕な家庭に生まれ育ったガガは早くから名門校で学び、相当に高い音楽的教養を身に着けていた。その実力は楽曲提供からキャリアがスタートしていることからも分かる。「FAME」の全楽曲も自ら作詞・作曲している。しかし、音楽を自分の進む道と決めたガガは家族の期待に反してクラブ通いを続け、ストリップクラブで働くようにもなったという。全身に染み込んだニューヨークのナイトクラビングは今もガガ・ルックの背骨をなしている。

 「ファッションは私のすべて」。ガガはこう言い切る。その言葉に偽りがないのは、現在進行形でガガ自身が証明している。


【公式サイト】http://www.ladygaga.com/

 


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