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夏野剛×本田雅一 対談「ビジネスイノベーターの流儀」

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 第10回目の対談企画。
■ゲスト:夏野剛  インタビュアー:本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
テーマ: ビジネスイノベーターの流儀 (放送時間:94分)

ベンチャー企業と大企業において、 革新的なサービスの実現に取り組んできた過程、手法など夏野流仕事術を公開。 ITインフラビジネスの特質のほか、IT業界の動向を多面的に解説。 保守的な日本企業社会に渇を入れ、多様化する現代社会における ビジネスパーソンのキャリア形成の考え方についても言及。




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<夏野剛>プロフィール
1965年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。ペンシルバニア大学ウォートンスクールにてMBA取得。ハイパーネット副社長を経て、1997年にNTTドコモに入社。松永真理(まつなが まり)氏らと「iモード」ビジネスを立ち上げる。iモード以後も「おさいふケータイ」をはじめとするドコモの新規事業を企画、実現する。2005年、同社執行役員就任。同社退社後、2008年5月に慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特別招聘教授に就任。株式会社ドワンゴの取締役のほか、複数の企業の社外取締役も務めている。主な著書に「ケータイの未来」「1兆円稼いだ男の仕事術」「グーグルに依存し、アマゾンを真似るバカ企業」など。
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夏野氏との対談音源の一部、その他の対談音源サンプルは下記サイトにて確認できます。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/talk01.html#no9

対談音声本編聴取のための会員登録はオトバンクの下記サイトよりおすすみください。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.htm

音源本編から、その一部を切り取った記事を下記に掲載いたします。


(本田)
───現在は複数の企業の仕事を同時にこなされています。それぞれにおける役割は異なると思われますが、ご自身のどんな部分が求められているとお考えでしょうか。

(夏野)
自分自身は、野暮ったい言い方ですが、いわゆるベタな意味での「イノベーター」だと思っているんですね。「イノベーター」には革新という意味が含まれていますが、当たり前のことを当たり前にやるということができなくなっているのが、色んな企業や組織が抱える問題点です。たとえば、上層部に対して本音を言えず、形だけの仕事を淡々とこなしている、といったケースです。

私のように社外役員を担当する人間が一番忘れていけないことは、世の中の常識から乖離したり、本来、会社が持っているポテンシャルと違うことをやっていたり、あるいは変なルールを社内で共有していたり、外部の目からみて、おかしなことが通ってしまったりするようなことを、ちゃんと指摘してあげることだと思っています。それを指摘するのは、粗を探してつぶしているということではなく、これがイノベーションだと思うんです。そういうところからイノベーションは起こると思っていて、実際、単に取締役会に出席するだけではなく、「本来、この企業が持っている力をITを活用することで、さらに伸ばすことができますよ、なぜ、やらないんですか」といった提言により、新たな取り組みがどんどん始まったりしているので、非常に面白いです。

(本田)
───著書をみても、物事を俯瞰してみるような意見がみられますが、そういうものの見方は、以前からの才能のひとつだったのでしょうか。

(夏野)
いや、そうではなくて、みんなわかっているんだけど、口をつぐんでいるだけ、あるいは見ないようにしているだけだと思うんです。なぜかというと、そういうことを言い出すと、角が立つんですよ。嫌がる人を敵に回すことになります。だから摩擦を恐れて黙っている。私の場合は、黙って、波風がたたないようにうまくやっていたとしても楽しい人生にはならないし、その会社にとってよくないので黙っていられないんです。

(本田)
───そのようなことは、企業に限らず、社会の色々な場面の中に潜んでいそうですね。

(夏野)
特に日本の場合は、取り敢えずその場をしのぐ、あるいは、取り敢えず過去からの延長線上にしておく、そうしておけば問題にならなかった時代があまりに長かったんですね。これが、私はバブル時代までだと思うんです。90年代の後半以降は、過去と同じことをやっていたら、なんかうまくいってない。じゃあ、どうしよう。でも、過去と違うことをやるのは怖い、そのように逡巡している状態です。変えなければいけないことは何となくわかっているんだけれど、変える自信がないわけです。

(本田)
───変えなければ責任を取らなくていいという保身ですね。

(夏野)
上層部はそうですね。下の方は、「それは俺の仕事じゃない」といった、なかば、他人事のような雰囲気があったりします。

(本田)
───仕事してて、つまらないと思うんですけどね。

(夏野)
ただ、それは価値観の問題で、割り切っていらっしゃる方が特に大企業の中には多いです。社内でのポジションや給料のことが最大関心事で、仕事内容には興味がないような人たちです。だけど、もったいないです。せっかく企業というものは、ものすごく大きな力があるのですから、その力をうまく引き出して世の中の進化に繋がるようなことをしたい、というのが私のキャリアポリシーです。

(本田)
───私が感じているのは、景気悪化とともに社会を取り巻く環境が2003年以降、ずいぶん変わったなあという印象なのですが、そういった不安定な状況の中で、ビジネスパーソンのキャリア形成ですとか、スキルアップのための自己投資、学習についての関心が高まってきているように思うのですが、会社が変わっても通用するような立ち位置に至るには、どんなことを心がけるべきですか。

(夏野)
すごく単純なことだと思うんですけれど、好きな事をやるっていうことです。つまり、「好きこそ物の上手なれ」という言葉が現代ほど当てはまる時代はないと思うんです。かつて、特に高度成長期は自分の好き嫌いじゃなく、会社のために働けといわれたわけですね。誰がやっても同じ結果がでるような組織が一番いい組織だといわれたんです。これは、なぜかというと全体が成長しているので、とにかく効率をよくすれば成長が実現できたわけです。

ところが、現在は、全体の経済成長が期待できない中で、企業、ビジネスを成長させなければいけません。ということは、人と違うことをやらなければならないんです。昔は、人と違うことをやっちゃだめだったんです。人と違うことをやるときに一番重要なことは、それが好きかどうかなんです。好きなことであれば、ネガティブな意味の勉強ということではなくて、必然的にどんどん調べるわけじゃないですか。

特に99年以降のIT革命で何が変わったかというと、個人レベルの情報摂取量が企業のレベルとあまり変わらなくなってしまったんです。以前は、世界のどんな企業が、どんなウェブの技術を持っているかを調べるだけで、ものすごくお金がかかったんですけど、今は、ウェブ検索により、あらゆる産業に関して専門家に匹敵するような情報を得ることが可能になりました。問題は、それをずっとやり続けられるかどうかですが、それは、好きじゃなきゃ、なかなかできないんです。好きな分野であれば、たまたま、その分野の仕事に就いている人に比べて、はるかに深い知識を有する専門家になっていきます。

私ができるアドバイスがあるとすれば、早く自分が向いていること、好きな分野、これを極めたいと思うことを見つけてください、ということです。

(本田)
─── 一方で、企業側としても、個人個人を活かす経営の実現というのものが、重要な課題になってきていると思われます。従来の集団主義的なやり方を変えていくにあたって、組織体制、人事、権限委譲、報奨制度など、経営上のどんな部分を変えていくべきだと考えていますか。

(夏野)
私はやはり、経営の変革は上からやらなければいけないと考えています。特に日本の会社の場合は、多様性(ダイバーシティ)に目を向ける必要があります。今、日本の大企業の経営層というのは、ほとんどが50代後半の男性で占められています。これは、多様性に欠けていて極めて危険な状態です。その世代の人たちだけで、重要な意思決定を行っていることを危ないと思わなければいけません。同様にベンチャー企業などにおいて、30から40代の人たちだけで経営層が占められていることもまた危険なんです。雑種混交にすることが、遺伝子学的に、あるいは生物学的に強いものを生み出すんです。

(本田)
───人口構成比率と同じようにしたほうがいいという説を唱える方もいらっしゃいます。

(夏野)
ただ、そうすると未成年も含まれてしまいますので、経営陣を構成する場合は、ある程度の経験や見識を考慮する必要がありますが、前後5歳の中に、全ての経営陣が入っていて、しかも全員男性というのは、おかしいと、まず思うことが大事です。

企業の中で昇進できるかどうかは、合う合わない、向き不向きがあり、その会社で昇進できたとしても、他の会社では昇進できなかったかもしれません。逆に、その会社で昇進できなかった人が、違う会社では評価が高いというケースもあります。だから、合わないと思ったら転職すればいいのですが、とはいえ、日本では年齢層が高くなるほど転職が大変で、雇用の流動性に乏しいから、会社にしがみつこうとする人が多くなります。そうしたことが、日本経済停滞の大きな要因であると考えています。多様性を経営陣から実現していくことが企業活性化への道なのです。

<対談の全体概要>
◎ 技術的観点からは理解しにくいITバブル的投資ブームは、なぜ起こったのか
◎ 失敗から学んだこと。その後の仕事のスタイル
◎ iモード展開の内実
◎ 人との出会いによって転機となったこと。人脈形成のコツ
◎ FOMA再生物語(900iシリーズ)
◎ イノベーションが起こりにくい日本企業の体質と経営の改善ポイント
◎ 複数の企業から求められている自身の役割とは
◎ 会社が変わっても通用するキャリア形成の考え方
◎ ITプラットフォーム構築のインフラビジネスを成功に導いた戦略
◎ クラウドコンピューティングに対する考え方
◎ 金融危機等の影響下で終了しているネットサービスが多いが、
  この難局をどう捉えているか
◎ PCインターネット上で有料サービスを成立させるための重要な要素
◎ アップルiPhone、グーグルの携帯OS「アンドロイド」搭載端末について

(2009年12月3日収録)


【ビジネスポッドキャスト番組「ロングインタヴューズ」CDプレゼントのお知らせ】

■これまで収録した対談の中から下記の3本をピックアップして、CD3枚組みの形で、
 抽選で5名の方にプレゼントするという企画を実施中です。

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)---永江朗
 常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html

▼森谷正規(技術評論家)---永江朗
 「戦略の失敗」から学ぶ日本製造業の経営 
http://mediasabor.jp/2009/12/podcast.html

▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)
   ---河尻亨一
 増殖する「シンプル族」のライフスタイルと消費性向
http://mediasabor.jp/2010/01/post_740.html


応募締め切りは1月31日、当選者数は5名です。
応募方法は、オトバンクのオーディオブック配信サイト
「Febe」内の下記「ロングインタヴューズ」のページに
応募フォームへのリンクがありますので、必要事項を入力して
応募してください。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


■ 下記は株式会社インプレスジャパンとのタイアップCD贈呈企画です。

「ロングインタヴューズ」の対談から日本を代表する
クリエイティブディレクター 伊藤直樹氏と、元「広告批評」編集長
河尻亨一氏による対談の収録CDを抽選で3名にプレゼント!
応募締め切りは1月27日

テーマ:「インテグレーテッド・キャンペーン」で「グルーヴ」を起こす

本対談は、伊藤直樹氏を特徴づけているインタラクティブ(相互のやりとり)、
デジタルメディアを強く意識した「インテグレーテッド・キャンペーン」の
組み立て方や考え方を自身の言葉で語った貴重な内容となっています。

応募はインプレスジャパンの下記サイトからお願いいたします。
http://www.impressjapan.jp/readers/2010/01/3-6.html

 

<2010年2月以降配信予定の対談>

▼宮永博史(東京理科大学MOT(技術経営)大学院教授)
   ---本田雅一(テクニカルジャーナリスト)

▼櫻井孝昌(コンテンツメディアプロデューサー、
  「カワイイ大使」アドバイザー、外務省 アニメ文化外交に関する
  有識者会議委員)
   ---宮田理江(ファッション・ジャーナリスト)

▼神保哲夫(日本ビデオニュース株式会社 代表取締役、
  ニュース専門インターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」運営)
  ---永江朗


<2010年1月配信の対談>

▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)
   ---河尻亨一
 増殖する「シンプル族」のライフスタイルと消費性向
http://mediasabor.jp/2010/01/post_740.html

▼夏野剛(慶應義塾大学  政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ---本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
 ビジネスイノベーターの流儀


<2009年12月配信の対談>

▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗
 「仕事で重要なのは情報と人脈の活かし方」
http://mediasabor.jp/2009/12/post_732.html 

▼森谷正規(技術評論家)─永江朗
 「戦略の失敗」から学ぶ日本製造業の経営 
http://mediasabor.jp/2009/12/podcast.html


<2009年10から11月公開の対談ラインナップ>

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(株式会社インフォバーン CEO)─井上トシユキ
 (出版・新聞のネオビジネスは業界の外から勃興する)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_719.html

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
 (常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html 

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
 (「インテグレーテッド・キャンペーン」で「グルーヴ」を起こす)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_723.html

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
 (創造と依存をバランスさせて「仕組み」を活かせ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_724.html

音源サンプルをオトバンクの下記サイトにて聴取することができます。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/talk01.html

会員登録はオトバンクの下記サイトからおすすみください。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html

 

 

 

 


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