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櫻井孝昌×宮田理江 対談 世界を回って肌で感じた日本人が知らない「アニメ」「カワイイ」カルチャーの浸透度

  • MediaSabor 編集部

メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 第12回目の対談企画。
■ゲスト:櫻井孝昌  インタビュアー:宮田理江(ファッション・ジャーナリスト)
テーマ: 世界を回って肌で感じた日本人が知らない「アニメ」「カワイイ」カルチャーの浸透度
         

クールジャパン(CoolJapan)などといわれ、日本の文化面でのソフト領域が国際的に評価されている現象は、かなり以前から伝えられ、周知のこととなっていますが、実際に海外のイベントや流通シーン、現地の人とのふれあいの中で直に感じ取ったことがある日本人は少ないのではないでしょうか。今や日本のアニメやマンガに限らず、日本の食、ファッション、言語、伝統文化などの分野にまで、海外での関心領域が広がっていますが、当の日本人は意外とその実態を知りません。大規模な集客を誇る海外での日本イベントは、世界各地で開催されていますが、一部の国のイベントを除き日本からの出展は少なく、ビジネスチャンスを逃していると櫻井氏は考えています。不況脱出の鍵のひとつは、この世界での日本文化の愛され方を、あらためて考え、知り、行動することにあるようです。


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<櫻井孝昌>プロフィール
1965年 東京生まれ。 早稲田大学政治経済学部卒業後、出版社にて書籍編集に携わる。 その後、数多くのウェブやモバイルサイトの企画、プロデュース、ディレクション、あるいはアーティストや 映画監督、ビジネスリーダーと組んだイベントのプロデュース、モデレーターの実績も多い。 現在、企業や官公庁の事業企画、イベントプロデュースなどと並んで、世界における日本アニメや ファッションの立ち位置や外交上の意義について研究。 世界各地で、講演やイベント企画といった「ポップカルチャー外交」活動を推進。 外務省のポップカルチャー全般に関するアドバイザーも務める。 著書に「アニメ文化外交」「世界カワイイ革命」がある。
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対談音源の一部を下記オトバンクのサイトにて聴くことができます。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/talk01.html#no11

音源本編から、その一部を切り取った記事を下記に掲載いたします。


(宮田)
───外務省のポップカルチャー外交のお手伝いをされているということですが、いきさつはどういったことだったんでしょうか。

(櫻井)
日本にいると、あまり見えないんですが、世界的には1万人以上集まる日本イベントがたくさんあり、珍しくも何ともないんですよ。最も有名なのが、フランスのジャパン・エキスポで16万人規模の集客実績があります。そのほか、スペイン バルセロナのサロン・デル・マンガが7万人とか、イタリア ローマのロミックスが7万人といった大きな規模のイベントがあります。

そうすると、現場の外交官は、いかにポップカルチャーを日本の外交手段として、現地の人たちとコミュニケーションしていくかの大事さに、皆気づいているんですね。ただ、それをどう活かしていくかについて、2年くらい前までは、わかっていなかったんです。そうした中で、海外に赴任する前の外交官研修で、ポップカルチャー特にアニメ業界について教えてほしいというオファーがあったんです。それで、アニメをテーマにした話をしたのですが、それを、さらにヨーロッパに行って話してきてほしいと、外務省の方で見初めてくれた人がいまして、海外でも講演をする機会を持つことができました。その経験を通じて、外交というのは、何も霞ヶ関や政治家だけが行うものではないんだなという認識を新たにし、自分自身のライフワークの一つにしていこうということになったのです。

(宮田)
───日本にいると気づかないけれど、海外に行って日本カルチャーの広がりを感じることがありますよね。

(櫻井)
日本が世界に愛されているということを、ほとんどの日本人は気づいていないという現状があります。

(宮田)
───それは、もったいないですね。

(櫻井)
外交という視点から入って、色々な切り口で日本の文化を海外に紹介していくということが、当初の目的だったのですが、最近やっていることは、どちらかというと日本人に対して、日本がこんなに世界に愛されているんだということを伝えることも含まれてきています。現在、経済情勢の悪化で閉塞感が漂い、右を見ても左を見てもいい話を聞かない、といった状況にあります。でも、内向きになっていたのでは、なかなか物事を打開していくことはできないと思うんです。その一方で、世界では、本当に日本が好きだという人が山ほど存在していて、そこに、私はズレとギャップを感じていて、不況脱出の一つの糸口になるものだと感じています。

(宮田)
───文化外交の目的と、これまでの日本の文化外交が主にどんな文化を柱にしてきたかについて教えてください。

(櫻井)
文化外交というのは、自国を好きになってもらうための一つの方法です。外交の根本は、国民の安全ということがありますが、そのために大事なことは平たく言えば、たくさんある国々と仲良くするということです。それには、自分の国をよく知ってもらうという働きかけが必要になります。これまでの日本の文化外交で、主に使われてきたものは伝統芸能です。私自身、伝統芸能は好きなのですが、それだけだと日本の一部でしかないんです。今、海外の若者が日本について異口同音にいうことは、「古い伝統と新しいポップの両方を持っている」ということなんです。

従来、霞ヶ関でいわれてきたことは、アニメやマンガを好きな海外の人は、コンテンツそのものが好きなだけで、日本のことが好きなわけではない、ということでした。私は、この2年間の海外での経験を通じて、これが間違いだということがよくわかりました。だから、伝統芸能とポップカルチャーの普及活動というのは、二律背反するものではないんです。日本を知ってもらう入口としてポップカルチャーは、とても大事です。なぜかというと、そこで日本に興味を持ってもらうことによって、日本文化全体への興味、関心に繋がっていくからです。たとえば、「NARUTO」に将棋を指すキャラクターが登場することで、将棋を始めたという海外の若者には、たくさん出会いました。

(宮田)
───櫻井さんのアニメ外交活動についてお聞きします。日本のアニメやマンガなどのポップカルチャーの海外における広がり、イベントの様子、エピソードなどについて具体的な国を挙げて説明していただけますか。

(櫻井)
まず、日本のアニメの普及ということについていえば、ある特定の国で起きている現象ではなく、全世界的な広がりだということです。私がこの道を歩んできて、いくつかポイントになった国々がありますが、最初にアニメ文化外交で訪問した国はチェコとイタリアでした。イタリアでは大学生の前で講演したのですが、学生に対して「日本のアニメは好きですか?」と質問したんですね。そうしたら、「何をそんな質問してるんですか? 僕たちは日本のアニメで育っているんですよ。そんな社交辞令はいりません」といきなり突っ込まれました。その体験は大きかったです。

海外に行くと海外のメディアから取材を受けることも多いのですが、最近多い質問に、「日本のアニメやマンガは、我々の国の若者の人生観や恋愛観など、色々な考え方に多大な影響を与えているが、そのことを日本人は知っているのか?」という内容があります。
要は日本のポップカルチャーが広がっていることは、すでに前提としてあるわけです。メディアの方々は、勘のいい人が多いので、海外での日本文化の広がりに関しては海外の若者を中心とした自発的情報収集の行動から起こっている現象であり、日本側から働きかけて生じたものではない、それを当の日本人は知らないということに、薄々気づいているんです。だから、そのことについて、多くの質問を受けます。

その次に大きなポイントはサウジアラビアでした。サウジアラビアというと日本では原油産出国というくらいのイメージが浮かぶ程度だと思います。実際、私もそのような認識で訪問しました。サウジアラビアは宗教上、男女の分離に厳しい国で、私の講演は、女性の方々は直にではなくスクリーンで見てもらう形だったんです。それで、たとえば、「こんなアニメが世界で流行っているんですよ。──『ONE PIECE(ワンピース)』」と言った瞬間に、隣の女性の部屋から悲鳴が聞こえるんです。「NARUTO」と言ったときは、壁が破れるかと思ったくらいの声が響きました。「フルメタル アルケミスト(鋼の錬金術師)」と言ったら、「エドワード!」とか「アルフォンス!」といった叫び声が聞こえてくるんですよ。講演前まで、そこまで浸透しているというような情報は全く聞いてなく、外務省の方も把握していませんでした。同様のことはミャンマーでも感じましたし、まさに世界的な広がりだということを目の当たりにした経験でした。

(宮田)
───日本のアニメは、米国と異なり、最初からグローバルな展開を意図したものではない作品が主体ですが、現在のような世界的人気となっている要因はどこにあるのでしょうか。

(櫻井)
基本的に20世紀のエンターテインメントの方程式は、米国を中心に作られたのですが、アニメーションの視聴者層は子供というのが常識でした。今でも日本人の多くの人は、そう思っていると思います。そのようなアニメ視聴者層の常識の中で、唯一、その常識を無視した作品を作っていたのが日本だったんです。

ディズニーのアニメ作品というのは、大人も楽しめる要素はありますが、基本的には子供が見るものということが大前提になっています。ところが、日本では、アニメ作品の製作については、クリエイターが作りたいものを作るというのが原動力になっています。したがって、もちろん、子供が見て楽しめるものも作られますが、子供が見ても全く理解できないアニメもあります。日本では、サラリーマンが会社の帰りに居酒屋でグチをいうような物語をアニメにすることができます。会社における権謀術数をアニメにしようなどという発想は、海外にはありませんでした。そのような日本のマンガ、アニメの大人も楽しめるストーリーの多様性が世界的人気に繋がった要因の一つです。


<対談の全体概要>
◎ 外務省のポップカルチャー外交の一員を任されるようになった経緯
◎ 文化外交の目的。これまでの日本の文化外交
◎ アニメ外交活動でのエピソード。現地の人とのふれあい、反応
◎ 日本のアニメ、マンガがハリウッドのようなグローバル戦略をとって
  いないにもかかわらず、世界的な人気を獲得できた要因
◎ アニメ文化外交の意義
◎ 日本人が知らない世界での日本ポップカルチャー人気。大規模な集客を
  実現している海外での日本イベント
◎ 大規模な集客を実現している海外での日本イベント
◎ 日本のポップカルチャーが世界に伝播した両刃の剣してのインターネット
◎ 文化外交のフィールドをファッションの分野にも広げることになった経緯
◎ 制服ファッション、ロリータ・ファッションを愛する海外の女性たち
◎ 世界共通語となった「カワイイ」という言葉
◎ 日本発ファッションの海外への広がり
◎ アニメとファッションが融合する(秋葉原と原宿の融合)海外のイベント
◎ 海外のクリエイターが注目する原宿の魅力とは
◎「カワイイ」の発信力をビジネスにどう結びつけていくか

(2010/01/18収録)

▼過去の対談ラインナップは下記サイトにて確認できます。
 ⇒ http://mediasabor.jp/interview.html


【編集部ピックアップ関連情報】

○不二草紙 本日のおススメ 2009/11/28
 『世界カワイイ革命』 櫻井孝昌 (PHP新書)
 いずれにせよ、著者の言うように、もっと我々はそうした混沌とした、多様な、
 そして自由な「日本文化」、あるいは「日本精神」というものを、積極的に
 海外にアピールし、あるいは売り込んでもいいと思います。
http://fuji-san.txt-nifty.com/osusume/2009/11/php-2019.html

 

 


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