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デンマーク人気女性誌の提言「金融危機を愛する9つの理由」

全世界を深刻な不況に陥れている金融危機。デンマークでも、昨年暮れから企業の倒産や従業員の解雇の報道が続いており、つい先頃も、デンマーク最大の銀行であるダンスケ・バンクで350人、日本にも多くの豚肉が輸出されているデニッシュ・クラウンで850人の解雇が発表された。

しかし、落ち込んでいるばかりのデンマーク人ではない。今年の年頭スピーチで、アナス・フォー・ラスムセン首相も「この記録的な世界金融危機は、必要以上に悲観視すればさらなる危機、混乱、崩壊という負のサイクルにはまり込む可能性がある。その一方で、危機は新しい視点を与える機会とも成りうる。」と語り、「グリーン成長を持って、危機から脱出する策としよう。失敗を恐れるより、成し遂げようとする気持ちが強ければ、全てはいい方向に向かう」と力強く宣言していたっけ。保守的な一面も確実に持ちながら、いざという時は危機さえも、新たなる成長のステップとするポジティブ・シンキングは、デンマーク人の得意とするところだ。

2004年あたりから、日本のバブルのような好景気を謳歌していたデンマーク人女性たちも、ここのところライフスタイルの見直しを迫られている。それほど切羽詰まった状況、というわけではないけれど、あまりひどいことにならないうちに、生活をシフトしようという雰囲気が感じられる。それを後押しするかのように、こちらで一番人気の女性向け週刊誌” Alt for Damerne”(「女性のための全て」の意。発行部数約7万3000)の最近の号でも、「金融危機を愛する9つの理由」という記事が掲載されていたので紹介したい。

その1)
高いワインにさよならできる。→去年までは、専門家に、自分がまるで無教養で
あるかのような扱いを受けながら、やたらに値段の張る、うまく発音もできない
ような高級ワインを買っていたが、それももう終わり。これからは安売り店で
売っている、デンマーク語のラベルのワインでも、十分おいしい一本を探せる。
スクリュー式のキャップのものでも、結構いいものが見つかるものだ。

その2)
肉にこだわりすぎるのをやめられる。→去年までは、ブランドの肉を求めて
何十キロも車を走らせていたが、それももう終わり。これからも、できれば
オーガニックを買うという選択には変わりはないが、ブランドや気取った
大人のメニュー(例えばカルパッチョなど)にこだわりすぎるのをやめ、
昔ながらのフリカデッラ(豚肉のミートボール)、スパゲティ・ミートソース、
ラザーニャを作ろう。そうすれば、作り置きもきくし、何より、子供と一緒の
メニューを食べられる。

その3)
化粧品も、もっと手軽に調達できる。→去年までは、ハリウッドスターが
使うような、特別なオーガニック化粧品を求めて、遠くの店を回るための
綿密な買い物計画が必要だった。でも、それももう終わり。これからは、
近くの薬局やドラッグストアで手に入る廉価な化粧品で十分。でも、
パラベンやアレルギーの原因になるような原料や香料が使われていないか、
品質は要チェック。

その4)
本を買うのでなく、借りられる。→去年までは、これまでないくらいに
推理小説や庭の手入れの本を買っていたが、本は高いし、重いし、場所を
とるので、それももう終わり。これからは、図書館で借りる。そうすれば、
本を借りるだけでない図書館の便利な機能も利用できる。これで、あなたの
家の本棚は、一度読んだきりでもう二度と読まない本の数々から解放される。

その5)
車とのつきあい方について再考できる。→去年までは、4WDがかっこいいと
思っていた。でも、それももう終わり。これからは、燃費が悪く、
CO2排出量も多い4WDをやめて小型車に変えるか、もしくは、いっそのこと
車を手放すという手も。新しい、環境と経済に配慮したとってもモダンな
暮らしにシフトできる。

その6)
見栄をはるのをやめられる。→キッチン、バスルーム、旅行、電化製品…
なんでも新しいものが誰でも手に入るようになり、リッチなのを自慢する
ことの社会的嫌悪感が薄れていたが、それももう終わり。これからは、
会話に「最近何を買ったか」でなく、もっと人間として大事なこと…
例えば人生、信じること、希望、夢について語る時間ができる。おまけに、
家を最新電化製品で埋め尽くすのをやめれば、もっと新聞や本を読むゆとり
ができ、家人もお互いの話をもっとよく聞くようになる。

その7)
運動がタダになる。→オフィスで座って仕事をする多くの私たちにとって、
運動が大切だということはよく理解している。だから、人の勧めるままに、
高い会費を払ってフィットネスクラブに入会していたけれど、
それももう終わり。これからは、タダでできるジョギング、サイクリング、
ウォーキング、縄跳びが毎日のスポーツの日課に。これで、
フィットネスクラブに通う時間からも解放される。

その8)
ストレスからくるショッピングをやめられる。→これまでは、
ストレス解消のために高いインテリア用品や身の回りのものを買っていたが、
それももう終わり。これからは、たとえば高品質でおいしいチョコレートを
少しだけ食べて気分転換。これなら、それほど値は張らない。ただし、
できれば7)の運動と組み合わせ、食べ過ぎに注意。

その9)
古くても、いいものはいいと言える。→これまでは、財布の中身とよく
相談せずに、高いブランドの洋服に手を出していたが、それももう終わり。
これからは、リサイクルショップを利用して、個性を存分に発揮したり、
友人や同僚といらなくなった洋服の交換パーティーをしたりすれば、
ワードローブも一新、お財布の負担も軽くなる。子供服やおもちゃに
ついても同様。

…………


デンマークの人々は、近頃、平静を取り戻しはじめ、私がこちらに住み始めたばかりの頃の、「賢い消費者」に戻りつつある。この金融危機という下降の時期をもポジティブにとらえ、それをバネに、スローライフ、エココンシャス、脱自慢話、無料の運動などを通して、上昇へ転じようというしたたかさが、とても頼もしく思える。

日本は、円高の影響で買い物ツアーが人気を呼んでいると聞く。確かに、お金がある人は使ってくれた方が、経済はよくまわるのだけれど、相変わらず分不相応なブランド品を追い求める姿勢に、そろそろ疑問を感じてもいい頃ではないか? こういう時期だからこそ、社会に本当に必要なもの、自分にとってとても大切なものは何かを、あらためて考えてみるチャンス、という風にとらえることはできないだろうか。立ち止まる機会が与えられたら、そこでどんな次の一歩を踏み出すのかを考え抜くことが、その後の飛躍につながっていくのだと思うが、どうだろう?

 


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