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税引き上げ、不況にも負けず、フィンランド産ビール売上増加。裏側にある社会問題

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同じく国産ビールの売り上げについて報じられた
2月26日付のケスキ・ウウシマア紙

  2月26日付のヘルシンギンサノマット紙(ウェブ版)によると、フィンランドでは2009年にアルコール税※が10%も引き上げられたにも関わらず、国産ビールの売上高が2008年と比べて160万リットルも伸びていた。

 フィンランドのビール・清涼飲料連盟によれば、2009年のフィンランド国内におけるビールの総売り上げは4億1900万リットル。しかしこの数字には、フィンランド人が旅先のフィンランド国外からフィンランド産のアルコール飲料を逆輸入した分が含まれていない。

 2008年の上四半期からすでに、フィンランド人旅行者によるフィンランド産アルコール飲料の個人輸入は2007年比で10%増を記録し、そのまま晩春、夏にかけて増加傾向が続いた。旅行者のほとんどが目指すのは、エストニア。フィンランドとエストニアを結ぶフェリーやジェット船の本数も大幅に伸びた。エストニアでは、安いアルコールを求めて南下してくるフィンランド人のことを「ポロ(となかい)」と親しみをこめて(?)呼んでいるそうだ。

 その一方で、2009年に入ってこの旅行者による逆輸入が20%も増加したせいで、フィンランド国内での国産アルコール飲料の売り上げが0.8%も減少した。2009年のアルコール税の引き上げには、6500万ユーロの歳入の増加と国民をアルコールの害から保護する目的があったのだが、税の引き上げにより、全体的なアルコール飲料の消費量が2%減少したものの、前述の逆輸入により、国が年間2億ユーロの損失を被ることになってしまった。

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330ml入りの瓶が6本で8から9ユーロ。
アルコール税+22%の付加価値税込み。

 フィンランド国立健康福祉機関の年鑑によれば、2008年のフィンランド人一人当たりの平均アルコール消費量(アルコール度100%換算)は10.4リットルで、ピークの2007年よりは0.1リットル下回った。それでも同年には、例年トップのデンマークを押しのけてフィンランドが、国民一人当たりのアルコール消費量で北欧5カ国中のナンバーワンに輝いた。広げて欧州の中でのランキングを見ると、フィンランドのアルコール消費量は、中の上ぐらい、フランス、チェコ、アイルランド、ハンガリーなどの国々と同等の飲みっぷりだ。しかしながら、他の北欧3カ国では、国民一人当たりのアルコール消費量は10リットル以下に留まっており、健康面から考えたところで、このナンバーワンはあまりカッコ良いものとしては見られていない。

 さらにしつこく、前述の一人当たりアルコール消費量を15歳以上に限定して計算し直すと、年間消費量は12.5リットル。純度100%のアルコールを1カ月で約1リットル、1日に約0.3デシリットル……でも、さすがに100%をそのまま飲むわけにもいかないので、5%ぐらいのビールに置き換えると、1カ月で20リットル、1日に約6デシリットル……つまりコップ2、3杯分ぐらいの量に相当する。日本のサラリーマンの晩酌にしてみてもかわいいくらいの量に思えるのだが、こんなふうに、いわゆる晩酌のような形で毎日少しずつ飲むフィンランド人は皆無に等しい。毎日ちびちび飲むぐらいなら週末にまとめてドーンと飲むのがフィンランド流なのだ。「飲むからには酔う!」ことが目的なのであり、目的が達成されるまで、飲みは終わらない。

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500ml入りの缶が24本入りの箱だと21から27ユーロ(税込)。
飲兵衛の人には黄色い熊がトレードマークの
KARHU(カルフ)好きが多いが、味も軽さも日本人好み
と言われているのは、左から二番目の青い箱の
LAPINKULTA(ラッピンクルタ)。



 このように、一見、売り上げが伸び続けているのは良いニュースのようだが、その報じられ方からして、フィンランド人にとっては決してポジティブな話ではない。その理由の第一は、フィンランド国内での働き盛りの男女の死因の一番がアルコールの過剰摂取による疾患及び事故であること。そして第二は、高負担で高福祉を賄っているこの国では、優秀な働き盛りの納税者達をアルコールの害から守ることは国を挙げての最重要課題なのだ。

 先の国立健康福祉機関のレポートにおいても、このアルコールが原因の疾患と急性アルコール中毒による死が働き盛りの男女の間で増加傾向にあることが強く指摘されている。2004年に大幅にアルコール税を引き下げてから、この傾向はさらに強まった。今のところ、アルコール消費量は女性と年金生活者の間で増加傾向にあり、ここ数年に渡ってのアルコールSTOPキャンペーンが効いているのか若者達の間では減少してきている。と同時に、この不況により、国民の購買力が減少し、失業者が増えたことでまたアルコール消費量が減少することも予測されている。

 売上が上がっても、国全体が損をしてしまった……となると、さらにSTOP逆輸入キャンペーンでもしてアルコール税を引き下げ、国内での健全な流通を目指すのが正しそうな道だと考えるが、それにしても、べろんべろんに酔うまで飲む、このフィンランド流の飲み方はどうにかならないものか。酔っぱらって悪いとは言わないけれど、酒の肴やおつまみも無しに中ジョッキ7杯分相当を飲み続けたらいい加減、口の中が気持ち悪く感じないものだろうか。さらに、それだけ飲んでもトイレに中座する回数が日本人と比べて極端に少ないのにもまた、飲める体質って罪……に思えてしまうものである。

※アルコール税はアルコール飲料に含有されるアルコール濃度に応じて課税。例えば、アルコール分0.5から2.8%のビールに対してはアルコール1センチリットル当たり2セント(0.02ユーロ)、2.8%以上のビールにおいては2.14セントと規定されている。

 


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