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リオ州デジタル化計画でファベーラに無料無線インターネット

ブラジルのインターネット人口は年々急増している。IBEGによると2009年、インターネットにアクセスする家庭は全体の23,8%。2007年から、家庭でのインターネット使用率は約20%の割合で急増している。

とはいえ、インターネットを家庭で利用するのはまだまだ中流階級層が中心で、低所得層には行き届いていないのが現実だ。ブラジルは世界でも有数の格差社会だが、それはデジタル格差にも確実につながっているのだ。

そんな中、リオデジャネイロの科学技術委員会(Secretaria estadual  de ciencia e tecnologia)は、インターネットを「知識の民主化のための重要なツール」と位置づける。「リオ州デジタル化計画(Rio Estado Digital)」が始まったのは2009年3月。無料のコードレス・インターネット・ネットワークシステムを提供するサービスだ。

まずサンタ・マルタとシダージ・ド・デウス(映画「シティ・オブ・ゴッド」の舞台になった場所)の2つのファベーラにシステムを確立。その後6つのファベーラのデジタル化プロジェクトが進められてきた。2010年前半には、2009年末に警察が麻薬組織を追放したばかりのpavap、pavaozinho、そしてブラジル最大のファベーラ、ホッシーニャで実現される予定だ。目標は2010年以内に、リオデジャネイロの貧困層コミュニティー全ての地域に、無料ワイヤレスインターネットを提供することだとか。「4500万レアルの投資になります。しかしその後は月額5万レアルで維持できるのです。」と州政府関係者はいう。

元々ファべーラの住民の多くはインターネットカフェを利用してきた。自分のコンピューターを持っている場合は、「Gatonet」と呼ばれる裏システムで使用するケースが主だ。これは、大人数でインターネットの配線を共有する方法で、参加者は「Contribuia」と呼ばれる。ネットの契約料を共有者で分配するため一人当たりの月額は30レアルほどだという。最低賃金510レアルの現在、このサービスの導入により、ネット接続費、また一時間1,2レアルといわれるネットカフェ代を支払う必要がなくなったことは大きい。人々は、メール、就職活動、支払い、調査、友人との会話にインターネットを使用するという。

サンタ・マルタは、リオでは比較的小さなファベーラで、2008年にリオ州政府が行った、ファベーラからの麻薬組織追放政策の先頭をきった場所でもある。以前は、所々に駐在する軍警察が治安を維持するため銃撃戦が頻発していたが、今日、麻薬組織は存在せず、その心配はなくなった。無料ケーブルカーは、2009年のマドンナ訪問で有名になったし、階段や、土砂崩れなどの危険がある住宅は舗装された。とはいえ、いったんサンタ・マルタに足を踏み入れると、住宅の整備がまだまだ行き渡っていない様子が目に入る。肩を寄せ合うようにひしめき合う家々の姿は、マイケル・ジャクソンの「They Don't Care About Us」のビデオクリップの中の映像とさほど変わりはない。

そんな中、2009年3月より、サンタ・マルタの人々は、コミュニティー内のどこででもインターネットに繋ぐことができるようになった。サービス開始時期には最大で800のコンピューターが、インターネットに接続されたという。サンタ・マルタのWiFiのコンピューター使用可能最大数は2000台で、今後さらにコンピューターの数は増えるとしている。最大の問題はアンテナが届かない地域があること。また州政府主導でインターネット講座を開いてほしいとの声も聞こえる。

リオデジャネイロでは、治安問題の解決に向けて、ファベーラから麻薬組織を追放する動き、また様々な社会プロジェクトが次々に進められている。とはいえ、住宅や教育問題など、課題は依然山積みである。設備されていない住宅で、WiFiを使用する住民の様子は、プロジェクトを性急に推し進めた結果を出そうとするリオ州政府の姿のようでもある。外部アピールだけでなく、国際イベント以降も継続するプロジェクトとしてすすめてほしい、というのは住民の共通の声である。

 

【編集部ピックアップ関連情報】

○三上のブログ 「楮佐古さんのファベーラ取材記」2009/03/04
 移民二世のミエコさんにとっても、また表向きは自らの意志で日本を
 飛び出した楮佐古さんにとっても、ファベーラの人々の生活は
 他人事ではない。ブラジル国内で国家から見捨てられたも同然の人々、
 行政の手のまったく届かないところで国民としての最低限の生活さえ
 保障されずに生きざるをえない人々の姿は、明日のわが身かもしれない
 というだけでなく、そもそもミエコさんと楮佐古さんは共にすでに
 深い意味では日本から追い出された日本人でもあるからだ。
 そして今や日本国内は、自殺者を含めて、各種の難民、棄民が
 急増している。私にとっても他人事でない。
http://d.hatena.ne.jp/elmikamino/20090304/p1



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