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仕事はどこに? 教育改革に踊らされる英国の大卒者

■大学進学率上昇のカラクリ

1992年の教育改革まで、英国の「大学」は学問を究めるための公共機関として存在し、技術や工芸など、仕事に必要な職能を学ぶ専門学校は主にポリテクニックと呼ばれていた。今では全て「大学」という名に統一され、学位の取れる課目は哲学からメークアップにまで広がっている。そのお陰で大学卒業者の数は増え続け、イギリスはEU諸国中でもっとも高等教育が普及した国の一つになった。政府は「大学進学率を水増しするために専門学校の格上げをしただけ」という批判をよそに、学位=高等教育こそは失業率解消のカギを握ると主張し続けている。


■借金抱えて職探し

その主張が試されたのは、昨年の金融危機以降だった。新卒向け求人率が前年と比べ28%も下がったのに、卒業者の数は5%増えた。イギリスの大学は9月に始まり7月に修了するが、昨年7月に卒業した30万人のうち、10万人が未だに無職だ。若者たちは今、国に「裏切られた」という思いを強く持っている。特に今年の卒業者は、ずっと無料だった大学の授業料が有料化した2006年に入学した人が多い。授業料と生活費は、親が払えないか払わない場合は学生に貸付けされるが、3年制の大学を終え数百万円の借金を背負って出て来たら仕事がない、という、お先真っ暗な状況なのだ。


■夢破れるエリート学生

学位は成功へのパスポート、と信じさせた弊害は二つの流れに見ることができる。一つはエリートコース。中流階級の子弟が金融危機の前に描いていた将来図は、新卒で金融機関に就職、1─2年のうちに「6桁給料」(年棒100,000ポンド=約千5百万円)に達し、20代の間に億単位のボーナスを獲得すること。90年代には、その筋書き通りになった若者達が一握りいた。しかし、そんな成功例に釣られ、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学んだジャマル・アフメッド君は「金融会社での無給のインターンシップでさえ、まったく見つからない」と嘆く。「学友達は就職をあきらめ、海外で英語を教えながら旅行したり。スーパーのバイトで生き延びているヤツもいる。死ぬほど勉強して経済の名門校を出た結果がこれだ。こんな事なら、大工に弟子入りでもするべきだったよ。でもいまさら、職業訓練なんてまっぴら」というコメントは、金融危機になるずっと前から存在していた問題を浮き上がらせる。弊害その二、専攻科目と人気職の偏りだ。


■多過ぎるクリエーター志望

教育改革以来、地味な技術系の職能資格と化学や物理などマジメな学問の人気は地に墜ちた。人気のジャンルは「メディアとクリエーティブ・スタディ」、専攻は「デジタル写真」。大学側は低コストに運営でき入学希望者も多いこの手のクラスをどんどん増やし、今では全国に500近くの写真関連コースがある。就職事情などを調査する公共機関「スキルセット」のリサーチャー、D・コラード氏は「07年の調査では、カメラマンからDPE窓口まで含めても、写真にまつわる職に就いている人は4万4千人しかいない。そこに毎年2万人以上の卒業生が送り出されてくる。学位さえあれば、売れっ子芸術写真家になれると思い込んでいる学生の多さにもあきれるが、何も現状を教えずに授業料だけはしっかり取る学校側にも問題がある」と話す。


■本当に職がないのか

そんなわけで、「こんなはずじゃなかった経済学位保有者」と「仕事のないクリエーター」が、職を求め彷徨している英国。配管工やメカニックから医療、化学研究者まで、日常の生活に欠かせない職業は人気がなく人手不足だ。アンバランスを嘆く声は企業トップからも聞こえる。元英国日産社長の提言でスタートした「技能訓練ネットワーク」の推進スタッフ、N・クイン氏は「大卒者の就職難は、あと3年は続くと見られているが、視野を拡げればやりがいのある仕事は必ずある。政府は、学位神話を振りかざすのをやめ、さまざまな職業の有為性をアピールしなくては。でなければこの国は根底から崩れてしまう」と警鐘を鳴らしている。



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<2009年12月配信の対談>

▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗

 テーマ: 仕事で重要なのは情報と人脈の活かし方(放送時間:97分)
 ※豊富な人脈を誇る現在の中島氏からは想像できない意外な会社員時代の
  エピソードが飛び出します。加えて、いくつかの業界動向や企業分析、変化の
  激しい時代に適応していくための指針、情報をインテリジェンスに昇華させる
  ための方法論が提示されます。

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 <中島孝志>プロフィール
東京生まれ。早大政経学部、南カルフォルニア大学大学院修了。PHP研究所、東洋経済新報社を経て独立。経営コンサルタント、経済評論家、ジャーナリスト、作家 (ペンネームは別) 、出版・映画プロデューサー、大学・ビジネススクール講師、TVコメンテーター等々、多彩な顔を持つ。ビジネスマンの勉強会「キーマンネットワーク(25年の老舗)」「原理原則研究会」「中島孝志の毒書人倶楽部」を主宰。著訳書は200冊超にものぼり、その一部として「頭のいい人のすごい習慣 思考力、情報力、表現力の磨き方」「すごい人脈!一流の人脈、最高の人脈のつくりかた」「サラリーマンよ2つの財布をもちなさい!月10万円の小遣いを稼ぐ副業術」などがある。書籍プロデュース500冊超。
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◎PHP研究所、東洋経済新報社に勤務していた会社員時代
◎キーマンネットワークを長く運営しているモチベーション
◎出版プロデューサーや書籍執筆者として多数の作品を生み出す礎となった経験
◎アパレル業界の動向
◎出版業界の動向、ヒット書籍の仕掛け
◎不況下でも好調な企業の特徴
◎媒体による広告効果の変化と考え方
◎仕事で最も重要なもの
◎キャリア形成の考え方
◎人脈の活かし方
◎情報をインテリジェンスに変換する方法論
◎変化の激しい時代のサバイバル


▼森谷正規(技術評論家)─永江朗

 テーマ: 「戦略の失敗」から学ぶ日本製造業の立て直し(放送時間:106分)
 ※長年、世界の技術を研究されてきた森谷氏の視点から、日本の製造業分野の
  失敗事例とその根本原因を分析していただきます。さらに日本の製造業が優位に
  立てる分野とマネジメント立て直しの方向性について解説していただきます。

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 <森谷正規>プロフィール
1935年生まれ。60年東京大学工学部船舶工学科卒業。日立造船入社、東大工学部原子力工学科助手を経て、67年野村総合研究所入社。同技術調査部副部長などを歴任、87年同所を退社し、技術評論家として活躍。東大先端科学技術センター客員教授、放送大学教授などを歴任。特に経済的、社会的な面を重視した予側、展望、評価や、国際的な技術比較論には定評がある。

85年第1回大平正芳記念賞受賞(『日本・中国・韓国産業技術比較』東洋経済新報社)。 主な著書に『文明の技術史観』(中公新書)、『21世紀の技術と社会』(朝日選書)、『中国経済 真の実力』(文春新書)、『「勝ち組」企業の七つの法則』(ちくま新書)、『政治は技術にどうかかわってきたか』(朝日選書)、『捨てよ!先端技術』(祥伝社)、『戦略の失敗学』(東洋経済新報社)などがある。
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◎1980年代に世界で圧倒的優位にあった日本の半導体産業が凋落した要因
◎HD-DVDがBlu-rayとの規格争いに敗れた理由
◎RDF(固形燃料化)の事業化失敗の理由
◎多くの技術がビジネス化までに至らない要因
◎失敗の根本原因(落とし穴)である12の事項について解説
◎「戦略の失敗」をいかに防ぐべきか
◎ハイブリッド車、電気自動車のゆくえ
◎自動車用電池技術開発の難しさ
◎家庭用燃料電池、太陽光パネル普及による電力業界への影響
◎情報技術がこれから向かう分野
◎日本人の特性を活かしたものづくり。日本と相性のいい製造業とは
◎ 技術力、商品開発力の優位さを事業成果に結びつけられない経営の問題点



<2009年10から11月の対談ラインナップ>

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(株式会社インフォバーン CEO)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 出版・新聞のネオビジネスは業界の外から勃興する)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_719.html

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: 常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html 

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
 (本編から抜粋のテキスト記事:「インテグレーテッド・キャンペーン」で「グルーヴ」を起こす)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_723.html

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事:創造と依存をバランスさせて「仕組み」を活かせ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_724.html



 

 


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