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どん底からの復活探る百貨店の新機軸

 百貨店がどん底からの復活にチャレンジしている。若い女性向けの低価格カジュアルを導入したり、強敵のはずのファストファッションと手を握ったりと、戦略はまちまちだが、落ち込む集客を回復させようと、懸命の取り組みが続く。とりわけ、売り場面積が5割増となる大阪市では生き残りをかけた知恵比べが始まっている。百貨店は再び「小売りの王者」として輝くのだろうか。

 百貨店不況が続く中、大阪市では百貨店の増床・オープンが相次ぐ。高島屋は3月、大阪店を増床オープンした。約4年間にわたった工事を終え、これまでの約1.4倍に売り場面積を広げた。目玉フロアは10代後半から20代前半の女性をターゲットに据えたファッション売り場「gokai(ゴカイ)」。これまでの百貨店婦人服売り場に比べて価格帯を低めに設定し、東京・渋谷のファッションビル「渋谷109」の顧客層とクロスオーバーさせた。

 20代前半の女性向けファッションを前面に押し出した百貨店の例には、2009年秋に開業した大丸心斎橋店北館の「うふふガールズ」という成功例がある。こちらも「109」と顧客層が重なるショップを集め、従来よりも低価格のファッションを提案した。地下1、2階に若い女性向けのファッション売り場を設けるのも、「デパ地下=食品」というセオリーを覆すアイデアだった。高島屋の「gokai」は文字通り、5階にある。

 大阪都心部には2011年春、JR大阪駅北側に「JR大阪三越伊勢丹」が開業する。同じ来春には大丸梅田店が大阪駅南側で増床開業する予定もあり、大阪は百貨店戦争が一気に激化すると見られている。2014年には近鉄百貨店阿倍野店が国内最大の売り場面積に増床する計画。阪急百貨店梅田本店も増床プロジェクトが進行中だ。一連の増床・オープンが済めば、売り場面積が1.5倍にも広がるという。

 その大阪にファストファッションの脅威が襲いかかる。ファストファッションの代表的ショップとされるスウェーデンのカジュアル衣料店「ヘネス・アンド・モーリッツ(H&M)」は3月6日、西日本では初の戎橋店を大阪市内にオープンした。近くには既にスペインの「ZARA(ザラ)」や「ユニクロ」がある上、「ユニクロ」の新店舗も計画されていて、東京を席巻したファストファッション旋風が大阪でも本格的に百貨店の牙城を脅かしそうだ。

 百貨店の足場をぐらつかせるのは、ファストファッションばかりではない。米国のスペシャリティストア「バーニーズ ニューヨーク」は3月、西日本初となる神戸店を開き、関西に地盤を築いた。地下1階から地上2階の3フロア構成だが、ゆったりした設計と豪奢な内装は、趣味のいい大人が夫婦で買い物を楽しむのにちょうどいい広さで、関西の百貨店からハイエンドの消費を演出させると見える。バーニーズ側の目利きでブランド横断的に売り場がレイアウトされているので、好みの商品を比較・検討しやすい点も関西の消費者には目新しく映るだろう。

 逆に、百貨店がファストファッションと融合する動きも出始めた。松坂屋の銀座店(東京都)には4月、米国のファストファッション「フォーエバー21」が出店する。東京・原宿に構えた日本第1号店は圧倒的な低価格と西海岸流の明るい色使いで今もにぎわいが続く。百貨店へ「フォーエバー21」が出店するのは今回が初めてで、百貨店が「天敵」のファストファッションを迎え入れる動きとして注目を集めている。

 もっとも、百貨店が低価格カジュアルウエアと組むのは、これが初めてではない。ユニクロは松屋浅草店、東武百貨店池袋本店(ともに東京都)などに入っている。高島屋の主力店舗の新宿店(東京都)への出店も取り沙汰されている。「ザラ」は3月、東武百貨店池袋本店(東京都)内にショップを開いた。

 高級ブランドに強みを持つ百貨店は高額品消費の落ち込みで打撃を受けた。高額消費が戻らないと見切った百貨店側は低価格商品の強化やカジュアルファッションの導入で、比較的若い層の集客に懸命だ。しかし、価格帯の違いから、来店客数と売上のバランスは従来通りとはいかず、地価・人件費の高い百貨店業態は変革が求められそうだ。

 ニューヨークの五番街は高級百貨店が軒を連ねる、世界有数のショッピングエリア。その一角を成す「ヘンリ・ベンデル(Henri Bendel)」は白と黒のストライプで知られる老舗デパート。ハイファッションを扱うことでも有名だったが、最近は大胆にアクセサリー、ジュエリーにシフトしている。売り場の半分以上をアクセサリー、ジュエリーに割き、アパレルよりも装飾品を優先する消費者の気分を取り込んだ格好だ。

 同じ売り場面積に並べることのできる商品数はアパレルよりも小物や雑貨、アクセサリー、ジュエリーの方が多い。百貨店という業態では珍しいこういったダイナミックな売り場戦略の見直しが欧米の百貨店で静かに始まっている。

 そごう・西武の百貨店「西武有楽町店」(東京都)の閉鎖という発表は象徴的な出来事だった。東京都心の大型百貨店としては名の通った店舗だけに、「ここまで来たか」を実感させた。

 国内百貨店は閉店ラッシュが止まらない。伊勢丹吉祥寺店(東京都)は3月14日で閉店した。地域の顔的存在だった百貨店も撤退を余儀なくされていて、四条河原町阪急(京都市)や松坂屋名古屋駅前店(名古屋市)も閉店が決まった。

 閉店しないで売り場や商品カテゴリーを絞る試みも出始めた。松屋は浅草店(東京都)を縮小する。地上4階から上の売り場から撤退し、食品に寄せた約4割の面積に集約する計画だ。百貨店の看板は下ろさないものの、実質的に「五十貨店」に縮める動きと言える。

 テナント戦略も店舗の立地条件や顧客層次第で違いが出てきた。富裕層の顧客を多く抱える玉川高島屋(東京都)はロサンゼルス発のセレクトショップ「ロンハーマン(RonHerman)」の日本第2号店を迎えた。ハリウッドセレブリティに愛されてきたスペシャリティストアで、セレクトショップの先駆けとして伝説的な存在だ。本家のオーナー自身が二子玉川の地にカリフォルニアと同じ空気を感じたのが、出店のきっかけになったという。低価格路線に振れる多くの百貨店とは真逆のアッパー志向は、かえって地元のお得意様をガッチリつかんでいる玉川高島屋の自信をうかがわせる。

 単純に低価格アパレルを分厚くして、ファストファッションへ流れる客を呼び戻そうとするのは、百貨店の高級感を犠牲にしかねない上、売上面でも高額品に比べて効果が疑問視される。娘をフックに、母親も呼び込む「母娘作戦」も見え隠れするが、カジュアルウエアの場合、娘1人で買いに来る傾向もあり、2世代消費につながる効果ははっきり見えてこない。

 他方、小田急百貨店や京王百貨店(ともに東京都)の新宿店に見られるような、最先端過ぎない落ち着いたファッションが中高年の安定した支持を受けている現象もあり、一概にトップモードを追ったり、若い女性をターゲットにするのが商売上の「正解」とばかりは言いにくい。ただ、過去のように有名ブランドショップを誘致すれば、そのまま売上が伸びるという単純な手法はもう頼りにできなくなっている。ファストファッションの浸透や、消費の手控え気分を受けて、消費者のマインドがこれまで以上に細かく枝分かれする中、「有力ショップへのスペース貸し」では立ちゆかなくなった百貨店は、「この店で買う理由」という、どこの売り場にも並んでいない商品を自ら探す羽目になったようだ。



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<3月配信の対談 2本>

▼ゲスト:竹内謙礼(有限会社いろは 代表取締役)
      ×インタビュアー:主藤孝司(株式会社 パスメディア 代表)
 テーマ:過去の成功方程式は通用しない!中小企業のためのネット通販戦略
               (放送時間:101分)

<対話項目>

◎出版社の編集者から転職し、観光牧場「成田ゆめ牧場」勤務へ
◎ゼロからネットショップを立ち上げ、楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤー
  「ベスト店長賞」を受賞するまで
◎コンサルタントとして独立に踏み切った経緯
◎コンサルタントとしてのビジネスが安定し始めたターニングポイント
◎2000年前後のインターネット普及黎明期から激変している現在の
  ネットビジネスを取り巻く環境(過去の成功方程式が通用しなくなっている現実)
◎楽天市場のプラットホームを利用するリスクとメリット
◎ネット上で効果を出すことが困難になっている販促手法
  (検索エンジン対策(SEO)、ブログ、メールマガジンなど)
◎ネットで売れるもの、「売れる商品」の条件、集客しやすい商品
◎ネットで売りにくいもの、集客しにくい商品
◎マスメディアのネットビジネス喧伝に惑わされる危険性への警鐘
◎情報商材販売の動向。知識・情報をビジネス化するための方法論。
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◎デフレ時代のキャッチコピーの作り方
◎実店舗とネットショップのキャッチコピー作りの違い
◎「上手な文章」と「売れる文章」は何が違うのか
◎キャッチコピー作りの基本は「強い言葉探し」
◎良いキャッチコピーのひらめきは「センス」ではなく「方法」。
  キャッチコピー作りの公式、コツ
◎検索連動型キーワード広告を取り巻く情勢
◎人類史上初の「プル型広告」の特性
◎検索連動型キーワード広告の運用がうまくいかない理由
◎Yahoo!リスティング広告とグーグル・アドワーズ広告
◎検索連動型キーワード広告文と通常のキャッチコピーの違い
◎検索キーワードの「親キーワード」「ものさしキーワード」とは
◎広告代理店に検索連動型キーワード広告の運用を任せてしまうリスク
◎資金力に乏しい企業はネット通販に深入りしてはいけない!


 ◆過去の対談ラインナップ、会員登録など、番組の詳細な案内は
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▼ゲスト:神保哲生(ニュース専門インターネット放送局「ビデオニュース・ドットコム」代表)
      ×インタビュアー:永江朗
 テーマ:広告に依存しない「ビデオニュース・ドットコム」激闘の軌跡
         http://mediasabor.jp/2010/03/post_763.html(放送時間:86分)

<対話項目>

◎米国留学の経緯
◎日米でのジャーナリズム教育の違い
◎ビデオジャーナリズムへの目覚め
◎映像ジャーナリズムとしてのCNNの台頭
◎日本に活動の拠点を移すことになった理由
◎チーム分業制のマスメディア映像制作とビデオジャーナリストの
  映像制作の違い
◎ビデオジャーナリズムの要諦
◎2008年秋葉原殺傷事件において、通行人撮影映像をマスメディアが
  採用したことを「報道機関の自殺行為」と発言した真意
◎ネット時代における情報ビジネスの行方
◎「ビデオニュース・ドットコム」前身時代のビジネス形態
◎2000年頃の有料放送ビジネスの状況
◎「ビデオニュース・ドットコム」立ち上げにあたってニュースという
  情報ジャンルを選択した理由
◎ビジネスの観点から考えるマスメディアとネットメディア
◎「ビデオニュース・ドットコム」の番組づくりの特徴と差別化戦略
◎有料会員獲得の推移とPR、広告の手法
◎メディアの変遷から考えるオルタナティヴ・メディア台頭の可能性
◎公共的ジャーナリズム衰退で懸念されること
◎これからの「ビデオニュース・ドットコム」が目指す方向性


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