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小飼弾×井上トシユキ対談 創造と依存をバランスさせて「仕組み」を活かせ

  • MediaSabor 編集部


メディアサボールのビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」第六回目の対談企画。プログラム開発者であり、投資家、ブロガーとしても活躍の小飼弾氏と井上トシユキ氏との対話(放送時間 81分)の一場面から切り取った内容を掲載いたします。「仕組み」の活かし方から貧困救済案まで、幅広い話題が奔放に飛び出す対談です。



<小飼弾>プロフィール
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 1969年生まれ。ブロガー/プログラマー/投資家。1991年12月米カリフォルニア大学バークレー校中退。その後、帰国し、ネットワーク技術者として活躍。1996年ディーエイエヌを設立し、代表取締役に就任(現任)。1999年オン・ザ・エッヂ(現ライブドア)のCTO(取締役最高技術責任者)として、上場前の同社の礎を築く。2004年、ブログ「404 Blog Not Found」開始。アルファブロガーに。プログラミング言語Perlのカリスマプログラマーとして活躍。著書に『小飼弾の「仕組み」進化論』、「弾言 成功する人生とバランスシートの使い方」など。
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音声本編の配信先は株式会社オトバンクが運営する「FeBe」上です。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.htm

 

(井上)
───最近よく言われている「クラウドコンピューティング」というキーワードがありますが、これは、そもそもどういうものなんですか。

(小飼)
P2P(ピアツーピア:データの送り手と受け手が分かれているクライアントサーバ方式などと対比される用語で、利用者間を直接つないで音声やファイルを交換するシステムなどが実用化されている)とは逆の方式ですね。要は自分の使うサービスやプログラムが自社内あるいは自身の手元ではなく、外部のデータセンター側にあるのだけれども、それをあまり意識させないような仕組みです。だからホストコンピュータに端末が接続されている形態と似ています。

(井上)
───クライアントサーバ方式と似通った仕組みということですね。

(小飼)
そうです。

(井上)
───中央集権的なサービスなんですね。

(小飼)
その通りです。

(井上)
───P2Pの仕組みがインターネットの向かうべき自然な姿だったように思うのですが、なぜ、逆の方向にいこうとしているんですか。

(小飼)
システムの管理というものが、やはり大変だということです。ネット社会においては、コンピュータさえあればできることがたくさんあるのですが、反面、裏側で様々な管理業務が発生するわけです。たとえば、ハードディスクに蓄積されたデータのバックアップなど、あまり自分でやりたくないような作業があります。こうしたことは規模の経済が働くので、どこかの企業がまとめて集約してやったほうが全体の手間が減ります。

(井上)
───機能や役割が分化していくことによって全体として効率的になるということですね。

(小飼)
ホストコンピューティングの時代と現代のクラウドコンピューティングとの違いが一つあります。クラウドコンピューティングのサービスを提供している企業が、別の企業のクラウドコンピューティングサービスのユーザーでもあるというケースがあります。サーバー間同士のサービスのやり取りがあるのです。それによって、異なるサービスがワンストップで提供されているような形態にもできます。そして、ユーザー側は、自社内でやるべきことを決めると同時に外部のクラウドコンピューティングサービスに依存する部分を何にするかを細かく指定できるようになりました。そのため、ホストコンピューティング時代の全体主義的匂いがあまりないのです。あくまでも利用の仕方はユーザー側が主導権を握っているのでユーザーが主人公なんです。但し、純粋に技術的な見方をした場合には、ホストコンピュータの下に端末がぶら下がっている構造と変わりありません。

(井上)
───こうして話を伺ってますとネットの世界が知らない間に変わってきてるんですね。

(小飼)
ネットが変わっているというよりも、ユーザーが変わったというべきでしょう。

(井上)
───それは、ユーザーの要求が変わってきているということですか。

(小飼)
こういうこともできるのかということがわかると、それを当たり前のように要求するようになるんです。たとえば、写メール(カメラ付き携帯電話を用いて撮影した画像を電子メールに添付して送信するサービス)というサービスがある企業により開始された後に、未提供の企業に対して、ユーザーが要求をつきつけます。すると、未提供の企業が追従する動きになっていきます。だから、どこかが新たなサービスを発見し、実際に運営を始めて、それを面白がる人が多くなっていけば、同様のサービスが次々と立ち上がり全体に広がっていきます。実は、ネット上の変化というのは、ユーザー願望の強さが反映されているといえるのです。ネットの根源的な仕組みは笑っちゃうほど変わっていません。私が学生だった20年前からTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol:インターネットで標準的に使われるプロトコル)の基礎的な仕組みは変わっていません。そこで何をしているかが大いに変わっているんです。当時は電子メール程度だったのが、今ではトラフィック量でいえば動画データの交換が多くなっています。

(井上)
───ユーザーが変わっているんだというところは、自己を起点に考えるという意味で、小飼さんが書籍で書かれている「自己プロデュース」とか「自己経営」と共通する部分があると思うのですが、「仕組み」というものを自ら創っていくことは、なかなか難しいことなのではないでしょうか。

(小飼)
難しいことですが、誰でもやっていることです。難しい仕組みを創ることができなくても、使い方さえ覚えて使い続ければ、それでいい場合もあります。なぜ、クラウド、クラウドと騒がれているのかといえば、自分で創ったり維持したりすることで、あまりに面倒なことは大きな企業に任せればいいじゃないかということなんです。一番大事な仕組みは自分で用意するけれども、それ以外のすでに存在する仕組みは、組み合わせて使ったっていいわけですし、それも立派なシステム設計です。仕組みは全部自分で用意する必要はないんです。

(井上)
───自分が使いやすいように、あるいは使いたいように、今ある仕組みを組み合わせて設計するということですね。

(小飼)
ただ、逆説的にはなりますが、一度は自分でその仕組みを創ることにトライすることで、仕組みとの間合いは取りやすくなります。そういうことを日々やっている人のほうが、どの部分を自分が創って、どの部分を他社に依存すべきかの判断が的確にできますし、無駄に経費を浪費してしまうことを防ぐことができます。いずれにしても、昔に比べれば、現代のほうが環境が整っていることは明白で、ただ同然で使える仕組みが、これほどどっさり存在するわけですから、それを活用しなければ損です。


<対談の全体概要>

◎ウィニー開発の金子被告 逆転無罪判決について
◎学生時代に学んでいたこと。プログラム開発者になった経緯
◎通信のアーキテクチャー Peer to Peer(ピアツーピア)の仕組み
◎P2Pの思想とは逆のクラウドコンピューティングについて。
  ホストコンピューティング時代との違い
◎ユーザーの要求、欲求がネットサービス変化の源泉
◎「仕組み」へのアプローチ、取り組み方。「仕組み」のメリット
◎リーズナブルに利用できる「仕組み」の活用で成功確率は高められる
◎「働かざる者、食うべからず」の是非
◎ベージック・インカムの実現性と原資
◎貧困者の救済は持てる者の社会還元と利用エネルギーの転換が鍵

(2009/10/12 収録)


【ビジネスポッドキャスト「ロングインタヴューズ」 その他の対談ラインナップ】

音声本編の配信先: 株式会社オトバンクが運営する「FeBe」上です。
http://www.febe.jp/podcast/mediasabor/index.html


▼ 鈴木謙介(関西学院大学 社会学部 助教)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 変貌するメガヒットのメカニズム「わたしたち消費」とは)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_707.htm

▼ 神林広恵(ライター)─永江朗
 (本編から抜粋のテキスト記事: スキャンダル雑誌の金字塔『噂の眞相』のつくりかた)
http://mediasabor.jp/2009/10/post_708.html

▼ 小林弘人(株式会社インフォバーン CEO)─井上トシユキ
 (本編から抜粋のテキスト記事: 出版・新聞のネオビジネスは業界の外から勃興する)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_719.html

▼ 梶原しげる(フリーアナウンサー)─永江朗
  (本編から抜粋のテキスト記事: 常識を破壊する「濃いしゃべり」で結果を出せ)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_721.html 

▼ 伊藤直樹(クリエイティブディレクター)─河尻亨一
  (本編から抜粋のテキスト記事:「インテグレーテッド・キャンペーン」で「グルーヴ」を起こす)
http://mediasabor.jp/2009/11/post_723.html

▼ 小飼弾(プログラム開発者)─井上トシユキ
  創造と依存をバランスさせて「仕組み」を活かせ


※12月以降配信予定の対談ラインナップ
▼中島孝志(出版プロデューサー、キーマンネットワーク主宰)─永江朗
▼森谷正規(技術評論家)─永江朗
▼三浦展(カルチャースタディーズ研究所 代表、マーケティング・プランナー)─河尻亨一
▼夏野剛(株式会社ドワンゴ 取締役、慶應義塾大学  政策・メディア研究科特別招聘教授)
   ─本田雅一(テクニカルジャーナリスト)
▼宮永博史(東京理科大学MOT大学院 教授)─本田雅一

 

 

 

 

 


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