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常識破りのロック・ミュージカル「GENERATIONS」

  • MediaSabor

2月18日ロック・ミュージカル「GENERATIONS」の千秋楽公演を天王洲 銀河劇場に見に行った。

有限会社オン・タイムの初見 正弘氏プロデュースによる舞台だ。

「1969年、ウッドストック・フェスティバルに40万人の若者が集まり、愛と平和を歌った。アポロ11号人類初の月面着陸で未来に夢を抱いた。そして70年代。ベトナム戦争に反戦を叫んだ。ヒッピーが自由を求めた。」 という告知冒頭の文章を読む限りでは、70年代のロック・ミュージックをガンガンに歌ってくれるミュージカルなのか、と勘違いしてしまう。

実際は、ロック・ソウルフルな70年代のミュージカルナンバーを中心に構成されているステージである。

第1部は70's Rock&Soul Musical CHOICEで伝説のロックミュージカル 「ヘアー」より『Aquarius』『Let the Sunshine In』 「ジーザス・クライスト・スーパースター」より『Superstar』等

第2部は70年代のもうひとつの名作「ゴッドスペル」から名曲の数々。 『Day by Day』『Save the People』『Prepare Ye』『All for the Best』等

ミュージカルというよりは、ライブといったほうが適切かもしれない。

主な出演者は声優・歌手・俳優など幅広く活躍している石原 慎一、声優 野沢 那智の長男でミュージカル俳優の野沢 聡、アニメソングの歌い手としても知られる山形ユキオ、「レ・ミゼラブル」でマリウス役、「ミス・サイゴン」でクリス役を演じた宮川 浩、「レ・ミゼラブル」ではコゼット役(87年から)とファンテーヌ役(97年から)を演じた鈴木 ほのか、アニメ『エヴァンゲリオン』のテーマ曲「残酷な天使のテーゼ」を歌い、話題を呼んだ高橋 洋子、アーティストのTina、劇団「四季」への在籍経験があり、現在はシャンソン、カンツォーネを中心としたライブ活動、スタジオボーカリスト、ミュージカル出演をこなす花木佐千子、しばらく歌うことを休んでいたマミ改め中山眞美らである。

バンドは「Fankastic」でアルトサックス、テナーサックス、トランペットのホーンセクション、ドラム、ギター、ベース、キーボード、ピアノの布陣である。

十数名の俳優、アーティストが、ソロ、デュエット、集合体などに変化しながらロック・ミュージカルナンバーを歌い上げていく。

そして、画期的な試みとして、ステージで一緒に歌ってみたい、と思うお客様のために舞台の右サイドに十数名規模の席が用意された。事前に一般公募で申し込みのあったお客様を、舞台の始まりからステージ上にあげ、歌わせるだけでなく、出演俳優とともに踊りのパフォーマンスも見せるものだ。

これは、「オーディエンス参加型ライブ」とでもいうのだろうか。 アマチュアを舞台に参加させるのは、リスクが大きい。俳優のパフォーマンスが台無しになってしまう恐れがあるからだ。そうした懸念はあるものの、わずかなリハーサル時間で一体感を醸し出す演出が施されていたのは驚きである。

プロの俳優陣の歌唱力もしっかりしていて、安定感がある。

過去の音楽を題材としたミュージカルは、最近、日本での上演が増えており、ビリー・ジョエルの楽曲で構成された「ムーヴィンアウト」、クィーンの楽曲で構成された「WE WILL ROCK YOU」、アバの楽曲で構成された「マンマ・ミーア!」などの成功が記憶に新しい。

中高年にとっては、郷愁を誘われ、20代以下の年代の人には新鮮味がある。ミュージカルファンでなくても、感情移入しやすいなど、新たな客層開拓にはもってこいのコンテンツである。

「GENERATIONS」のように踊りや物語に重きを置かない歌重視の構成であれば、歌唱力のあるメンバーさえ揃えてしまえば舞台そのものは作りやすい。 それだけに、選曲、構成、演出、クライマックスの畳みかけ方などに、よりいっそうの工夫やアイデアが要求されるのだ。

「GENERATIONS」の正味の演奏時間は1時間40分であるのに比して、MCや出演者の「しゃべり」の部分が20分と、やや長い。 観客の多くは、もっと、多くの曲を聴きたかったという物足りなさを感じたのではないか。多数の演者が出演する舞台であれば、なおさらである。

メドレーを随所に盛り込み、クライマックスでは名曲を立て続けに、壮大に奏でるような演出が欲しかった。

前日の2月17日にさいたまスーパーアリーナで行われた「ステイービー・ワンダー」の3年振りの来日コンサートでは、スティービーが休憩なしで2時間、ほぼ、ぶっ続けで歌いあげるという圧巻のパフォーマンスであった。 これが、本当に盲目の障害者なのかと、疑わずにいられないほどだ。

演者がこれ以上はできない、という極限のパフォーマンスを繰り広げるのを見て観客は心を打たれる。それは、テクニックや表現力などというものを超越した何かだ。

俳優の才能や努力もさることながら、それを引き出す演出家の役割もさらに重要な意味を持つ。

「GENERATIONS」の完成度は、まだまだ中途半端であるが、大きな可能性を感じさせるステージであったことは間違いない。 これを基本パターンとして、さらに、文字通りのロックやモータウンサウンド、ブラックミュージック(ソウル)、ディスコサウンドなどへと企画をパワーアップしていくことも可能である。

新たな企画にチャレンジし、夢を与えてくれたプロデューサー 初見氏に感謝したい。 7月に再演が予定されているそうだ。


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