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動画共有サイトとの提携が広がるコンテンツ業界。ユーザーのカヴァー、二次創作を想定したビジネス模索へ

 YouTubeの提携に関して、音楽業界でまたいくつか問題点が出てきたというのは、編集部の同僚・祢屋クンのエントリー(「YouTubeとメジャー・レコード会社提携の一角崩れる。容易でない共存共栄への道」 http://mediasabor.jp/2009/01/youtube_4.html)でも書かれていた通り。ちょうど前回のエントリーを書き終えた直後に、そのワーナーの話が飛び込んできて、筆者も少々驚いた。ワーナーは2006年、大手では真っ先にYouTubeと提携関係に入った先駆者だっただけに…。

 音楽界以外では、日本でも、円谷プロがYouTubeとかなり大胆な提携ぶりを見せたりしている例(http://jp.youtube.com/tsuburaya)なんかもあるだけに、コンテンツ供給者側と、こうしたYouTubeなどの新しいネット・アーキテクチャーとの付き合いの可能性はまだまだ様々な形で模索が続いていくはずだが、だからといってことは決して単純に進んでいくわけではない、ということなのだろう。

 実際、米国では、iTunes Storeが自身のサイトで販売する楽曲のコピー制限(DRM)を全曲で廃止するという発表を行なうなど(コピー制限なし、しかもより普及しているmp3形式のファイルでの音楽配信で売り上げを伸ばしてきているAmazon.comに対抗するという意味があるのだそうだ)、様々な試行錯誤が行なわれるようになってきている。

http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2009/01/07/22019.html


 以前のエントリーで紹介した、米国でユニバーサルがiTunes Storeとの契約更新を拒否というニュースが伝わってきた時も、契約条件でもめたというのがその原因だったし(結局、ユニバーサルはその後もiTunes Storeでの音楽配信を継続しているようだ)、日本のレコード会社の現場の人たちと話をしていても、影響力か強まってきたiTunes Storeの「強引」な手法に、全く不満がないというわけではないようだ。ただ、これらの「軋轢」は、音楽配信やYouTubeを使ったプロモーションが、コンテンツ供給者側にとって、もはや「実験的」な試みなどではなく、よりビジネスの根幹に関わるものになってきているからこそのものなのかもしれない。

 ただ、忘れてはならないのは、インターネット上のこうした21世紀型サーヴィスの存在意義は、必ずしも従来のコンテンツ供給者側からユーザー側へコンテンツを届ける「新たなルート」としてだけのものではないということだ。前回のエントリーでYouTube内でのコピー・バンド(またはカヴァー/トリビュート・バンド)の 増殖ぶりを紹介したのも、このことに少し関係がある。

 今回、ワーナーとYouTubeの提携関係の歴史に関して調べていてたまたま見つけた古いニュース記事の中に、面白いことが書かれていた。少し長くなるが、そのまま引用してみる。

 「一般ユーザーが自社の資産であるコンテンツを『マッシュアップ』することさえ認め、それを通してネットワーク外部性をレバレッジするという戦略まで打ち出した。『コンテンツ』の提供から『(クリエイティブのための)プラットフォーム』の提供という方針の変化は、今後のメディア業界に間違いなく大きな影響を与えると思われる」

○「あのYouTubeがついに?!--ワーナーと提携、音楽を無料・合法配信へ」2006/09/19
http://japan.cnet.com/column/somethingnew/story/0,2000067121,20238069,00.htm 

 
 「マッシュアップ」的な既成のコンテンツの「利用」がそのコンテンツの知名度を上げるのに大きく貢献する場合がある、というのはPerfumeについて書いた時にちょっと触れたことがある。ただし、そうしたコンテンツ利用の際もそうなのだが、トリビュート・バンドがある音楽をカヴァーして演奏する際にも、著作権の見地からは問題がないわけではなかった。カヴァー・バンドたちがプレイする音楽には元の著作権者が存在し、たとえアマチュアであっても、著作権者への支払いなしに、それらの楽曲をプレイした映像をYouTubeで公開すると法律に触れてしまうことになるからだ。しかし、少なくとも日本では、日本音楽著作権協会(JASRAC)とYouTubeとの提携が成立したことにより、そうした状況は大きく変わりつつある。

 突破口を開いたのは、やはり音楽著作権管理事業者のジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)だった。2008年3月、このJRCが同社の管理する楽曲に関し、YouTubeの親会社であるGoogleと包括利用許諾契約を結んだことが発表されたのだ。

○「YouTubeに初の音楽著作権包括許諾・JRC スピッツやラルクもOK」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0803/27/news064.html


 これは具体的には、例えばアマチュア・バンドが、同社が管理する楽曲をカヴァー演奏し、そのオリジナル映像をYouTubeに合法的にアップすることが可能になることを意味する。ユーザーはこうした形で著作権に管理された楽曲を無料で「利用」することが可能になり、それに関する利用料は、Googleが「包括的」に支払う、という形をとるようだ。これは、すでにテレビやラジオ局による著作権料の支払いの際にも使われているのと同様のまとめ払い方式。こうしたところで、YouTubeとテレビのビジネスモデルがニアミスするというのも興味深い動きではある。

 さて、JRCがL'Arc-en-Ciel、スピッツといった人気バンドの楽曲を管理していたこともあって、その契約の影響は決して小さくはなかった。この動きは、すぐに次の団体、イーライセンスに波及。そして、同年10月、ついに日本の著作権管理事業者としては最大手のJASRACも、同様の契約を成立させるに至ったのだ。

http://journal.mycom.co.jp/news/2008/10/23/034/index.html

http://www.youtube.com/press_room_entry?entry=LP36-U6uoSs


 インターネットを主な舞台とした、そうした新しい動きを眺めている中で、偶然ある業界人から、米国のロック・バンド、キッスのジーン・シモンズが、実に面白い発言をしている、という話が偶然聞こえてきた。

 「オレたちがライヴやらなくても、同じような化粧をしたコピー・バンドがライヴをやってくれて、それでオレたちに金が入ってくればいいのさ」

 ご存じの通りキッスは、もともと日本の歌舞伎に影響を受けたメイクをした特異な出で立ちでデビューしたバンドで、一時期、その「仮面」を脱ぎ去って活動していたこともあったが、1996年にオリジナル・メンバーでリユニオン・ツアーに出た際にメイクも復活。現在は、演奏活動以外にもその商品開発などキャラクター戦略の巧みさにおいても、ロック界でも極北のような位置にいるバンドだ。残念ながら上の発言が、具体的にはどういう状況のことを指してなされたものなのかわからない。しかし、今回のYouTubeの動きもそうだが、インターネット上では、その「キャラクター」(もちろん、彼らの扮装をしたカヴァー・バンドもその一形態と言える!)は彼ら自身の直接のコントロールを離れ、自己増殖(註1)していく、しかしそこから一定の著作権使用料だけは彼らの元にしっかりと還元してくる、というようなシステムがすでに実現しつつあるのである。

 こうした動きを、もっぱら著作権を「管理」する側からのシステムの「拡張」であり「進化」であると考えることも可能だろう。だが、ユーザーの利便性という面から言えば、もう少し前向きに考えることもできる。ユーザーによるコンテンツの自由な「利用」を促進するために提唱されている「クリエイティヴ・コモンズ」(註2)にも似た方向性を、そこに見出すことは可能だろう。

 こと音楽ビジネスにおいては、楽譜を売って、それを「利用」して様々な音楽家たちにそのコンテンツを演奏してもらうことが著作権者たる作曲家、作詞家たちの唯一の集金方法だった時代がある。現在の動きはある意味で、音楽ビジネスの方法論が、レコード・メディアの発達により「肥大」する以前の、「原初」的形態へと回帰しつつあることを示しているのではないか、そんな捉え方をしてみるのも面白いと思う。

 

(註1) 
渡辺将人著『オバマのアメリカ―大統領選挙と超大国のゆくえ』(幻冬舎新書)
によれば、2008年の米国の民主党の候補者選挙---大統領選挙を通じ、オバマの
支持者がインターネット上でハイパーな勝手連のごとく自己増殖していくような
システムが稼働していたのだという。こうした「自己増殖」的な動きというのが、
極めてWeb 2.0的なものに筆者には見える。

(註2) 
スタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授らが提唱している考え方で、
文書、動画、音楽や写真をユーザーがより自由に使え、広めることができるように、
著作権者が、その権利の中の「コンテンツの自由な利用を妨げる部分」を放棄する
ことをネット上で敢えて意思表示する、という運動がすでに実現している
(http://www.creativecommons.jp/)。筆者は、この考え方を、メディアサボールの
寄稿者でもある神田敏晶さんの著書『YouTube革命 テレビ業界を震撼させる
「動画共有」ビジネスのゆくえ』(ソフトバンク新書)の中で知った。

 

 


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