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記事の切り売りに向かう大手サイト。広告収益モデルで気を吐くターゲットメディア

<記事要約>

「5年以内にインターネット・ユーザーは、現在無料のコンテンツにアクセスするために、お金を払わなければならなくなる。インターネットは無料の時代から、支払い方式に移行しつつあると確信している」

運営する約30のウェブサイトから年間15億米ドル以上の売り上げがあるIAC(InterActiveCorp)のCEOバリー・ディラー氏は、今週ニューヨークで行われたカンファレンス(Advertising 2.0 conference)で、そう語った。支払いモデルには、サブスクリプションや1回ごとの購入、マイクロペイメントなどが含まれるだろうという。

しかしながら、すべての人が同意しているわけではない。「たいした予測だ」と言ったのは、オーストラリア最大の独立系オンライン・パブリッシャー「サウンド・アライアンス・グループ」の経営者ニール・アクランド氏。「10年以上やってきたように、広告から収益をあげるのが我々のやり方だ。どうしてそれを変えたいだろう?」

2009/6/13  The Age(http://www.theage.com.au)より


<解説>

バリー・ディラー氏は、パラマウント・ピクチャーズ会長、FOXの初代会長などを歴任したメディア界の超大物。現在は、世界最大級のオンライン旅行サイト「Expedia」の会長も務めている。たとえ、彼の名前を知らなくても、ネット財閥と評されるIACが展開する数々のウェブサービス─たとえば、検索サイト「Ask.com」、ビジネスディレクトリ「Citysearch」、マッチングサービス「Match.com」、レストランのレビューサイト「Urbanspoon」など―をどれも知らないというアメリカ人はほとんどいないのではないだろうか?

一方のニール・アクランド氏は、ターゲットを絞り込んだニッチ領域におけるトッププレーヤーとして台頭するオーストラリアの独立系オンラインメディア、サウンド・アライアンス・グループを率いる新鋭。ダンス・ミュージック・コミュニティ「inthemix(http://www.inthemix.com.au/)」、ライヴ音楽ファンサイト「Faster Louder(http://www.fasterlouder.com.au/)」、オルタナティブ・ミュージック・マガジン「Mess+Noise(http://www.messandnoise.com/)」といった、ほかにはないユニークなコンテンツを強みにしたセグメント性の高いサイト運営を次々に成功させている。

人気サイトの維持・拡大には、インフラ面において相当のコスト負担が必要なため、アクセス数の増大も決して手放しで喜んではいられない。YouTubeの今期の赤字が1億7420万米ドル(RampRate調査)とか、4億7060万米ドル(Credit Suiss調査)とか騒がれているように、どんなに人気があって、ユーザー数やページビューが多くても大赤字、というウェブサイトはいくらでもある。

そんな中、経済危機もどこ吹く風、とばかりに、昨年後半以降もオンライン広告のセールス記録を更新し続けるのが、前述のサウンド・アライアンス・グループ。業界平均の数倍の成長率を誇り、中でもゲイ&レズビアン・ソーシャル・メディア「SameSame(http://www.samesame.com.au/)」の広告収入は、3月末時点で前年比339%増と急伸ぶりが目立っている。

アクランド氏の発言には、ゼロからブランドを立ち上げ、広告効果が高く採算の取れるビジネスモデルを構築してきたという自負が見え隠れする。だが、彼は有料コンテンツそのものに異論を唱えているわけではない。金融や投資、不動産、デートサイトといった特定分野の情報に人々が既にお金を払っていることを指摘した上で、「果たして、誰もが興味を抱く一般的な情報や巷に溢れるニュースに、お金を払うだけの価値はあるのだろうか?」と疑問を呈しているだけだ。

世界のメディア王ルパート・マードック氏は先月、「10年以内にほとんどすべての新聞はデジタル・コンテンツとして提供されるようになり、人々は情報にお金を払うようになる」と予言(?)した。傘下の一部専門紙は、既に有料オンライン・サブスクリプション・サービスを取り入れているが、今後は記事単位で少額決済を行うマイクロペイメントや、プレミアムサービスを導入すると同時に、一般紙も有料化していく方向性を示したのだ。

かつてディラー氏がFOXを去ったのは、オーナーとの衝突が原因と言われていて、そのオーナーとはほかでもないマードック氏だったけれど、それから15年以上たった今、インターネットの将来については、2人の意見が一致した格好だ。

大手サイトを中心とする有料サービスを模索する動きに対するすさまじい反発や議論がネットで巻き起こっていることはさておき、ここに来て脚光を浴びているのは、マイクロペイメント。「一曲単位で音楽を合法的にダウンロードするモデルを浸透させたiTunesは、適正価格なら、お金を払ってコンテンツを入手する層が確かにいることを示している」という主張はもっともだと思う。それをどうやってユニバーサルに行うか、というのは、まだこれから。インターネットを次の時代に進化させるための新しいアプローチや戦略の出現に期待したい。本当に有用な質の高い情報、お金を払ってでもほしいコンテンツの存在が大前提ではあるけれど。

 

【関連情報】

○IT+PLUS:  2009/05/22
  GIGAZINE「赤字でも好きだからやる」変化するニュースメディアの生態系 
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT11000021052009

○ITmedia  News  2009/05/08
  「お金払って」と呼び掛けたカフェスタ、終了へ 7年の歴史に幕
 「サービス存続のためにお金を払って」と呼び掛けていたカフェスタの終了が決まり、
  約7年の歴史に幕が下りることになった。広告収入に頼るネットコミュニティーサービス
  の難しさが改めて浮き彫りになった形だ。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0905/08/news064.html

○ダイヤモンド・オンライン 2009/02/27
  「ネットの無料モデルに“マスメディア”の未来はない」
http://diamond.jp/series/kishi/10029/

○WIRED VISION  2009/02/04
  「2009年に求められるマイクロペイメントのイノベーション」
http://wiredvision.jp/blog/yomoyomo/200902/200902041300.html

 

 


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