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2010年、パッケージメディアの終焉を予期させるいくつかの現象

2009年、ボクにとっての衝撃のトップ3は、
1. twitter 
2. iPhone 3GS
3. Amazon kindle 日本発売 であった。


【1】

twitterブームは、一度忘れられようとしていたクラウドサービスの奇跡の復活。
これはまさしく、UGC(ユーザー醸成コンテンツ)の法則どおり、ある程度、知人の利用が増えたことによりブレイクしたと考えられる。それと「RT」というユーザーが勝手に使いだした拡張ルール。プロトコルは誰かが決めるのではなく、ユーザーに委ねられるというスタイルも新たなトレンドだろう。そして、リアルタイムなウェブ。googleの過去の検索ではなく、「なう」な世界観の共有と数時間先の予定など、自分に関わりのあるニュースが、まるで「回転寿司状態」のように自分を中心として回り始めている。


【2】

そして、iPhone3GSは、もはや“Phone”という名前が不似合いなほど、電話というよりも、“スマートデバイス”としてのニーズが高まってきている。インプレスの調査では、国内スマートフォン市場の46.1%はiPhoneだそうだ。
http://www.impressrd.jp/news/091210/smartphone2010

iPhoneにおいては、電話回線というよりも、むしろ、3Gデータ回線を活用し、iPhoneアプリが9万タイトルも流通している市場が世界に構築できつつあることのほうが驚異の進化だ。Appleにとって、“3G回線網”は、電話という名前を借りた、無線LANインターネット補足網にすぎない。だから「Phone」いう名前は通過点にしかすぎないのだ。
しかも、ソフトキーボードという拡張性の高いインタフェースや、パームトップならではのアプリケーション。音声認識、位置情報、AR、ライブストリーミングとアイデアの数だけ拡張し進化していく。

机と椅子を必要としないこの端末はまさに、人類にとって真のデバイスとなりそうだ。アプリはすべて、企業供給、個人供給に関わらずAppleが直で扱い、Appleが直で販売する。誰も中間で介在するものがいない。アプリケーションは、まるで産地直送に近い製品になっているのだ。しかも、現物はひとつのファイルで共有されている。アトム時代の在庫も流通も不要だ。


【3】

そして、Amazon kindleの日本発売。
世界に向け、英語圏のダウンロードビジネスの国際化の波も押し寄せてきた。なんといっても、最新の洋書がほんの数分で手元にダウンロードして読むことができ、料金回収も同時に行われている点がすごい。さらに、2009年11月末のアップデートで、ネイティブなPDFファイルを表示できるようになったので、長時間、PDFリーダーとしても利用できるようになった。今後はDTP処理レベルで書籍になる前のコンテンツも課金販売が可能になるだろう。もちろん、ポッドキャストなども販売できるようになる。

さらに、Amazonは、「Disc + On Demand」というサービスを2009年12月11日に開始した。これはDVDやBD(Blu-Ray Disc)の購入者に、オンデマンドレンタル用の24時間限定で視聴できるファイルをすぐに提供するというシステムだ。つまり、購入してから、パッケージが届くまでの間に、レンタル用のファイルで先に視聴ができるというサービスだ。

これが進化すると、パッケージが送られてくる頃には、すでに視聴が終わり、パッケージは無用の長物と思う人もいるかもしれない。もしかすると、パッケージが届く前に、すぐにAmazonのマーケットプレイス(中古市場)に出品したいと思う人が登場するだろう。すると、何が起きるのか?

Amazonは、販売して倉庫から一切動いていない新品から、購入代金とマーケットプレイスの二重の費用をとり、人件費もかけずに中古品として販売することができるのだ。早く観たい人は、正規の料金を支払い消費し、その残骸をあとで見る人たちが共有してパッケージを流通させる。そのうち、パッケージは流通をコントロールしにくい中古市場で、何度も売買されるので、メーカーはオンデマンドシステムのデジタルデータのリセールによって視聴行動のトレースを始めることだろう。すると、パッケージ製品は希少価値で高騰化し、マニアックな人や富裕層向けのビジネスへと変化するのかもしれない。

つまり、AmazonやAppleの世界では、すでにパッケージメディアが無用の長物化しはじめている傾向にあるのである。少なくとも、貧乏人はデジタル、金持ちはアナログという、かつての構図とは全く異なる逆転現象が近い将来現れることだろう。

それを証明するのが、技術革新と短くなるパッケージメディアの寿命だ。

VHSは1976年に生まれ、約35年を経て2011年、メインストリームをDVDやHDDへと譲るだろう。そしてCDは、1982年に生まれ、約30年を経て2012年には、ネットワーク販売へ変化するだろう。そして、DVDは、1996年に生まれ、約15年後の2011年、BD(Blu-Ray Disc)に主役の座をゆずりそうだ。このペースで考えると、2003年に生まれたBlu-rayは、約10年後の2013年、2010年に発売される「SD-XC」は、約5年後の2015年には役目を終えるのかもしれない。

デジタルメディアのパッケージは、過渡期の可搬性だけのメディアであり、ネットワークやHDDの進化と共に、大容量、圧縮率、可搬性とのトレードオフで進化をくりひろげてきた。また多くのメーカーはその世代交代をビジネスとしてきたが、それらがネット上で展開されることによって、PCの変化したものがテレビにもなったりするような製品の融合化が起こった。

2010年、21世紀の1/10が終わり、そしてはじまる年。ようやく21世紀のデジタルの姿が見えはじめたのかもしれない。


 

【編集部ピックアップ関連情報】

○DAYS OF MUSIC & MOVIES
 「もうCDは止ーめた――リンの決断」2009/11/28
 リンといえば、アナログ時代には「ソンデッキLP-12」という
 レコード・プレイヤーで知られた英国の高級オーディオ・メーカー
 である。デジタル時代に入ってからも、上の記事にあったように
 「アキュレートCD」や「マジックCD」、「ユニディスク」などの
 デジタル・プレイヤーで人気があったし、往年の名機とおなじ名前を
 もつ「ソンデッキCD-12」をCD25周年モデルとしてリリースしたことも
 話題になった。そのリンが、CDプレイヤーの生産からDSの分野に
 軸足を移すというのはすごい驚きだ。
http://parlophone.blog.so-net.ne.jp/2009-11-28


○未来私考 2009-04-26
 「音楽CDの売上低下が映像ビジネスに影響を及ぼす可能性」
 街のレコードショップが消えてしまう…そのこと自体はもう
 避けがたい…勿論、個別のお店が生き残るための戦略というのは
 きっとあるとは思いますが、全体としてはほとんど淘汰されて
 しまうというのはもはやどうしようもないでしょう。そうなった
 とき、その影響は実は音楽CDだけにとどまらないんですよね。
 音楽CDと併設して売られているDVDの販売にも大きな影を
 落としていくんじゃないかと考えています。
http://d.hatena.ne.jp/GiGir/20090426/1240770803



【ビジネス音声セミナー「ロングインタヴューズ」 ラインナップのPR】

(新聞+雑誌+書籍)×『ロングインタヴューズ』で情報をインテリジェンスに変換 ! 

ネットやケータイの普及で、情報収集の方法は、検索、ニュースサイトの閲覧、
ソーシャルブックマークの閲覧、SNSへの参加など多様化しています。
反面、情報量が爆発的に増えたことで、情報の整理、価値の高い本質的な
情報の抽出は、以前に増して困難になりつつあり、テキストだけでは
伝わりにくいものもあります。

また、新聞や雑誌、書籍などの内容は、自身が所属する業界以外のことについては
実感として理解しにくい面があります。しかし、製品の融合化、業界垣根の
ボーダーレス化が進む世の中にあっては、他業種、他分野で起こっていることを知り、
全体を俯瞰して捉えることを意識しなければ、優れた戦略、企画は立てられません。

折りしも今年、日本経済新聞出版社から発刊された内田和成氏著
「異業種競争戦略」に記載されていることを引用すれば、成熟市場で
始まった顧客の奪い合いは、業界という枠組みを越えた戦い──
“異業種格闘技”であり、ビジネスモデルの戦いです。
銀行vs流通、家電vs光学機器、電気vsガス、広告vs出版など、
これまでは競争相手とは考えられなかった相手と戦う局面が
増えてきています。

ビジネス音声セミナー「ロングインタヴューズ」は経験豊富なインタビュアーが
リスナーの立場にたってゲスト講師に迫り、本人の肉声で経験や考え方が
語られるため、門外漢の分野のことも、わかりやすく頭に入ってくる番組です。
その意味で、書籍や雑誌、新聞などのテキスト情報を補うのに、
うってつけのコンテンツになります。本音で話すゲスト講師の生き方、智恵は、
きっと、あなたの人生、仕事の地平を切り拓く道しるべとなります。

現在のところ、2009年10月、11月、12月にわたって配信の8本分の
中身の濃い対談をランチ1回程度の金額で聴取できますので、
非常にリーズナブルです。 お気に召さないようであれば解約はいつでも可能です。

音声本編の配信先: 株式会社オトバンクが運営する「FeBe」上です。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


<2009年12月配信の対談>

▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗

 テーマ: 仕事で重要なのは情報と人脈の活かし方(放送時間:97分)
 ※豊富な人脈を誇る現在の中島氏からは想像できない意外な会社員時代の
  エピソードが飛び出します。加えて、いくつかの業界動向や企業分析、変化の
  激しい時代に適応していくための指針、情報をインテリジェンスに昇華させる
  ための方法論が提示されます。

<対談の全体概要>
◎PHP研究所、東洋経済新報社に勤務していた会社員時代
◎キーマンネットワークを長く運営しているモチベーション
◎出版プロデューサーや書籍執筆者として多数の作品を生み出す礎となった経験
◎アパレル業界の動向
◎出版業界の動向、ヒット書籍の仕掛け
◎不況下でも好調な企業の特徴
◎媒体による広告効果の変化と考え方
◎仕事で最も重要なもの
◎キャリア形成の考え方
◎人脈の活かし方
◎情報をインテリジェンスに変換する方法論
◎変化の激しい時代のサバイバル


▼森谷正規(技術評論家)─永江朗

 テーマ: 「戦略の失敗」から学ぶ日本製造業の立て直し(放送時間:106分)
 ※長年、世界の技術を研究されてきた森谷氏の視点から、日本の製造業分野の
  失敗事例とその根本原因を分析していただきます。さらに日本の製造業が優位に
  立てる分野とマネジメント立て直しの方向性について解説していただきます。

<対談の全体概要>
◎1980年代に世界で圧倒的優位にあった日本の半導体産業が凋落した要因
◎HD-DVDがBlu-rayとの規格争いに敗れた理由
◎RDF(固形燃料化)の事業化失敗の理由
◎多くの技術がビジネス化までに至らない要因
◎失敗の根本原因(落とし穴)である12の事項について解説
◎「戦略の失敗」をいかに防ぐべきか
◎ハイブリッド車、電気自動車のゆくえ
◎自動車用電池技術開発の難しさ
◎家庭用燃料電池、太陽光パネル普及による電力業界への影響
◎情報技術がこれから向かう分野
◎日本人の特性を活かしたものづくり。日本と相性のいい製造業とは
◎ 技術力、商品開発力の優位さを事業成果に結びつけられない経営の問題点


<2010年1月以降配信予定の対談ラインナップ>

▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)─河尻亨一
▼夏野剛(慶應義塾大学  政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ─本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
▼宮永博史(東京理科大学MOT大学院 教授)─本田雅一


<2009年10から11月公開の対談ラインナップ>

▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(株式会社インフォバーン CEO)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 出版・新聞のネオビジネスは業界の外から勃興する)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_719.html

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: 常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html 

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
 (本編から抜粋のテキスト記事:「インテグレーテッド・キャンペーン」で「グルーヴ」を起こす)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_723.html

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事:創造と依存をバランスさせて「仕組み」を活かせ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_724.html

 

 

 


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